認知症に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「認知症」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

認知症の患者からの訴え

  • 「もの忘れが激しくなりました」
  • 「家に戻る道が分からなくて迷いました」

 

認知症に関連する症状〉

認知症に関連する症状

 

〈目次〉

 

認知症って何ですか?

の機能の中で最も高度である、記憶や判断力、思考力、知能、注意力、空間認識など、物事を認知する機能に障害が起こっている状態を総称して、認知症といいます。

 

認知症になると、どのような症状が現れるの?

認知症の代表的な症状が「記憶障害」です。

 

今したばかりのことを忘れてしまったり、聞いたことを覚えられないといった症状が出ます。初期には、金銭管理や簡単な計算などができなくなったりします。

 

また、行動の異常も現れます。目的もなく歩き回る「徘徊(はいかい)」は、問題になる行動異常の代表です。空間認識や記憶の障害のため、徘徊先で自分がどこにいるのかわからなくなってしまうことがしばしばあります。認知症が進行するにつれ、暴言や暴力的な行為を繰り返す、食物でないものを口に入れる、不潔になる、失禁するなど、行動の異常が目立つようになります。

 

精神的な症状を伴うこともあり、「2階に誰かいる」「お金を盗まれた」などの妄想が現れたり、うつになったりすることもあります。

 

さらに、相手の話すことの意味がわからない、物の名前を忘れてしまうといった「失語」や、行動そのものを忘れてしまう「失行」などの症状が出ることもあります。

 

認知症による記憶障害と「もの忘れ」は違うの?

年齢を重ねるうちに「もの忘れが増えてきた」という方は多いでしょう。これは、加齢によって脳の神経細胞が減少するために起こる老化現象であり、病気ではありません。

 

認知症では、神経細胞の変性が通常の老化によるものに比べてより早い時期に、また年齢に比してより強く起こります。単なるもの忘れでは、朝食に何を食べたか思い出せないことはあっても、朝食を食べたことは覚えています。これに対して、認知症による記憶障害では、朝食を食べたこと自体を忘れてしまいます(図1)。

 

図1物忘れと認知症の違い

物忘れと認知症の違い

 

認知症が進行するとどうなるの?

認知症が進行すると、痙攣が起きたり、嚥下障害になったりします。

 

嚥下障害のために食物を誤嚥し、肺炎を引き起こし、これが死因になることもあります。

 

認知症の原因になる病気は何ですか?

認知症は、高度な機能を担う神経細胞が病的に減少して起こります。その原因となる病気の代表的なものとして、①「アルツハイマー病」と②「血管性認知症」があります。

 

アルツハイマー病は神経細胞の変性が原因で起こる変性型認知症の代表的な疾患で、性格の変化のほうが目立つピック病やパーキンソン病様の症状を伴うレビー小体型認知症もこれに含まれます。後天性免疫不全症候群(AIDS)の末期などでも認知症を生じます。

 

①アルツハイマー病によって認知症が起こるメカニズムは?

アルツハイマー病は、高次機能を担う大脳皮質の神経細胞が変性し、その数が減っていくことによって起こる病気です。

 

その結果、記憶力をはじめとしてそれぞれの神経細胞が担っていた機能が低下し、認知症の症状が出現します。アルツハイマー病では、神経細胞の減少によって脳全体が萎縮していきます(図2)。

 

図2正常の脳とアルツハイマー病の脳の違い

正常の脳とアルツハイマー病の脳の違い

 

成人の脳の重さは、通常約1400gですが、アルツハイマー病では800〜900gにまで減ってしまいます。

 

②血管性認知症のメカニズムは?

脳の血管に認知症の原因があるものを血管性認知症といいます。

 

血管性認知症の原因としては、脳梗塞が広い範囲で多発することによる場合や、大脳白質の動脈硬化によって血管の内腔が狭くなり、神経細胞に行く血流が減少し、神経細胞が次第に変性・脱落するビンスワンガー病があります。

 

認知症はどのようにしてアセスメントするの?

