全身麻酔後、ルーチンの酸素投与は必要?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「全身麻酔後の酸素投与」に関するQ&Aです。

 

久保健太郎
大阪市立総合医療センター看護部
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

全身麻酔後、ルーチンの酸素投与は必要?

 

はい。術後合併症で頻度の高い低酸素血症を防止するために、術後数時間は酸素投与を行う必要があります。

 

〈目次〉

 

なぜ全身麻酔後、酸素投与が行われているのか?

全身麻酔後、術後数時間の酸素投与は、低酸素血症の回避、術後悪心・嘔吐(postoperative nausea and vomiting:PONV)防止、手術部位感染(surgical site infection:SSI)防止を期待して行われています(1)。

 

術後低酸素血症とは

全身麻酔後には低酸素血症を含む肺合併症が2~40%の頻度で発生していると報告されており(2)、最も多く見られる術後合併症です。

 

術後に起こる低酸素血症は、術直後から術後数時間の間に起こる術後早期低酸素血症と、術後2~7日目までの夜間に起こる術後遅発性低酸素血症に分けられます。

 

術後早期低酸素血症の原因は、麻酔薬や筋弛緩薬の効果残存による呼吸抑制や上気道閉塞、手術侵襲による無気肺や呼吸機能低下などがあります。全身麻酔後、術後数時間のルーチンな酸素投与はこの術後早期低酸素血症の防止を目的としています。

 

ただし、酸素投与をすることで低酸素血症の発見が遅れる可能性があるため、ルーチンな酸素投与に否定的な報告もあります(3)。この場合は、呼吸数や経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)の綿密なモニタリングが必須です。

 

一方、術後遅発性低酸素血症は、夜間睡眠時に起こり、SpO2はときに50%台まで低下しますが、多くは2分以内に回復し、しばしば反復します。原因は解明されておらず、手術侵襲による無気肺や呼吸機能低下、術後の睡眠パターンの変化による一過性の睡眠時無呼吸ともいれています。

 

酸素投与は術後悪心・嘔吐(PONV)に有効?

過去に術中および術後の高濃度酸素(80%酸素)投与はPONV防止に有効との報告がありました。しかしその後、吸入酸素濃度とPONVの発生率には差はないとの報告が相次いだため、現在ではその効果には否定的な意見が多くなっています。(PONVとは?参照)

 

酸素投与は手術部位感染(SSI)に有効?

現在のところ術中および術後の高濃度酸素投与がSSI防止に有効とする決定的なエビデンスはありません。

 

術後はいつまで酸素投与が必要?

基本的には空気呼吸下でのSpO2が術前値に戻れば酸素投与は必要ありませんが、呼吸抑制や上気道閉塞などの重篤な術後早期低酸素血症の危険性が高い術後3時間程度は酸素投与が必要です。ただし、侵襲の大きな手術や手術終了時間が人手の少ない夜勤帯になるような場合は翌朝までなどと、ある程度余裕をもって酸素投与することが多いです。

 

術翌日には離床も進み、酸素吸入やパルスオキシメーターは外れていることが多いと思いますが、術後1週間程度は日中のSpO2に異常がなくても、夜間睡眠中の低酸素血症にも注意が必要です。

 

コラム酸素投与してもSpO2が上昇しない場合はどうする?

SpO2が上がらない原因を考えることが重要です。術直後に最も多いのは呼吸抑制と上気道閉塞です。どちらも麻酔薬や筋弛緩薬の残存が原因となることが多く、覚醒状態が悪い場合は呼吸数を含めて呼吸状態をベッドサイドでしっかりと観察する必要があります。このような場合には酸素投与だけではSpO2は回復しないことが多く、拮抗薬の投与やエアウェイ挿入、再挿管などが必要になる場合もあります。他には気胸、肺水腫、肺梗塞などが原因の場合もあります。

 

また、慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)や喘息などの慢性呼吸器疾患(chronic respiratory disease:CRD)がある患者への高濃度酸素投与には注意が必要です。SpO2が低いからといって酸素を上げていくと、意識レベルが低下することがあります。これをCO2ナルコーシスといい、病態は高二酸化炭素血症による意識障害です。

 


[文献]

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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