薬剤性肺炎患者さんの聴診音

 

この【実践編】では、呼吸器内科専門医の筆者が、疾患の解説と、聴診音をもとに聴診のポイントを解説していきます。
ここで紹介する聴診音は、筆者が臨床現場で録音したものです。眼と耳で理解できる解説になっているので、必見・必聴です!
より深い知識を習得したい方は、本文内の「目指せ! エキスパートナース」まで読み込んで下さい。
初学者の方は、聴診の基本を解説した【基礎編】からスタートすると良いでしょう。

 

[前回の内容]

薬剤性肺炎の疾患解説

 

今回は、アレルギー性肺疾患である「薬剤性肺炎患者さんの聴診音」について解説します。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

薬剤性肺炎の患者さんは、特定の副雑音が聴こえるという決まりがありません。
そのため、診断をする際にとても困るんです。

 

初期の肺炎の患者さんだと、水泡音が聴こえることが多いんですよね。
これは、薬剤性肺炎も同じではないんですか?

 

いいえ。薬剤性肺炎の場合は、水泡音と捻髪音、どちらの音も聴こえる可能性があるんです。
ここでは、1人の気管支喘息の患者さんの症例をもとに、聴診音を紹介します。

 

〈目次〉

 

症例:術後胃癌が再発し、薬剤性肺炎が合併した患者さん

ここでは、術後癌が再発して、薬剤性肺炎が合併している患者さんの症例について簡単に解説します。自分が担当する患者さんだと思って、イメージしてみてください。その後、実際の聴診音を聴いてみてください。

 

【72歳、男性】

 

主訴:なし。

 

現病歴:胃癌術後の副腎転移、高血圧で治療中。1週間前からシスプラチンとS-1で全身化学療法を開始した。

 

画像所見:3ヶ月前の胸部X線では、左下肺野に陳旧性慢性期)の変化を認めるが(図1A)、その他の粗大病変はなし。現在の胸部X線でも、左下肺野に陳旧性(慢性期)の変化を認めるが、右下肺野に浸潤影も認める(図1B)。

 

図1薬剤性肺炎の患者さんの胸部X線画像

 

薬剤性肺炎の患者さんの胸部X線画像

 

A:3ヶ月前の胸部X線です。左下肺野に陳旧性(慢性期)の変化が見られます(青丸)。
B:現在の胸部X線です。左下肺野に陳旧性(慢性期)の変化(青丸)と、右下肺野で浸潤影が見られます(黒丸)。

 

胸部CTでは、左上葉に淡い網状影(図2A)と、右中葉および下葉に浸潤影を認める(図2B)。浸潤影の周囲には淡い網状影がある。

 

図2薬剤性肺炎の患者さんの胸部CT画像

 

薬剤性肺炎の患者さんの胸部CT画像

 

A:左上葉に淡い網状影が見られます(黒矢印)。
B:右中葉と下葉に浸潤影が見られます(青ライン)。

 

身体所見体温 36.8℃、SpO2 98%、HR 70/min、呼吸数 14回/min、血圧 140/60と安定。

 

聴診音:背部の右下肺野で聴こえる代表的な薬剤性肺炎の副雑音

 

ココを聴こう!

1秒直前・4秒・8秒前付近:「プツプツ」という音

 

  • 本症例では、息を吸った後、少ししてからやや高い音の捻髪音が聴こえることが特徴です。
  • 本症例で聴こえるラ音を呼吸時のタイミング(呼吸相)で分類してみると、吸気の途中から後半にかけて増強する捻髪音に分類できます。

 

ナースへのワンポイントアドバイス

聴診音は、病態を反映しています。患者さんの日々の病態によって、聴こえる音は常に変化するということを認識しましょう。

 

また、捻髪音が聴こえる場合は、肺胞領域で間質の線維化があると考えましょう。

 

目指せ! エキスパートナース①薬剤性肺炎の病態を聴診音で予想する

症例①で聴こえる捻髪音の発生原因を考えると、肺胞領域の間質が線維化(図3)しているからだと考えられます。

 

図3薬剤性肺炎による肺の間質の線維化

薬剤性肺炎による肺の間質の線維化

 

線維化した肺胞は、正常な肺胞と比べて形が変わっています。

 

これは、薬剤性肺炎を繰り返し発症したことで、間質性肺炎を発症したことが原因です。そのため、症例①では、高い音である捻髪音が混じって聴こえていると予想できます。なお、この患者さんのX線検査による異常な陰影や聴診所見も残っています。

 

このように、薬剤性肺炎は、画像所見と病理学的所見が多彩です。そのため、病態が改善しているかどうかは、経過から判断する必要があります治療法は、疑わしい薬剤を中止することが原則になりますが、低酸素血症の出現など、臨床症状が改善されなければステロイド薬を投与する場合もあります。

 

時期をおいて聴診を行った場合、捻髪音が聴こえなくなっていれば治癒過程だったと判断できます。

 

目指せ! エキスパートナース②捻髪音が聴こえる原因と発生位置は異なる

捻髪音が聴こえる場合は、肺胞領域で間質の線維化を伴っている場合が多くあります

 

しかし、通常、肺胞領域は空気の流れがきわめて遅く、呼吸音の発生に関与していません(『呼吸音が聴こえる仕組み』を参照)。そのため、聴こえる捻髪音は、間質の線維化を伴っている部分で発生しているというよりも、その中枢にある閉塞した気管支が、空気の流入によって急速に開く音だと考えられます。

 

少し難しいかもしれませんが、ちょっとイメージしてみると、古い家(線維化のある肺)のたてつけの悪いドア(肺胞領域より中枢の気管支)を開けようとしたら(吸気時に空気が流入してきたら)、「バンッ」とあるところで音がして、ドア(気管支)が急に開くような感じです(図4)。

 

図4線維化した肺に突然、空気が入るイメージ

 

線維化した肺に突然、空気が入るイメージ

 

線維化した肺に突然、気管支が開いて空気が入る様子は、たてつけの悪いドアが急に大きな音を出して開くイメージです。

 

Check Point

  • 薬剤性肺炎の患者さんでは、水泡音や捻髪音が聴こえる。本症例では、ブツブツという捻髪音が聴こえた。

 

 

[関連記事]

 

*聴診音は、筆者が実際の症例で収録したものです。そのため、一部で雑音も入っています。

 

 


 

[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志


協力:株式会社JVCケンウッド


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