ガス交換の力学的解析|換気力学の三要素|呼吸
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、ガス交換について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
〈目次〉
換気力学
肺におけるガス交換(換気)は、①胸腔内圧 intrapleural pressure (P)、②換気量 ventilation volume (ボリューム)(V)、③換気速度 flow (フロー)(=dV/dt)を用いて物理的に解析できる。この3つを換気力学の三要素という。この三要素間の関係は以下の式で示される。
ここでCおよびRは、それぞれコンプライアンス compliance および気道抵抗 airway resistance である(図1、表1)。
電気容量(C)のコンデンサーと電気抵抗(R)の抵抗が電圧(E)の電池と直列につながった図1のような回路において、コンデンサーに蓄えられる電荷(q)、抵抗を流れる電流(i=dq/dt)は、以下のように表される。
E=q/C+Rdq/dt
上式を換気の三要素の関係式(P=V/C+RdV/dt)と対比させると、表1のようなアナロジー(類似)があることが分かる。
時定数
RCの積は、換気の場合も電気回路の場合も、時定数 time constant で、単位は秒である。
一般に指数関数的減少あるいは増加を示す現象において、時定数は初期値の1/e(e:自然対数の底≒2.718)まで変化する時間として定義される。
換気の場合の時定数は、肺容量が呼気開始時の1/eになるまでの時間に相当する。電気回路では、電池、コンデンサーおよび抵抗の直列回路を接続させコンデンサーに十分に電荷を蓄えてから、放電を開始し電荷が放電前の値の1/eになるまでの時間である。いずれの場合も時定数が短いほど変化が速いことになる。
弾性抵抗
1/Cは弾性抵抗 elastic resistance に相当し、「肺の伸びにくさ(硬さ)」を表す。正常値は、約5cmH2O/Lである(コンプライアンスCの基準値は、約0.2L/cmH2O)。
粘性抵抗
Rは粘性抵抗 viscous resistance に相当し、「気道における空気の通りにくさ」を表す。通常、気道抵抗といえば粘性抵抗を指す。基準値は、約1.5(cmH2O/L)・sである。
慣性抵抗
Vの2回微分(加速度)に比例する気道抵抗を慣性抵抗 inertial resistance という。基準値は、約0.01(cmH2O/L)・s2で、粘性抵抗の1/100以下である。上記の式(1)ではこれを無視してある。慣性抵抗は電気回路ではコイルに相当する。
コンプライアンス
換気量(V)を縦軸、胸腔内圧(P)を横軸にとった圧-容積曲線 pressure-volume curve の⊿P(⊿V)の極小および極大点を結んだ直線の勾配がコンプライアンス(肺の軟らかさの程度)である。すなわち、C=⊿V/⊿Pと定義される。左心室の機能を表す圧-容積曲線では、縦軸に左心室圧、横軸に左心室容積をとるので、Cの逆数(E:elastance)が勾配になる。
肺と心臓では、図2、図3のように圧-容積曲線の横軸と縦軸が逆になっているが、意味は同じなので比較すると分かりやすい。なお、肺および心臓で圧(示強性因子)と容積(示量性因子)の積は、それぞれ換気および収縮の仕事に相当する。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版