発汗|体温とその調節
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、発汗について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 発汗には温熱性発汗、精神性発汗、味覚性発汗がある。
- 温熱性発汗は、手掌や足底部を除く一般体表面のエクリン腺で観察される。
- 精神性発汗は、精神的な緊張で手掌、足の裏、わきだけに発現し、快適な温度環境でも起こる。
- 味覚性発汗は、辛いものを飲食したときに顔や頭に発現する。
発汗の種類
発汗には熱放散のための温熱性発汗(thermal sweating)のほかに精神性発汗(mental sweating)と味覚性発汗(gustatory sweating)がある。
温熱性発汗は、環境温の上昇、運動などによる体温の上昇に反応して発現し、手掌や足底部を除く一般体表面のエクリン腺(eccrine sweat gland)(図1)で観察される。
精神性発汗は、精神的な緊張で手掌、足の裏、わきだけにみられ、快適な温度環境でも起こる。手掌などの皮膚に微弱直流を通電したときの皮膚抵抗は、精神的ストレスにより数秒で低下する。この反応を皮膚抵抗反応〔skin resistance response〕(SRR)という。汗にはNa+、Cl-などの電解質が含まれているので、精神的ストレスから汗をかくことで電気抵抗が減少するのである。SRRは、うそ発見器にも応用されている。
味覚性発汗は、辛いものを飲食したときに顔や頭に発現するもので日常生活でもよく経験する。トウガラシなどの辛味の成分であるカプサイシン(capsaicin) が顔面神経(facial nerve)および舌咽神経(glossopharyngeal nerve)を刺激することにより発汗する。交感神経遮断術後、三叉神経(trigeminal nerve)障害、耳介側頭神経(auriculotemporal nerve)障害などでは病的な発汗がみられる。
memo汗についての格言
「Horses sweat,men perspire and ladies only flush.(馬は汗をたらし、男は汗をかき、女は汗をにじませる)」という英国ビクトリア朝の格言がある(フランセス・アッシュクラフト著、矢羽野 薫訳「人間はどこまで耐えられるか」河出書房新社)。
日本語では汗という1語であるが、英語ではsweatingとperspirationと区別して表現する。生理学的には、ウマがかくような滴り落ちる汗では蒸発による熱放散に寄与しない。ウマの発汗はヒトと異なり、アドレナリン作動性で運動することによって起こる。
ヒトの場合、運動しなくても環境温が高くなると発汗するが、同じ量の熱を受けても女性は男性の約半分しか汗をかかないので、この格言には女性が汗をかくのを嫌うという心理的な面だけでなく生理的な理由もある。
汗 腺
汗腺は、皮膚に付属する管状腺で汗を分泌する分泌部と、これを排泄する導管とからなる。エクリン腺(eccrine sweat gland)とアポクリン腺(apocrine sweat gland)の2種類がある(図1)。
エクリン腺は全身に分布するが、アポクリン腺は腋窩部、外耳道、乳輪、肛門周囲など毛幹の近くに限局する。熱放散に寄与するのはエクリン腺で、水分の多い薄い汗を出す。アポクリン腺からは分泌細胞を含んだ濃い汗が出て、体臭に関係する。エクリン腺のなかで温熱刺激に反応して有効に発汗する汗腺を能動汗腺という。能動汗腺の数は人種によってだいたい決まっている(表1)。
暑い国の人のほうが能動汗腺が多く、その数は乳幼児期(生後1~2年)に暑い環境で暮らしたかどうかで決まる。
パンティング〔panting〕
身近な動物で汗をかけるのはウマくらいで、イヌやネコは汗がかけない。暑いときにイヌがあえぎ呼吸をしているのを見かける。これがパンティングで、気道からの水分蒸発で熱放散を行っている。パンティングでは呼吸数の増加に伴い、1回換気量が減少するので、過換気症候群(hyperventilation)のときのような呼吸性アルカローシス(respiratory alkalosis)になることはない。
[次回]
平均皮膚温と平均体温|体温とその調節
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版