術後に尿が少なくても朝まで様子を見ていいの?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「術後の尿量」に関するQ&Aです。
小塚雅也
大阪市立総合医療センター消化器外科
金沢景繁
大阪市立総合医療センター肝胆膵外科部長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
術後に尿が少なくても朝まで様子を見ていいの?
いいえ。術後尿量は循環動態を示す重要な因子であり、きめ細かい対応が必要です。
〈目次〉
術後はなぜ尿が出にくい?
手術を受けると体液バランスが大きく変化します。
手術の侵襲により体液分布が変化し、水がサードスペースに貯留し、開創による不感蒸泄や出血等により循環血液量は低下、尿量は減少します。
サードスペースとは?
手術によって生体が侵襲を受けると、生体炎症反応によって血管壁の透過性が亢進し、普段は血管内にたまっているはずの体液が組織外へ漏出してしまいます。この透過した水分が貯留される部位をサードスペースといい、血管内脱水と浮腫を引き起こします。
術後2~3日で内分泌環境は安定し、サードスペースにあった水分が血管内に戻るため、尿量が増加します(利尿期)。利尿期までの輸液量の調節が難しく、腎不全や心不全を防ぐために慎重な術後管理が求められます。
一般的にどのくらいの尿量が必要?
24時間の尿量が400mL以下の状態を乏尿、100mL以下を無尿といいます。
そして一般的に1時間あたりの尿量が0.5mL/Kg(体重)以下の状態(乏尿)が3時間以上持続する場合、その原因精査と治療が必要になります。
これは乏尿を放置すると、循環血液量の減少による腎不全やショックなどの重大な合併症を招く危険性があるからです(1)。
術後に尿が出なかったらどうする?
術後に尿が出なかった場合に、まず大切なことは、下腹部が張っていないか、尿道カテーテルの屈曲や閉塞がないかどうかを確認することです。また、ドレーンなどからの排液の性状や量のチェックも重要です。
そして、尿の性状や口腔内や皮膚の乾燥の有無等で脱水の有無を評価したうえで、術後指示に従い、輸液負荷や利尿薬の投与等を行います。
術後に尿量減少を確認したら
腎臓への血流量の不足により尿量が減少します(表1)。術後は、術中の出血や麻酔の影響で体液がサードスペースへ移行することによる循環血液量の減少や、手術直後の抗利尿ホルモンの分泌により生理的に乏尿状態となります。
また、ドレーンの排液量、ガーゼの出血量や滲出液量をカウントし、発汗量も考慮します。
輸液量は時間投与量の基本指示を確認しIN/OUTのバランスを計算します。尿が少ない場合、腎後性で尿が出にくいだけか(カテーテル閉塞等)、腎性や腎前性で尿が出ないのかを考えるのが重要です(図1)。
また、心臓や腎臓の併存疾患がないかどうかを確認しておくことも大切です。
「尿量0.5mL/kg/時以下で輸液負荷」という指示をよく見ますが、輸液だけの対応でよいのでしょうか?
最近は過剰輸液の弊害について論じられるようになっているので、輸液の入れすぎもよくないかもしれませんね。
いずれにせよ、尿が出ない原因をきちんと評価したうえで、病態に応じた対応をすべきです。
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[文献]
- (1)今村正之,山岡義生,田中紘一,他:水・電解質 バランス.京都大学大学院医学研究科外科学講座 編,外科研修マニュアル,南江堂,東京,2004: 207.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社