PONV(ポンブ)の対策とは?|術後の悪心・嘔吐

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「PONVの対策」に関するQ&Aです。

 

久保健太郎
大阪市立総合医療センター看護部
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

PONVの対策とは?

 

PONVリスクの高い患者を同定し、リスクに応じた対策を行います。

 

〈目次〉

 

PONVとは?

PONV(postoperative nausea and vomiting、ポンブと呼ばれています)は術後の悪心・嘔吐のことです。その頻度は25~30%とされていますが(1)、日本人ではやや少ないともいわれています(2)。

 

日帰り手術や早期退院の多い欧米では、PONVが退院困難や再入院の原因となることから、その対策には積極的で、エビデンスに基づいたガイドラインがいくつか存在します。しかしわが国では独自のガイドラインはいまだ存在せず、PONV対策が定着していません。

 

PONVを起こしやすい患者

PONVの発生機序はいまだ不詳なことが多いのですが、PONVを起こしやすい患者は明らかになっています。患者要因、麻酔要因、手術要因、それぞれにリスク因子が存在します(表1)。

 

表1PONVのリスク因子

 

患者因子 女性、PONV・乗り物酔いの既往、非喫煙者、若年、片頭痛持ち
麻酔因子 揮発性麻酔薬(セボフルラン、イソフルラン)の使用、亜酸化窒素(笑気)の使用、長い 麻酔時間、術後のオピオイド使用
手術因子 胆囊摘出術、腹腔鏡手術、婦人科手術

Apfel CC, Heidrich FM, Jukar-Rao S, et al. Evidence-based analysis of risk factors for postoperative nausea and vomiting.Br J Anaesth 2012;109:742-753. を参考に作成

 

Apfelら(4)は、これを単純化して4大リスク因子(①女性、②乗り物酔い・PONVの既往、③非喫煙者、④術後のオピオイド使用)として報告しています。4大リスク因子の数が0、1、2、3、4つあると、PONVの予測頻度はそれぞれ、10%、20%、40%、60%、80%になると報告されています。

 

PONVの予防策

PONVの発生頻度は25~30%であるため、手術を受けるすべての患者に予防策を講じることは、医療経済的側面からも好ましくありません。

 

しかし、リスクの高い患者には予防策を講じることが推奨されています。前述したApfelの4大リスク因子の数によってリスク分類し、リスクに応じた対策を行います(表2)。

 

表2PONVの予防策

 

リスク因子の数(予測頻度) リスク分類 対策
0~1個(20%以下) 低リスク 予防策は行わない
2個(40%) 中リスク 予防的に制吐薬を1剤投与
3~4個(60%以上) 高リスク PONVを起こしにくい麻酔方法(*1)の選択作用機序の異なる複数種類の制吐薬(*2)の予防的投与

*1 PONV を起こしにくい麻酔方法
・吸入麻酔薬を使用せずプロポフォールによる全静脈麻酔(TIVA)を行う
硬膜外麻酔による鎮痛を軸とする麻酔を行うことでオピオイドの使用量を抑える
・術後鎮痛もNSAIDs を併用してオピオイドの使用量を抑える

 

*2 PONV に使用できる制吐薬
欧米ではセロトニン作動性(5-HT3 )受容体拮抗薬(オンダンセトロン塩酸塩水和物; ゾフラン® など)やステロイドであるデキサメタゾン(デカドロン)の使用が推奨されているが、わが国ではPONV に 保険適応がない。日本でも使用できる主な薬剤は、ドロぺリドール(ドロレプタン® )、プロクロルペラジン(ノバミン® )、 メトクロプラミドメシル塩酸塩(プリンペラン® )などである。

 

新山幸俊:ERAS プロトコールにおける術後管理・疼痛管理・PONV 対策.医学のあゆみ 2012;240:839-844. を 参考に作成

 

PONVの治療(2,6)

悪心・嘔吐が生じた場合は、まずはPONV以外に悪心・嘔吐の原因になる所見がないかを観察します。例えば腹部膨満(イレウスなど)や胃管の閉塞、他にも低血圧、低酸素血症、電解質異常、不整脈などでも悪心・嘔吐が生じることがあり、このような場合は原因の治療を行います。

 

また術後にオピオイドの投与を行っている場合は、オピオイドによる催吐作用の可能性を考えオピオイドを減量もしくは中止した後に制吐薬を投与します。

 

しかし、わが国では欧米のガイドラインで推奨されている多くの制吐薬が使用できないため、独自のガイドラインの完成が待たれます。

 

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[文献]

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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