術後の鎮静スケールは何を使用する?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「術後の鎮静スケール」に関するQ&Aです。

 

久保健太郎
大阪市立総合医療センター看護部
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

術後の鎮静スケールは何を使用する?

 

人工呼吸中の鎮静評価にはRASSの使用が推奨されています。

 

〈目次〉

 

術後と鎮静

術後に鎮静が必要になる状況には、大手術後や合併症により全身状態が悪化したときに人工呼吸管理が必要になった場合が多いと思います。

 

人工呼吸中の鎮静は、不快感の軽減、人工呼吸器との同調性の改善、呼吸仕事量の減少を主な目的としています(1)。

 

鎮静の評価方法

鎮静は深すぎても浅すぎても弊害があり至適な鎮静レベルがあります。

 

鎮静が深すぎると人工呼吸器関連肺炎(ventilator associated pneumonia:VAP)を起こしやすく、寝たきり状態による廃用症候群褥瘡、深部静脈血栓症・肺塞栓のリスクの増加など、さまざまな弊害があります。

 

浅すぎると人工呼吸器との非同調、不安やストレスの増大による興奮・不穏状態、特に自己抜管が問題になります。

 

そのため鎮静薬を投与する前に、医師や看護師などで協議して目標鎮静レベルを設定することが推奨されています(2)。

 

鎮静レベルを客観的に評価する指標として、鎮静スケールが用いられます。鎮静スケールにはRamsey(ラムゼイ)スケールや鎮静・鎮痛スケール(SAS)、リッチモンド興奮・鎮静スケール(RASS、表1)などがあります。

 

そのなかでもRASSは最も有用性の高い検証が進んでいるとされており、わが国のガイドラインでも推奨されています(2)。ただし施設によって用いるスケールはある程度決められていると思いますので、統一したスケールで定期的に評価することが大切です。

 

表1RASS

 

スコア 用語 説明
+4 好戦的な 明らかに好戦的な、暴力的な、スタッフに対する差し迫った 危険
+3 非常に興奮した チューブ類またはカテーテル類を自己抜去;攻撃的な
+2 興奮した 頻繁な非意図的な運動、人工呼吸ファイティング
+1 落ち着きの無い 不安で絶えずそわそわしている、しかし動きは攻撃的でも活発でもない
0 意識清明落ち着いている  
-1 傾眠状態 完全に清明ではないが、呼びかけに10秒以上の開眼およびアイコンタクトで応答する
-2 軽い鎮静状態 呼びかけに10 秒未満のアイコンタクトで応答
-3 中程度鎮静 呼びかけに動きまたは開眼で応答するがアイコンタクトなし
-4 不快鎮静 呼びかけに無反応、しかし、身体刺激で動きまたは開眼
-5 昏睡 呼びかけにも身体刺激にも無反応

ステップ1:
30 秒間、患者を観察する。
→視診のみによりスコア0 ~+ 4 を判定する。
ステップ2:
①大声で名前を呼ぶか、開眼するように言う。
② 10 秒以上アイコンタクトができなければ繰り返す。
→以上2項目(呼びかけ刺激)によりスコア- 1 ~- 3 を判定する。
③動きが見られなければ、肩を揺するか、胸骨を摩擦する。
→身体刺激によりスコア- 4、- 5 を判定する。

 

日本呼吸療法医学会 人工呼吸中の鎮静ガイドライン作成委員会:人工呼吸中の鎮静のためのガイドラインより引用

 

適切な鎮静は、人工呼吸期間、ICU滞在日数などの短縮、さらには長期予後(長期的な認知機能や精神機能、QOL)にも影響を与えることが明らかになっており、エビデンスに基づいた鎮静方法の実践が求められています(表2)(1)。

 

表2鎮静方法

 

浅めの鎮静レベル RASS -2を下回らないように鎮静レベルを調節する。ただし最重症例においてはその限りではない。
鎮痛薬の併用 疼痛の有無を必ず評価する。適切な疼痛管理で鎮静薬の投与量を減じることができる。
毎日一度鎮静を中断する 患者を覚醒させて鎮静の必要性を再評価し、早期にリハビリテーションを開始する。
看護師主導のプロトコル 医師の包括指示のもと、看護師が目標鎮静レベルに合わせて鎮静薬の投与量を調節する。

 

せん妄の評価

重症患者においては、せん妄も非常に重要な問題です。ICU患者の82%にせん妄が認められ、せん妄を発症すると入院期間が延びるだけではなく、死亡率が上昇するとも報告されています。

 

ICUにおけるせん妄を評価する方法としては、CAM-ICUやICDSCなどがあります。

 

CAM-ICUは患者に質問する必要があり、“そのとき”にせん妄であるのかを判定できます。ICDSCは患者の協力が必要ないため簡便で、1日の状態の変化を見て、せん妄であるのかを判定します。4点以上をせん妄と判定します(表3)。

 

表3ICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)

 

このスケールはそれぞれ8時間のシフトすべて、あるいは24 時間以内の情報に基づき完成される。明らかな徴候があ る=1ポイント、アセスメント不能、あるいは徴候がない=0ポイントで評価する。それぞれの項目のスコアを対応する 空欄に0または1で入力する。

ICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)

 

判定:4 点以上せん妄あり
Bergeron N, Dubois MJ, Dumont M, et al. Intensive Care Delinium Screening Checkllist:evaluation of a new screening tool. Intensive Care Med 2001;27:859-864.Dr. Nicolas Bergeron の許可を得て逆翻訳法を使用し翻訳, 翻訳と評価:卯野木健(筑波大学附属病院),水谷太郎(筑波大学医学医療系救急・集中治療部),櫻本秀明(筑 波大学附属病院)

 

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[文献]

  • (1)Patel SB,Kress JP. Sedation and analgesia in the mechanically ventilated patient.Am J Respir Crit Care Med 2012;185:486-497.
  • (2)日本呼吸療法医学会 人工呼吸中の鎮静ガイドライ ン作成委員会:人工呼吸中の鎮静のためのガイド ライン

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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