脊椎麻酔後、髄液が漏れて頭痛が起こるというけれど、体位変換は禁止?

『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「脊椎麻酔後の体位変換」に関するQ&Aです。

 

金沢晋弥
大阪市立総合医療センター麻酔科
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長

 

脊椎麻酔後、髄液が漏れて頭痛が起こるというけれど、体位変換は禁止?

 

体位変換や頭部のギャッチアップは可能です。できる範囲で早期離床を進めましょう。

 

〈目次〉

 

なぜ脊椎麻酔後に身体を動かしてもいいの?

最近では脊髄クモ膜下麻酔後の頭痛、すなわち硬膜穿刺後頭痛に対する認識が広まり、その発生頻度は5%以下に低下しているといわれています。その理由には、穿刺針の改良(図1)や麻酔科医の慎重な穿刺操作などが考えられます(1)。

 

図1さまざまな形状の穿刺針

さまざまな形状の穿刺針

 

クインケ針による硬膜の損傷を最小限に抑えるため、スプロット針やウィテカー針といった先端が鋭利でない針が開発された。これらはペンシルポイント針と呼ばれ、頭痛の発生頻度を下げるといわれている。

 

また硬膜穿刺後頭痛に関する研究も進んでおり、一般的には硬膜穿刺後頭痛の予防と体位やベッド上安静とは関係ないと考えられています(2)。

 

脊椎麻酔後に身体を動かしてもいい根拠は?

そもそも硬膜穿刺後頭痛は、硬膜の穿刺部位から脊髄液が漏出し、脳脊髄液が減少することによって起こるとされています(図2)。

 

図2硬膜穿刺後頭痛を引き起こす原因

硬膜穿刺後頭痛を引き起こす原因

 

脳脊髄液が減少すると、体位によって脳が尾側に落ち込んで不自然な力が加わったり、脳血管が拡張するなどして頭痛が起こると考えられていたので、身体を動かすことにより脳脊髄液の漏出が多くなり、頭痛がひどくなるのではないかとの懸念がありました。

 

これに対しては多くの研究がなされていますが、現在のところ、脊髄クモ膜下麻酔後の体位やベッド上安静が硬膜穿刺後頭痛の予防や治療に効果的であったという強い根拠はありません。

 

体位変換はどのように行う?

できる範囲で体位変換や頭部のギャッチアップを行いましょう。ただし、主治医や麻酔科医から特別に安静指示があれば、その指示が優先されます。また全身麻酔と同様に、麻酔後しばらくは呼吸や循環などのバイタルサインや神経学的所見を観察することも重要です。

 

硬膜穿刺後頭痛は、穿刺後数日で発症して1週間程度で改善することが多く、症状は、立位や座位など、頭を起こす姿勢で増悪するのが特徴です。いったん発症してしまうと、体位変換や頭部のギャッチアップには大変な苦痛を伴います。ですから基本的には安静臥床とし、患者の楽な姿勢で経過を観察することになります。

 

対症療法としては、輸液負荷やアセトアミノフェン、非ステロイド系消炎鎮痛薬などがあり、頭痛が長期間改善しない場合は、硬膜外自家血注入法(ブラッドパッチ)も検討する必要があります。また、コーヒー、紅茶などのカフェイン含有飲料は頭痛を軽減させるようです。

 


[文献]

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社

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