腹水・胸水がたまったときは、利尿薬の投与だけでいいの?|術前・術後ケア
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「腹水・胸水がたまった際の利尿薬の投与」に関するQ&Aです。
金沢景繁
大阪市立総合医療センター肝胆膵外科部長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
腹水・胸水がたまったときは、利尿薬の投与だけでいいの?
いいえ。病態に応じた対応が必要となります。
〈目次〉
術後に腹水・胸水がたまる原因は?
手術後にはさまざまな原因により体液の産生と吸収のバランスが崩れ、腹腔内や胸腔内に体液が貯留します。原因としては、肝硬変などの基礎疾患の併存によるもの、剥離、郭清などの手術操作によるもの、輸液過剰によるものなどが挙げられます。
なぜ利尿薬だけではだめ?
術後の腹水・胸水の原因はさまざまで、それぞれに対応が異なります。
縫合不全や膿瘍が原因となる場合にはドレナージが必要であり、安易に利尿薬を使用すると、血圧が低下したり腎機能が悪化する場合もあります。
腹水・胸水がたまったときは、どうすればよい?
ドレーン挿入中は、腹水・胸水の性状や量に注意します。性状が血性の場合には、術後腹腔内、胸腔内出血が考えられ、膿性であったり、腹膜刺激症状がある場合には、縫合不全による腹膜炎などの可能性もあります。
またドレーンがない場合でも、腹水を認めるとともに発熱・腹痛や炎症所見が著明な場合は、腹腔内感染、腹腔内膿瘍による腹水貯留の可能性があり、早急に医師への連絡が必要です。また胸水がたまると、息切れ、呼吸苦、胸部圧迫感などが見られます。
図1に術後右胸水出現例のX線写真を示します。血中酸素飽和度が低下している場合には酸素を投与しますが、胸水により無気肺を併発することが多く、呼吸状態の改善が乏しい場合には利尿薬の投与や胸水ドレナージ等のすみやかな対応が必要です。
感染徴候のない胸腹水に対しては、ラシックスⓇ などの利尿薬を投与しますが、肝硬変で低アルブミン血症をきたしている場合には、循環血漿量のさらなる減少による血圧低下や腎機能障害が見られる恐れがあり注意が必要です。
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社