薬剤性肺炎の疾患解説

 

この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
より深い知識を習得したい方は、本文内の「目指せ! エキスパートナース」まで読み込んで下さい。
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。

 

今回は、アレルギー性肺疾患である「薬剤性肺炎」について解説します。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

薬剤性肺炎はなかなかの手強い疾患です。

 

通常の肺炎と、大きく違うんですか?

 

薬剤性肺炎の患者さんは、特徴的な画像所見や身体所見がありません。また、特定の副雑音も聴こえません。
そのため、鑑別が難しい疾患なんです。

 

そんなに難しいんですが!? これは、診療やケアが難しそうですね。

 

でも、基礎をしっかり理解していれば慌てることはありません。
ここでは、薬剤性肺炎について一緒にポイントを確認していきましょう!

 

〈目次〉

 

薬剤性肺炎の基礎知識

薬剤性肺炎とは、病気の治療に用いた薬剤によって起こる肺炎です。細菌やウイルスなどに感染して、炎症が引き起こされる一般的な肺炎とは異なります。

 

患者さんによっては、症状が長引いたり、高熱が出たりしても、比較的、元気な場合があります。

 

薬剤性肺炎の原因と病態生理

薬剤性肺炎は、リンパ球好酸球血液中の薬剤に反応して、肺内でさまざまな炎症細胞が免疫応答を起こすことによって生じます。

 

薬剤性肺炎の分類

薬剤性肺炎の症状は、治療に用いた薬剤によってさまざまなものがあります。主な症状として、咳嗽や発熱がありますが、急速に症状が現れて呼吸不全になる場合や、慢性的に経過して目立った症状が出ず、症状に乏しい場合もあります。

 

薬剤性肺炎は、薬剤を投与中の患者さんであれば、常に鑑別に挙げるべき疾患です。特徴的な画像所見や身体所見はなく、肺の組織所見もさまざまなため、診断方法は除外診断になります。特に過去数週間以内のうちに使用を開始した薬剤(健康茶や座薬、サプリメントに至るまで含める)は、まず疑うべきです。

 

薬剤性肺炎の患者さんの画像所見の特徴

薬剤性肺炎の画像所見は、大きく分類するとすれば、図1のように4種類に分類されます。

 

図1薬剤性肺炎の画像所見

 

薬剤性肺炎の画像所見

 

A:びまん性に網状陰影が広がるびまん性肺胞障害パターン(青ライン)。重症化しやすい。
B:網状陰影と気管支拡張を伴うパターン(青ライン)。
C:非区域性の浸潤影を認めるパターン(青ライン)。
D:小葉中心性陰影(微細な粒状陰影のこと)をランダムに認めるパターン(青ライン)。

 

(文献(1)より引用)

 

目指せ! エキスパートナース①非区域性とは気管支の走行を無視した陰影の広がり

肺の領域を分ける際、一般的には「肺野」や「葉」といった言葉を使用しますが、「区域」といった言葉を使用することもあります。例えば、右肺の上葉部分を、肺尖区や後上葉区、前上葉区といった具合で表します。

 

実は、この分け方は、気管支を基準にして、肺の境界分けを行っています。そのため、X線やCT画像で、「病変が非区域性にある」という言葉を目にした場合は、気管支で境界される区域を無視した病変の広がりがあることを意味しています。

 

なお、呼吸器を専門にしない看護師の皆さんは、肺の位置関係を示す言葉は、「肺野」や「葉」を使用した名称で覚えておけば十分です。

 

memo薬剤性肺炎の患者さんの原因薬剤

66症例(n=66)の薬剤性肺炎の患者さんを調査し、原因薬剤を調べました。

 

その内訳は、抗腫瘍薬が42%(n=28)抗リウマチ薬が24%(n=16)、抗不整脈薬が9%(n=6)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が6%(n=4)、漢方薬が5%(n=3)、その他が14%(n=9)です(図2)。

 

図2薬剤性肺炎の患者さんの原因薬剤の内訳

 

杏林大学呼吸器内科における薬剤性肺炎の患者さんの原因薬剤の内訳

 

(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科の調査結果をもとに作成)

 

聴診時に気を付けるポイント

薬剤性肺炎の患者さんに聴こえる決まった異常音というものはありません。水泡音と捻髪音のどちらも聴こえる可能性があります。

 

薬剤性肺炎は、肺のすべての領域で障害が起きていることが多いため、前胸部と背部ともに、特に肺胞呼吸音が聴こえる位置をまんべんなく聴くことが大切です(図3)。具体的には、前胸部、背部ともにすべての位置の音をしっかりと聴きましょう

 

図3薬剤性肺炎の患者さんに行うべき聴診の位置

 

薬剤性肺炎の患者さんに行うべき聴診の位置

 

前胸部と背部ともにまんべんなく音を聴きましょう。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

すべての薬剤性肺障害に当てはまるわけではありませんが、薬剤熱かどうかの判断は表1を確認しましょう。

 

表1薬剤熱の判断のポイント

 

 

(1) 悪寒、戦慄を伴うことがよくある
(2) 比較的徐脈は多くない
(3) 末梢血の好酸球数の増加は軽度
(4) 投与開始から発熱までの平均的な日数は21日
(5) 抗腫瘍薬はより短い時間で発熱(平均6日)
(6) 抗不整脈薬を内服開始してから発熱までの日数が長い(平均44.7日)
(7) 年齢によらず、高熱になる頻度が高い(38℃以上)
(8) 除外診断であるが、休薬後2~3日で解熱傾向にある(2)

 

目指せ! エキスパートナース②比較的徐脈の覚え方

通常は、体温が1℃上昇するにつれ、脈拍は10回/分程度上昇します。しかし、比較的徐脈の場合、発熱の程度ほどは脈拍が上昇していない状況になります。この比較的徐脈は、Cunhaによって表2のように定義されています(3)

 

表2比較的徐脈の定義

 

 

体温(℃) 脈拍(回/分)
38.3 110
38.9 120
39.4 120
40.7 130
40.6 140
41.1 150

表内の脈拍数より下の数値になった場合は、比較的徐脈を疑います。

 

例えば、39℃で脈拍が最低でも110回/分になっていなければ、比較的除脈を疑います。39℃で110番と覚えましょう!

 

比較的除脈は、マイコプラズマ肺炎やレジオネラ肺炎、チフス、パラチフスなどの細胞内寄生菌による感染症や、膠原病や薬剤性発熱、悪性腫瘍などでもみられることがあります。

 

Check Point

  • 薬剤性肺炎の患者さんを聴診する場合、肺のすべての領域で障害が起きている可能性が高いため、前胸部と背部ともにまんべんなくしっかりと聴こう。

 

次回は、実際の薬剤性肺炎の患者さんの聴診音を聴いて、特徴をしっかりと覚えましょう。

 

[次回]

薬剤性肺炎患者さんの聴診音

 

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  • ⇒『聴診スキル講座』の【総目次】を見る

 


 


[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志

 


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