認知症に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「認知症」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

認知症の患者からの訴え

  • ・「もの忘れが激しくなりました」
  • ・「家に戻る道がわからなくて迷いました」

 

認知症に関連する症状〉

認知症に関連する症状

 

〈目次〉

 

認知症って何ですか?

いったんは正常に発達した記憶や判断力、思考力、知能、注意力、空間認識などの知的機能が低下した状態を認知症といいます。

 

認知症になると、どのような症状が現れるの?

認知症の症状には、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断といった高次の機能の障害による中症状と、中核症状が原因で起こる行動面や心理面の症状である周辺症状(behavioral and psychological symptoms of dementia;BPSD)があります。

 

中核症状としては以下のようなものがみられます。

 

・集中力・注意力が低下し、テレビやラジオに集中できなくなる。

・ものごとの理解が悪くなる

・ 複雑なことを計画したり実行できない、同時に二つのことができない。

・ 最近の出来事が思い出せなくなり(近時記憶障害)、会話で同じことを繰り返す。

・会話の中で「あれ」や「それ」といった代名詞が増える。

・ 重症になると文法を間違えたり、人の言ったことをそのまま繰り返したり、独り言が増加し、最後は話さなくなる。

・道具の使い方や乗り物の乗り方などがわからなくなる(失行)。

・よく知っていた人、場所がわからなくなる(失認)。

 

周辺症状としては、目的もなく歩き回る(徘徊)、攻撃的な言動、大声をあげる、食べ物でないものを口に入れてしまう(異食)、幻覚や妄想、不眠、無気力などがみられます。

 

認知症による記憶障害と「もの忘れ」は違うの?

年齢を重ねるうちに「もの忘れが増えてきた」という方は多いでしょう。これは、加齢によって脳の神経細胞が減少するために起こる老化現象であり、病気ではありません。

 

認知症では、神経細胞の変性・脱落が通常の老化によるものに比べてより早い時期に、また年齢に比してより強く起こります。単なるもの忘れでは、朝食に何を食べたか思い出せないことはあっても、朝食を食べたことは覚えています。これに対して、認知症による記憶障害では、朝食を食べたこと自体を忘れてしまいます。

 

認知症が進行するとどうなるの?

認知機能の低下が進むことで、しだいに身の回りのことができなくなり、1人で生活することが難しくなります。

 

それとともに、周辺症状も頻繁にみられるようになります。末期には、認知機能の著しい低下によってそれまで認識していた家族すらわからなったり家の中で迷ったりします。

 

自発性・意欲が低下して、自分から動いたりすることがなくなり、感情の変化に乏しくなります。同時に、身体機能も徐々に低下し、歩行機能の低下により寝たきりになったり、嚥下機能の低下によって食事が摂れなくなったりします。

 

亡くなる原因としては、誤嚥性肺炎や食事が摂れないことによる衰弱が多いといわれています。

 

認知症の原因になる病気は何ですか?

認知症は、認知機能を担う神経細胞が病的に減少して起こります。その原因となる病気の代表的なものとして、「アルツハイマー病」と「血管性認知症」があります。

 

アルツハイマー病は神経細胞の変性が原因で起こる変性型認知症の代表的な疾患で、性格の変化による攻撃的な行動が目立つピック病やパーキンソン病様の症状を伴うレビー小体型認知症もこれに含まれます。ウイルスによる脳炎や後天性免疫不全症候群(AIDS)の末期、プリオン病などの感染症でも認知症を生じます。栄養欠乏やアルコール中毒など全身疾患による脳の障害も認知症を引き起こします。

 

アルツハイマー病によって認知症が起こるメカニズムは?

アルツハイマー病は、認知機能を担う大脳皮質の神経細胞が変性し、その数が減っていくことによって起こる病気です。

 

その結果、記憶力をはじめとしてそれぞれの神経細胞が担っていた機能が低下し、「認知症になると、どのような症状が現れるの?」にあげたような認知症の症状が出現します。アルツハイマー病では、神経細胞の減少によって脳全体、とくに記憶に関係する側頭葉の海馬に当たる部分が萎縮していきます(図1)。成人の脳の重さは、通常約1400gですが、アルツハイマー病では800~900gにまで減ってしまいます。

 

図1正常の脳とアルツハイマー病の脳の違い

正常の脳とアルツハイマー病の脳の違い

血管性認知症のメカニズムは?

