記憶障害とは・・・
記憶障害(きおくしょうがい、memory disorder)とは、何らかの要因により記憶のメカニズムに障害が生じたものである。
記憶は新しい経験を脳内に保存することを指し、記銘(覚える)、保持(蓄える)、想起(思い出す)という要素を含むが、記憶障害においてはこれらのいずれか、あるいはすべてが障害されることにより、物事が思い出せない、あるいは覚えられないという状態に陥る。
記憶とは?
記憶は大別すると長期記憶と短期記憶に分類される。
新しい経験は海馬で一時的に保存された後、陳述記憶(言葉の意味やエピソードなど意識化できるもの)、非陳述記憶(自転車の乗り方などの動作や技能、手続きといった意識化されないもの)が選択されて大脳新皮質に長期記憶として保存されるが、そのほかの不要な記憶は短期記憶として海馬で消去される仕組みになっている。
記憶障害の種類
(1)健忘症
記憶障害の中で、健忘症は陳述記憶の障害であり、新しいことを覚えられない記銘障害を病態とする前向性健忘と、発症以前のことを思い出せない想起障害を病態とする逆向性健忘がある。一部の記憶が完全に欠落する健忘症に一過性全健忘(transient global amnesia;TGA)がある。中高年に多く、数時間から数日程度で回復する。健忘症はほかに、症状精神病、頭部外傷、てんかん、ヒステリーなどでみられるほか、作話を伴うものとして健忘症候群やコルサコフ(Korsakoff)症候群がある。
(2)物忘れ
加齢によるいわゆる「物忘れ」では、脳の機能低下により想起障害が生じて、物事を思い出すのに時間がかかるようになる。
(3)認知症
脳の機能的・器質的障害を原因とする認知症(アルツハイマー型認知症)での記憶障害は、海馬の萎縮により記銘障害が生じ、物事を覚えられなくなることである。さらに進行すると保持障害、想起障害も顕在化し、個人的な体験などのエピソード記憶も障害されるが、技能などの手続き記憶は晩期まで維持されることが多い。
認知症の原因にはさまざまなものがあり、アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など不可逆的に進行する神経の変性が原因となるものも多いが、正常圧水頭症、HIV脳症、甲状腺機能低下症、慢性硬膜下血腫、神経梅毒などの治療可能な認知症(treatable dementia)を見逃さないことが重要である。