急性心筋梗塞【ケア編】|気をつけておきたい季節の疾患【1】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
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徳永里絵
桜橋渡辺病院 看護師長・救急看護認定看護師
〈目次〉
1急変する可能性があることを念頭に対応する
急性心筋梗塞の患者さんの治療中に気をつけなければならないポイントは、「急変する可能性があることを念頭に対応する」ということです。
急変の主な原因は不整脈、特に心室頻拍・心室細動や房室ブロックによる徐脈、心破裂、心不全に伴う呼吸状態や循環動態の変調などです。従って、対応中は常に呼吸状態や循環動態の変化がないかをモニタリングし、観察する必要があります。
2室温を温かくし、保温を行う
救急外来での対応中は室温を「温かくすること」も重要です。寒冷刺激が加わってしまうと血管が収縮し、冠動脈の血流がより悪くなります。さらに血圧が上昇することによって、心臓にかかる負担が増えてしまいます。そのため、対応中は室温を温かくし、検査時も掛け物などで肌の露出を最小限にするよう努め、保温を行いましょう。
3患者さんやご家族への配慮を忘れずに
検査の結果から急性心筋梗塞であると診断された場合、カテーテル治療を早く行うための準備が優先となり、患者さんやご家族が病状・治療方針を十分理解できていない状況になっていないかに注意しなければいけません。
検査が行われる前にはきちんと声かけを行うことはもちろんですが、医師から病状・治療内容について説明された後は、不明点の有無を確認します。
患者さんやご家族は、突然、命に関わる病気になったことで、精神的にも危機的な状態に陥り、認識力が低下します。そのため、質問があったときには分かりやすい言葉で丁寧に伝えることが大切です。
状態が急変しやすいからこそ、身体面と精神面ともに十分なアセスメントを行いながら看護していく必要があります。
ナースの視点
1Walk inで来院された場合
急性心筋梗塞の怖いところは「必ず救急外来に搬送されるとは限らない」ということです。「なんか胸が痛いので、ひとまず病院を受診してみよう」とWalk inで来院される患者さんもいます。
基本的に「胸痛」は緊急度の高い疾患として対応します。そしてその中で、危険な胸痛かどうか、すなわち「緊急度の高さ」をトリアージで見抜く必要があります。特に難しいのは、胸痛で来院したものの、「今は症状はないよ~」という患者さんの緊急度を見抜くことです。緊急度を見抜くために一番重要なのは「病歴聴取」です(表1)。
①いつ
②何をしているときに
③どの部位に
④どんな性状の痛みが生じたのか
⑤その痛みはどれくらいの強さだったのか
⑥その痛みはどれくらい持続したのか
⑦何をすると痛みが和らいだのか
⑧痛みが生じるのはどんなときか
⑨今まで高血圧や脂質異常、糖尿病を指摘されたことはあるか
⑩喫煙、飲酒の有無
これらの項目を確認することで、胸痛の性状と心筋梗塞の危険因子の有無を把握します。そして、以下のような情報が得られた場合は緊急度を上げ、対応します。
- 胸痛の性状が圧迫感や重苦しい感じであったり、肩や歯などに放散痛がある場合
- 軽い労作でも胸痛発作が起こるようになった場合や発作頻度が増加しているなどの増悪傾向にある場合
- 安静時にも胸痛発作が生じるようになった場合
このような患者さんには早急に心電図変化の有無を確認し、変化があれば救急外来で速やかに対応できるように調整します。また、検査案内時は車いすに乗っていただくなど、労作による胸痛発作を起こさないよう配慮しましょう。
2救急搬送の場合
救急搬送された患者さんが急性心筋梗塞であった場合、病院に到着した時間からカテーテル治療開始までの時間(door-to-balloon time;DTBT)を90分以内にするのが目標です。
