甲状腺ホルモン|内分泌
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
今回は、甲状腺ホルモンについて解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
T4とT4
甲状腺ホルモンには、代謝を亢進させるトリヨードサイロニン triiodothyronin (T3)およびサイロキシン thyroxin (T4)と血漿Ca2+濃度を低下させるカルシトニン calcitonin がある。T3およびT4は、いずれもアミノ酸型ホルモンであるが、ベンゼン環を2個もつので脂溶性である。ヨウ素原子(I)を3個もつ化合物がT3、4個もつ化合物がT4である(図1)。
血中濃度は、T3が0.06~0.2μg/dL、T4が4.5~13μg/dLであり、甲状腺から分泌されるホルモンの大部分(99%)はT4である(T4のほうがT3よりも100倍近く高濃度)。T4は、末梢組織にある脱ヨード酵素の働きでI原子が1個取れてT4になり、生理作用を発揮する。T3もT4も血中では、サイロキシン結合タンパク質(サイロキシン結合グロブリン thyroxine binding globulin、プレアルブミン prealbumin およびアルブミン albumin)と結合して存在する。ホルモン作用は、タンパク質から離れた遊離型(free T3およびT4)になって発現する。
甲状腺ホルモン異常による疾患
甲状腺機能亢進症 hyperthyroidism を米英ではグレイブス病 Graves disease、ドイツではバセドウ病 Basedow disease とよぶ。我が国では、ドイツ医学の伝統でバセドウ病とよばれることが多い。甲状腺腫、頻脈、振戦、体重減少、総コレステロール低下、筋力低下などがみられる。
全例ではないが、40~70%に眼球突出がみられる。TSHが低下し、血漿タンパク質に結合していないfree のT3またはT4が増加していればバセドウ病が考えられる。さらに自己抗体のTSH受容体抗体TSH(thyrotropin)receptor antibody(TRAb)の刺激型(TSH受容体をTSHと同様に刺激する)が高値で、抗サイログロブリン抗体 anti-thyroglobrin antibody(TgAb)または抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体 anti-thyroid antibody(TPOAb)が高値であればバセドウ病と診断される。
甲状腺機能低下症 hypothyroidism は、成人においては粘液水腫 myxedema とよばれ、皮膚乾燥、動作緩慢などが特徴である。新生児甲状腺機能低下症 hypothyroidism of the newborn は、クレチン症 cretinism とよばれ、発育および知能の発達障害が特徴である。TSHが上昇し、free T3およびT4が正常または低下していれば橋本病 Hashimoto disease(慢性甲状腺炎)が考えられる。
さらにTRAbの阻害型(TSH受容体に対するTSHの作用を阻害する)が高値であれば橋本病と診断される(表1)。
橋本病は圧倒的に女性に多い(男女比:1:10~1:20)。原発性の甲状腺機能低下の大部分は橋本病である(橋本病は、1912年に九州大学の橋本策によって報告された)。
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[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版