低体温症【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【2】

 

来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。

 

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低体温症

 

偶発性低体温で気をつけておくキーワード

 

辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

〈目次〉

 

低体温症ってどんな疾患?

低体温症を発症する機序は、外因性と内因性(例:甲状腺機能低下症など)がありますが、低体温症に対する治療は同じですので、ここでは外因性(偶発性)低体温症について解説します。

 

深部体温35℃未満を低体温症といいます。
体温の測定部位には表面体温と深部体温とがありますが、表面体温は不正確なため、深部体温を測る必要があります表1)。低体温症はその深部体温によって軽症、中等症、重症に分類されます(表2)。

 

表1体温測定の部位

体温測定部位_表面体温_深部体温

 

表2低体温症の重症度

低体温症の重症度

 

高齢者は体温調節機能が低下している上に慢性疾患を持っていることが多く、低体温症が重症化しやすいといえます。中等度から高度低体温症の死亡率は40%に達するという報告もあります。

 

低体温症はどのような状況で起こるか

低体温症は多くの場合、環境温度の低下によって起こります。
特に高齢者や基礎疾患のある患者は短時間で体温低下が起こり、そのために動けなくなって、さらに体温が下がるというケースが多く見られます。

 

自宅内で発症した場合、部屋で暖房をつけていないことが大きな誘因となります。たとえ毛布をかぶって寝ていても、ストーブをつけていても、部屋の床面は気温が低く、容易に低体温症に陥る可能性があります。

 

また、部屋で暖房をつけていても、暖房が効いた部屋の外に出た時に、外気温が低いと低体温症となるケースもあります。
例えば、室内からトイレに立って用を足している時に、急速に体温が低下して動けなくなり、救急搬送された、屋内・屋外で転倒し動けなくなったために低体温症となった、野外生活者が低体温症に陥った、といった患者もいます。

 

低体温症のリスクファクター(危険因子)

低体温症のリスクファクターは以下のとおりです。

 

  • 内科疾患(心、呼吸肝臓、腎、血管系、内分泌系、神経筋疾患、精神疾患、免疫疾患など)
  • 認知症、高齢、生活レベル、外傷
  • 薬剤(精神病薬、鎮静薬、麻薬系、アルコール、タバコ)
  • 環境因子(エアコン、家の構造、衣服など)

低体温性は、高齢で弱った人が発症しやすく、また、実はこれらのリスクファクターは、熱中症と同じです。

 

低体温症の症状

低体温症の症状は体温によって大まかに分類されます(表3)。

 

表3低体温症の重症度による症状

低体温症の重症度別症状

 

軽症の低体温症は、体温低下に対する生体反応(交感神経反応)が起こるために、血圧上昇や頻脈、シバリング(全身の震え)が生じます。
しかし、中等症から重症になるとこのような反応は消失し、血圧が低下し徐脈となり、意識障害が進行します。
重症(=高度低体温症)では、まるで患者は「死んでいるように」見えることがあります。

 

心電図異常

中等度以上の低体温症患者には、心電図異常が出現しやすくなります。特に深部体温が32℃以下となると高率に見られ、心房細動、房室ブロックなどの徐脈性不整脈が出現します。また、J波(Osborn波)という波形が観察されることもあります(図1)。

 

図1低体温症の心電図

低体温症の心電図_J波_Osborn波

 

32℃以下になると、心房細動、房室ブロック、徐脈性不整脈、QTC延長がよく見られる。
J波(Osborn波)は低体温症に特異的な変化ではない。急性心筋梗塞で見られることもある。

 

このJ波は、深部体温が32℃以下で出現すると言われており、心電図QRS波形の最後の部分に見られます。ただし、J波は低体温症に特異的な所見ではなく、心筋梗塞にも見られることがあります。このような心電図異常は、体温が復温されるにつれて消失します。

 

低体温症の処置・治療法:復温

低体温症の治療においては、まず体温を復温(上昇)させることが絶対に必要です。
復温方法には3通りあり、それぞれ受動的復温能動的外部復温能動的内部復温と呼ばれます(表4)。

 

表4復温方法

復温方法_受動的復温_Passive rewarming_能動的外部復温_Active external rewarming_能動的内部復温_Active internal rewarming

 

軽症低体温症では、受動的復温+能動的外部復温(電気毛布など)中等症から重症低体温症では能動的外部復温+能動的内部復温を行います。
重症低体温症で循環動態が維持できない場合、心肺停止を来している場合には、体外循環を考慮します。

 

復温する上での注意点

低体温症で心肺停止を来している症例では、深部体温が32℃になるまでは心肺蘇生をあきらめてはいけません
ただし、血清カリウム濃度が10mmol/Lを超えている場合は、低体温症に陥る前に心肺停止を来していたと考えられ、心肺蘇生は有効ではありません

 

復温時の合併症

①Afterdrop

中枢の血液温が上昇し循環が改善した結果、まだ温まっていない末梢の血液が中枢に還流し、再び低体温症に陥ることをいいます。

 

②Rewarming shock

体温が復温した結果、末梢血管が拡張して循環血液量減少性ショックに陥ることをいいます。

 

復温後の問題

体温が正常に復温したにもかかわらず、意識障害が遷延したり(例:脳梗塞のため動けなくなった)、バイタルサインが安定しない症例(例:穿孔性腹膜炎)に遭遇することがあります。また、体温が正常で意識が清明となった結果、局所の痛みや麻痺が分かり、低体温症に陥った原因を知ることもあります(例:転倒による大腿骨頸部骨折のため動けなくなり、低体温症になった、など)。

 

このような場合、低体温症の治療に続いて、あるいは治療と平行して原因疾患の検索・治療が必要となります(表5)。

 

図2復温してもバイタルサインが安定しない場合

低体温症患者で復温してもバイタルサインが安定しない場合

 

重症低体温症は、このような時に起こる生体反応を隠してしまうため、原因疾患の発見が遅れることがあります。

 

 

愛護的に扱う

衣服が濡れていれば全部脱がせます。その場合、外傷が隠れている可能性も想定して、愛護的に(優しく)接するように心掛けます。

 

体温測定方法を知る

低体温症を疑ったら、体温は必ず深部体温で測定するようにします。直腸温か膀胱温か、血液温なのか、自分の施設で測定できる方法を知っておく必要があります。

 

太い静脈ラインをとる

復温する際、大量の温めた輸液を行うことも想定して、静脈ラインはできるだけ太径の留置針を使用します。

 

いつでも心肺蘇生を行えるように準備

低体温症は重症の場合、いつ心室細動や心静止に陥っても不思議ではないため、低体温症患者が来院したら、救急カートをいつでも使えるよう配備します。

 

復温装置

普段から使用できる復温装置を知ることが、治療開始の早さにつながります。当施設では、室温調節、電気毛布など以外に、外部からの復温に、体温コントロールマット(例:アークティックサン®など)や体外循環装置も使用できるように準備しています。

 

 

低体温症は予防可能な事例が多くあります。また、高齢者が一度低体温症で入院するとADLが大きく損なわれ、その後の生活に支障を来す症例を多く見ます。
低体温症の予防(こたつやストーブではなく室内暖房、高齢者世帯のサポートなど)には、地域を挙げた対策が必要です。

 


[引用参考文献]

 

  • (1)Maxine A. Papadakis,et al.CURRENT Medical Diagnosis and Treatment 2016.McGraw-Hill Education / Medical.2015,1920.

 


[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長

 

芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 看護副部長

 


[Design]
高瀬羽衣子

 


 

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