そのため、カテーテル室での時間を考慮した場合、診断のための検査を行う時間や緊急カテーテル出棟準備の時間を含めて救急外来に滞在する時間は30分、長くても40分以内に抑えなければいけません。従って、ナースは、
- ①患者さんの状態観察とケア
- ②診断につながる診察・検査の補助
- ③カテーテル室に出棟する
の3つを安全かつ迅速に行わなければいけません。それぞれ、どのように行えばよいかを以下に説明します。
患者さんの状態観察とケア
Point1 起こり得る状態を予測した観察
搬送後、バイタルサイン測定を含むABCDの評価(表2)を行い、呼吸・循環が安定しているかどうかを確認します。その際、前述したように「不整脈」、「心不全」の徴候がないかの観察も行います。
- A(Airway):気道の評価
- B(Breathing):呼吸(換気)の評価
- C(Circulation):循環の評価
- D(Dysfunction of CNS):中枢神経系の評価
モニター心電図を付けたときには、心拍数だけではなく、心電図変化や不整脈がないかも確認しましょう。
心音・呼吸音の聴診時に、Ⅲ音が聞こえた場合や湿性ラ音が聞こえた場合は、Killip(キリップ)分類を用いて重症度の評価を行います。さらに、Nohria-Stevenson分類(ノーリア-スティーブンソン分類:図1)を用いた評価を行うと、心不全に対する治療方針の予測ができます。
このように心不全の状態を評価することによって、急変するリスクを把握します。その結果、心不全の徴候があった場合は、造影剤による腎機能障害を予防するために行う輸液負荷量の指示を医師に仰ぐ必要があります。
患者さんが起坐呼吸をしている場合は検査時の体位も配慮します。起坐呼吸の患者さんを仰臥位にすると、静脈環流量の増加から心負荷が増大し、心不全を一気に悪化させてしまう可能性があります。そのため、検査に支障を来さず、かつ患者さんの状態変化をさせない程度のギャッジアップを維持するようにします。
また、胸痛の程度が増悪している場合、心筋虚血が増悪している可能性があります。従って、胸痛の程度を必ず把握し、検査中に症状の増悪が起こったときは、必ずバイタルサインの測定と12誘導心電図を施行し、循環動態の再評価を行いましょう。
Point2 心臓へのダメージが最小限となるようにケアを行う
冠動脈が閉塞している場合、心筋酸素需要量を増大させると心筋虚血の悪化につながります。そのため、心臓へのダメージが最小限となるよう酸素投与や硝酸薬・鎮痛薬の投与を行います。ナースは、それらを迅速に実行するとともに、その治療を行う前後のSpO2や血圧の測定、痛みの程度を確認し、評価を行わなければいけません。
そして、労作に伴う心筋酸素需要量増大を回避するため、患者さんには安静にしていただく必要があります。時に、「トイレに行きたい」と希望される患者さんがいらっしゃいますが、自力でトイレに行っていただくのは危険です。床上排泄または尿道バルーン挿入など検査結果を踏まえた対応が必要です。
診断につながる診察・検査の補助
Point 何が行われるのかを把握し、かかる時間を踏まえて行動の優先順位を考える
診断までに最低限必要なのは、「病歴聴取」、「12誘導心電図」、「心筋逸脱酵素の測定を含む採血」、「胸部X線」、「心エコー」です。DTBT短縮のために、まず、ナースは医師が行っている「病歴聴取」を聞きながら業務を行い、同じ情報を何度も聞かないようにしましょう。そして、同時に「12誘導心電図」や「心筋逸脱酵素の測定を含む採血」を行います。
「12誘導心電図」によって、虚血性心疾患を疑う心電図変化がないかを確認し、心電図変化がある場合は、「緊急カテーテル出棟の可能性がより高くなる」と考えて行動するようにします。たとえば、末梢静脈路確保の指示を仰ぐなどを行うと良いでしょう。
また、採血結果が出るまでにはある程度の時間が必要となるため、採血も優先順位を高めて行うようにします。