脳の血管に認知症の原因があるものを血管性認知症といいます。

 

血管性認知症の原因としては、脳梗塞が広い範囲で多発することによる場合や、大脳白質の動脈硬化によって血管の内腔が狭くなり、神経細胞に行く血流が減少し、神経細胞が次第に変性・脱落するビンスワンガー病があります。

 

認知症はどのようにしてアセスメントするの?

アセスメントツールを利用し、認知症の程度やどのような機能が衰えているかを客観的にアセスメントします。

 

わが国でよく使用されるものに、「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」があります。長谷川式スケールは、「自分および自分が現在置かれている状況についての認識」「新しく学習したり経験したことを印象づけて覚える」「計算能力」「過去のことを思い起こす、記憶の再生」「常識」の質問からなっています。

 

しかし、アセスメントツールは万能ではなく、これ以外に患者と接することを通じて得たいろいろな情報も参考にすることを、忘れないでください。

 

また、患者の行動を観察するときは、認知レベルの評価に留まらず、たとえば、火の不始末を起こす可能性がないかなど、認知症が患者の生活にどのような影響を与えているかを評価することが大切です。

 

生活に与える影響をみる指標としては、「認知症高齢者の日常生活自立度」(「用語解説 認知症高齢者の日常生活自立度」参照)があります。

 

用語解説 認知症高齢者の日常生活自立度

認知症により、どの程度日常生活の自立が障害されているかを表す指標です(表1)。

 

表1認知症高齢者の日常生活自立度

認知症高齢者の日常生活自立度

 

認知症のケアはどうするの?

尊厳を傷つけないこと、相手の人格を尊重することがいちばん大切です。そのうえで、「どうやって症状が進行しないようにするか」を考え、「今ある機能を維持する」ようにケアしていきます。

 

早期であれば、薬剤で認知症の進行を遅らせることも可能になってきたので、早期診断は重要です。初期には、周囲が認知症と気づかないことが多く、それによる無理解な対応がトラブルをまねいたり、誤った対応が進行を早め、症状を悪化させてしまうこともあります。できるだけ早く認知症の徴候を発見して診断に結びつけ、認知症だということを理解した対応を取るようにしましょう。症状があっても周囲の理解や環境を整えることで、自立した生活を送ることが可能になります。

 

患者のそれまでの人生を知る努力も大切です。それによって一見異常に思える患者の行動が理解でき、ケアの糸口がみえてくることがあります。ピアノが好きだった人ならピアノを弾ける環境を整える、農家の主婦だった人に庭仕事を手伝ってもらう、といったこともいいでしょう。

 

COLUMN 成年後見人制度

認知症の高齢者が、騙されて不必要なものを買ってしまったり、勝手に財産を処分されてしまったり、といった話をにしたことはありませんか。認知症の高齢者が社会生活を営んでいくには、いろいろな危険がたくさんあります。

 

そこで、このように判断能力がなくなってしまった成人本人とその財産を法的に保護するために設けられたのが、成年後見人制度です。 この制度で注目したいのは、「任意後見制度」が新設されたことです。

 

これは、十分な判断力があるうちに、あらかじめ任意後見人(代理人)を指名し、財産管理だけでなく介護・医療サービスなどの詳細な希望についても、事前に十分打ち合わせておくことで、認知症になったとしても可能なかぎり本人の意思が反映されるようにするものです。

 

認知症により引き起こされる記憶力低下にはどう対応すればいいの?

記憶低下を補うための工夫として、「メガネ入れ」「歯ブラシ」など、物がある場所にメモを貼るのもいいでしょう。また、日付や時間を忘れてしまう場合には、カレンダーや時計を目立つところに設置するという方法もあります。

 

認知症により引き起こされる徘徊にはどう対応すればいいの?

行方不明になったり、事故に遭遇するおそれがあるので、衣服に住所・氏名・連絡先を縫いつけるなど、身元が確認できるようにしておきます。あらかじめ近所の人などに事情を説明し、協力を求めることも効果的です。

 

最近では、行方不明になった人の情報を共通して、連絡ができるようなアプリも開発されています。外に出るときには、可能であれば、一緒についていき、適当なところで「戻りましょうか?」と促してみます。

 

認知症により引き起こされる妄想にはどう対応すればいいの?

「2階に泥棒がいる」「財布を盗まれた」といった妄想は、頭から否定してはいけません。

 

「一緒に2階に行ってみましょう」「財布を探してみましょう」というように、理解と共感をもって接することが大切です。

 

※編集部注※

当記事は、2017年1月1日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版

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