術後の安静は必要?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「術後の安静」に関するQ&Aです。
池田克実
大阪市立総合医療センター乳腺外科部長
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
術後の安静は必要?
いいえ。可能な限り術後早期離床が大切です。手術によっては術当日から離床が始まります。
〈目次〉
なぜ、早期離床をすすめるの?
術後安静臥床を継続することで、さまざまな臓器、器官に好ましくない影響が生じます。
循環・呼吸器系では、機能的肺活量の減少により、無気肺や肺炎を引き起こしたり、循環器系では、循環血液量の低下や特に下肢や骨盤内の静脈血のうっ滞などにより肺塞栓症など重篤な術後合併症につながる可能性があります。
運動器系では、四肢の関節拘縮や筋萎縮、皮膚においては仙骨部など荷重部に褥瘡形成をきたしやすくなります(図1)。
また、長期間の安静臥床により精神的ストレスが高まり、副交感神経を抑制して腸管蠕動遅延なども起こしやすくなるとされています(1)。
早期離床し、歩行することでこれらの術後合併症を減らすことが可能です。
歩行は下肢の筋肉によるポンプ機能で、静脈のうっ滞を減少させ、血栓形成の予防に役立ち、交感神経系を活発にし、心拍出量を増やし、筋・骨格系だけでなく心機能の向上にも役立ちます。また、座位、立位になることで機能的肺活量が増加し、無気肺・肺炎の予防につながります(1)。
早期離床はどのように行う?
麻酔からの覚醒が十分でない術直後は、呼吸・循環動態の安定のため安静臥床が必要になります。
乳がんなど体表の手術では、手術侵襲も小さく、創部痛も比較的軽度で、また手術時間も2~3時間程度と短時間であるので尿道カテーテルも留置せず、より積極的に早期離床を進められます。
当院では、基本的にクリニカルパスに従い、術当日帰室後2時間よりトイレ歩行などから離床を開始しています。
腹部や胸部手術など比較的手術侵襲が大きな場合には、尿道カテーテルの他、ドレーン留置などによって術当日から数日間、安静臥床が強いられますが、その場合にも可能な限り早期離床を目標にしたほうがよいと考えます。
しばらくの間、臥床が強いられる場合でも、意識のある患者では、下肢静脈血栓症や下肢筋力低下の予防観点からも下肢の運動を促し、疼痛の増強やドレーン類の屈曲・閉塞に注意しながら体位変換を行います(図2)。
人工呼吸器管理下などで、意識のない患者でも循環・呼吸動態の変動に留意しながら積極的に体位変換を行い、体位ドレナージによって肺炎など呼吸器合併症を予防することも大切です。
過荷重になっている箇所がないか、ドレーン・ルート類が圧迫していないかをチェックしましょう。
[文献]
- (1)阿部真也,高森啓史,中原修,他:ベッドサイド での処理 術後の体位変換と早期離床.大特集 外 科基本手技アトラス,外科治療 2009;101:420- 426.
- (2)「 厚生労働省“生活支援ニュース”第 4 号.2011 年4月26 日発行,厚生労働省ホームページ内.
- (3)隈元孝子,堀治,山之内明子:ニガテクリアポイ ント& エビデンスがわかる 消化器外科術前術後 の看護技術カラービジュアル講座.消化管ナーシ ング 2012;17:1031.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社