その後は、撮影にかかる時間が短い「胸部X線」を撮影し、うっ血像や胸水貯留の存在など心不全徴候の有無や程度の把握を行います。さらに、ほかの疾患との鑑別(たとえば、気胸がないかや大動脈解離を示唆する縦隔拡大の所見がないか)を確認しましょう。次に、壁運動異常がないか、など心臓の状態が確認できる「心エコー」の検査に進みます。
なお、①で述べたバイタルサイン測定、心電図モニター装着と今回述べた病歴聴取、12誘導心電図までは、患者来院後10分以内に行うことが望ましいといわれています。
カテーテル室に出棟する
Point 1 やるべきことを明確にし、それらを手分けして行う
出棟するための準備内容は病院によって異なると思いますが、やるべきことを明確にし、重複して行わないよう工夫することで時間短縮につながります。
当院では、前述した酸素投与や硝酸薬・鎮痛薬の投与のほかに、「説明と同意」、「アスピリンやチエノピリジン系薬剤の内服」、「尿道バルーンの挿入」、「下肢末梢動脈の触知確認」、「入院にともない発生する業務(カルテの作成や家族構成・緊急連絡先の確認など)」を行うことに決まっています。
この内容を救急外来担当のナース2人で手分けして行っていくのですが、行う内容をしっかり覚えた上で業務に臨んでいます。さらに、何が行われたのか把握する役割を受け持ちナースが担うことで、業務が重複して行われないように工夫しています。
Point 2 カテーテル室への連絡を忘れない
こちらがいくら準備を早く行ったとしても、カテーテル室の受け入れ準備ができていなければ意味がありません。当院では、カテーテルを施行する方針になった時点ですぐ救急外来からカテーテル室に連絡します。連絡を受けたカテーテル室が医師の手配や受け入れまでの時間などの調整を行い、その間に救急外来は出棟のための準備をします。
このように、カテーテルを施行するという方針が決定した後は、速やかに関係する部署への連絡を行うようにしましょう。
急性心筋梗塞の患者さんへの対応は迅速さを求められますが、業務的なかかわりに偏らないよう注意しなければなりけません。得られた情報を常にアセスメントしながら、しっかりと「看護」を行いましょう。
[文 献]
- (1)西原崇創ほか.久本容子編.胸痛の診断は時間軸で考える.レジデントノート.16(9),2014,1648-88.
(2)林寛之ほか.林寛之編著.胸痛.臨床推論の1st step!Dr.林のワクワク救急トリアージ これであなたもバリバリナース!.大阪,メディカ出版,2014,62-71.
(3)濱本実也.石松伸一監.放散痛,圧迫感,発汗,悪心の4症状でAMIの疑いを伝える.看護の臨床推論 ケアを決めるプロセスと根拠.東京,学研メディカル秀潤社.2014,40-1.
(4) 日本内科学会認定医制度審議会 救急委員会編.S-4 症候論 胸背部痛.内科救急診療指針救急1st Edition.2011,52-7.
(5)前掲書4)K-4 各論 急性冠症候群.130-4.
(6)一般社団法人 日本救急医学会.Ⅲ章 心肺蘇生法・救急心血管治療 6.心血管治療.救急診療指針【改訂第4版】.東京,へるす出版,53-7
(7)前掲書6)Ⅶ章 救急症候に対する診療 7.胸痛. 300-5.
(8)前掲書6)Ⅷ章 急性疾患に対する診療 2.心大血管系疾患. 371-7.
(9)松本幸枝ほか.山勢博彰編.第1章 救急・重症患者と家族の心理状況.看護師による精神的援助の理論と実践 救急・重症患者と家族のための心のケア.大阪,メディカ出版,2014,8-26.
(10)日本循環器病学会監.循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2012年度合同研究班報告)
(11)ST上昇型急性心筋梗塞の診療に関するガイドライン(2013年改訂版).(2017年1月閲覧)
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 看護副部長
[Design]
高瀬羽衣子