甲状腺ホルモン|内分泌
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
今回は、甲状腺ホルモンについて解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 1. 甲状腺ホルモンは代謝を亢進させる。
- 2. 甲状腺から分泌されるホルモンの大部分はT4で、これがT3になって生理作用を発揮する。
- 3. バセドウ病では、TSHが低下し、free T3およびT4が増加する。
- 4. 橋本病では、TSHが上昇し、free T3および T4は正常である。
- 5. バセドウ病や橋本病は自己免疫疾患である。
T3とT4
甲状腺ホルモンには、代謝を亢進させるトリヨードサイロニン(triiodothyronin、T3)およびサイロキシン (thyroxin、T4)と血漿Ca2+濃度を低下させるカルシトニン(calcitonin)がある。
T3およびT4は、いずれもアミノ酸型ホルモンであるが、ベンゼン環を2個もつので脂溶性である。ヨウ素原子(I)を3個もつ化合物が T3、4個もつ化合物がT4である(図1)。
図1T3およびT4の化学構造
血中濃度は、T3が0.06~0.2μg/dL、T4が4.5~13μg/dL であり、甲状腺から分泌されるホルモンの大部分(99%)はT4である(T4のほうがT3よりも100倍近く高濃度)。
T4は、末梢組織にある脱ヨード酵素の働きでI原子が1個取れてT3になり、生理作用を発揮する。T3もT4も血中では、サイロキシン結合タンパク質(サイロキシン結合グロブリン〔thyroxine bindingglobulin〕、プレアルブミン〔prealbumin〕およびアルブミン 〔albumin〕)と結合して存在する。ホルモン作用は、タンパク質から離れた遊離型(free T3およびT4)になって発現する。
甲状腺ホルモン異常による疾患
甲状腺機能亢進症(hyperthyroidism、表1)を米英ではグレイブス病(Graves disease)、ドイツではバセドウ病(Basedow disease)とよぶ。我が国では、ドイツ医学の伝統でバセドウ病とよばれることが多い。甲状腺腫、頻脈、振戦、体重減少、総コレステロール低下、筋力低下などがみられる。
表1甲状腺機能の亢進および低下(自己免疫性TRAb病)
全例ではないが、40~70%に眼球突出がみられる。TSHが低下し、血漿タンパク質に結合していないfreeの T3またはT4が増加していればバセドウ病が考えられる。さらに自己抗体のTSH受容体抗体 (TSH〔thyrotropin〕receptor antibody〔TRAb〕)の刺激型(TSH受容体をTSHと同様に刺激する)が高値で、抗サイログロブリン抗体(anti-thyroglobrin antibody〔TgAb〕)または抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(anti thyroid antibody〔TPOAb〕)が高値であればバセドウ病と診断される。
甲状腺機能低下症(hypothyroidism)は、成人においては粘液水腫(myxedema)とよばれ、皮膚乾燥、動作緩慢などが特徴である。新生児甲状腺機能低下症(hypothyroidism of the newborn)は、クレチン症 (cretinism)とよばれ、発育および知能の発達障害が特徴である。TSHが上昇し、free T3およびT4が正常または低下していれば橋本病(Hashimoto disease〔慢性甲状腺炎〕)が考えられる。
さらにTRAbの阻害型(TSH受容体に対するTSHの作用を阻害する)が高値であれば橋本病と診断される(表2)。
表2甲状腺機能低下症(hypothyroidism)
橋本病は圧倒的に女性に多い(男女比:1:10~1:20)。原発性の甲状腺機能低下の大部分は橋本病である(橋本病は、1912年に九州大学の橋本策博士によって報告された)。
当記事は公開時点で、一部誤りがございました。
2024年11月7日に、正しい情報に修正しました。修正の上、お詫び申し上げます。
(誤)T4とT4
(正)T3とT4
※編集部注※
当記事は、2017年2月19日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版