発熱物質|体温とその調節
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、発熱物質について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 外因性発熱物質は、グラム陰性菌の細胞膜成分のLPSである。
- 外因性発熱物質は、単球やマクロファージを刺激して内因性発熱物質を産生する。
- 内因性発熱物質は、BBBにCOX-2を誘導して脳内にプロスタグランジンを産生する。
- プロスタグランジンは、体温調節中枢の視床下部に作用してセットポイントを上昇させて発熱を起こさせる。
- 解熱薬は発熱物質の産生を阻害して発熱を抑える。
- 発熱は免疫機能を賦活するので解熱薬の使用には注意が必要である。
- 内毒素の実体は、グラム陰性菌の細胞膜の構成成分であるLPSである。
- 外毒素の実体は、タンパク質系の毒素である。
- 内毒素は、発熱作用が強いが、毒作用は弱い。
- 外毒素は、発熱作用は弱いが、毒作用が強い。
外因性発熱物質と内因性発熱物質
生体内に侵入した外因性発熱物質 exogenous pyrogen は、単球 monocyte、マクロファージ macrophage などの食細胞 phagocytes に取り込まれると、インターロイキン 1interleukin-1 (IL-1)、腫瘍壊死因子 tumor necrosis factor(TNF)、インターフェロン interferon (INF)、コロニー刺激因子 colony-stimulating factor(CSF)、マクロファージ炎症ペプチド macrophage inflammatory peptide-1 (MIP-1)などの内因性発熱物質 endogenous pyrogen を分泌する。
内因性発熱物質は血液-脳関門 blood-brain barrier (BBB)を通過し、脳内でアラキドン酸カスケード arachidonic acid cascadeを経てプロスタグランジン prostagrandin を産生する。これが、体温調節の中枢である視床下部 hypothalamus に働いて体温調節の基準値(セットポイント)を移動させ、熱産生を起こさせる。
アラキドン酸カスケードでプロスタグランジン類を産生する反応はシクロオキシゲナーゼ cyclooxygenase (COX;コックスとよばれる)によって進行する。アスピリン aspirin やインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬nonsteroidal antiinflammatory drug (NSAID;エヌセイドとよばれる)はCOXを阻害するので解熱薬として使われる(消化性潰瘍参照)。
非ステロイド系抗炎症薬のなかで酸性を示さないものは、塩基性抗炎症薬 basicnonsteroidal antiinflammatory drug とよばれ、COX阻害作用は弱い。IL-1、TNF、INF、MIP-1などの内因性発熱物質が免疫賦活物質であることから分かるように、発熱は免疫作用を活性化させる。したがって、発熱に対する解熱薬の使用は慎重でなければならない。
代表的な外因性発熱物質は、グラム陰性細菌 gram-negative bacterium 表層のペプチドグリカンとリン脂質層を取り囲む外膜の重要な構成成分で、これをリポ多糖 lipopolysaccharide (LPS)という。LPSは、内毒素 endotoxin ともよばれる。内毒素に対してグラム陽性菌 grampositive bacterium が産生するタンパク質を外毒素 exotoxin という。内毒素と外毒素を比較すると表1のようになる。
ライ症候群〔 Reye syndrome 〕
乳幼児期に発症する急性脳症の1つ。インフルエンザ、水痘などのウイルス感染やその解熱薬としてのアスピリン投与が誘因であると考えられている。(Reye RD, Morgan G, Baral J :Encephalopathy and fatty degeneration of the viscera.A disease entity in childhood. Lancet. 1963 ; 282 : 749-752.)
NursingEye
アスピリンが引き金となり乳幼児にライ症候群が発症する危険性があるので、小児用の解熱薬にはアスピリンを含まないものを使用する。アセトアミノフェン acetaminophen が主成分の非アスピリン製剤として小児用バファリン®などがある。
[次回]
発熱
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版