認知症のアセスメントは、アセスメントツールを利用し、認知症の程度やどのような機能が衰えているかを客観的にアセスメントします。

 

我が国でよく使用されるものに、「長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)」があります。長谷川式スケールは、「自分および自分が現在置かれている状況についての認識」、「新しく学習したり経験したことを印象づけて覚える」「計算能力」、「過去のことを思い起こす、記憶の再生」、「常識」の質問からなっています。

 

しかし、アセスメントツールは万能ではなく、これ以外に患者と接することを通じて得たいろいろな情報も参考にすることを、忘れないでください。

 

また、患者の行動を観察する時は、認知レベルの評価に留まらず、例えば、火の不始末を起こす可能性がないかなど、認知症が患者の生活にどのような影響を与えているかを評価することが大切です。

 

生活に与える影響をみる指標としては、「認知症高齢者の日常生活自立度」(用語解説参照)があります。

 

<用語解説>認知症高齢者の日常生活自立度

 

認知症により、どの程度日常生活の自立が障害されているかを表す指標です。

認知症高齢者の日常生活自立度

 

認知症のケアはどうするの?

認知症のケアにおいては、尊厳を傷つけないこと、相手の人格を尊重することがいちばん大切です。子どものように扱うことや、「どうせわからないだろう」と人格を無視した言動は、絶対にやめましょう。

 

そのうえで、「どうやって症状が進行しないようにするか」を考え、「今ある機能を維持する」ようにケアしていきます。

 

早期であれば、薬剤で認知症の進行を遅らせることも可能です。逆に、誤った対応が進行を早め、症状を悪化させてしまうこともあります。

 

また、初期には、周囲が認知症と気づかないことが多く、それによる無理解な対応が、トラブルを招くこともあります。できるだけ早く認知症の兆候を発見し、認知症だということを理解した対応を取るようにしましょう。

 

患者のそれまでの人生を知る努力も大切です。それによって患者の行動が理解でき、ケアの糸口がみえてくることがあります。

 

ピアノが好きだった人ならピアノを弾ける環境を整える、農家の主婦だった人に庭仕事を手伝ってもらう—といったこともいいでしょう。

 

肝心なことは、「私はあなたのことを気にかけている」というメッセージを送り続けることです。

 

認知症により引き起こされる記憶力低下にはどう対応すればいいの?

認知症による記憶低下を補うための工夫として、「メガネ入れ」「ブラシ」など、物がある場所にメモを貼るのもいいでしょう。引きこもりがちな人には、外界に関心を持つようにうながしましょう。

 

また、日付や時間を忘れてしまう場合には、カレンダーや時計を目立つところに設置するという方法もあります。

 

認知症により引き起こされる徘徊にはどう対応すればいいの?

徘徊により、行方不明になったり、事故に遭遇するおそれがあるので、衣服に住所・氏名・連絡先を縫いつけておきます。あらかじめ近所の人などに事情を説明し、協力を求めることも効果的です。

 

部屋から出られないように鍵をかけることは望ましくありません。

 

可能であれば、一緒に付いていってあげ、適当なところで「戻りましょうか?」とうながしてみます。

 

認知症により引き起こされる妄想にはどう対応すればいいの?

「2階に泥棒がいる」「財布を盗まれた」といった妄想は、頭から否定してはいけません。

 

「一緒に2階に行ってみましょう」「財布を探してみましょう」というように、理解と共感を持って接することが大切です。

 

コラム『成年後見人制度』

認知症の高齢者が、騙されて不必要なものを買ってしまったり、勝手に財産を処分されてしまったり—といった話をにしたことはありませんか。

 

認知症の高齢者が社会生活を営んでいくには、いろいろな危険がたくさんあります。そこで、このように判断能力がなくなってしまった成人本人とその財産を法的に保護するために設けられたのが、成年後見人制度です。

 

この制度で注目したいのは、「任意後見制度」が新設されたことです。

 

これは、十分な判断力があるうちに、あらかじめ任意後見人(代理人)を指名し、財産管理だけでなく介護・医療サービスなどの詳細な希望についても、事前に十分打ち合わせておくことで、認知症になったとしても可能なかぎり本人の意思が反映されるようにするものです。

 

この制度を活用することにより、高齢者が安心して暮らしていける社会の実現が期待されます。

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック』 (監修)岡田忍/2016年3月刊行/ サイオ出版

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