熱放散|体温とその調節
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、熱放散について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 熱放散には対流、伝導、輻射および蒸発がある。
- 蒸発以外の熱放散は、高温側から低温側に熱が移動する物理的な現象である。
- 外界温が体温より高いときでも有効な熱放散は発汗だけである。
- 発汗は交感神経の刺激で起こるが、例外的にコリン作動性である。
熱放散の種類
熱放散には、①対流(convection)、②伝導(conduction)、③輻射(ふくしゃ)(radiation)および④蒸発(evaporation)がある。①~④は生体にかぎったことではなく、物質とその周囲に温度差があれば起こる物理的現象である。
すなわち、①は温度をもつ物質の周囲に流体があれば熱が奪われること、②は温度をもつ物質がより低温の物質に接していれば熱が低温側に移動すること、③は温度をもつ物質が真空中でも電磁波の形で熱を放散することである。
また、④は液体が気化するときに物体から奪う気化熱(蒸発熱)(evaporation heat)であり、これも生体固有のものではない。発汗(sweating)は④の特殊なものと考えることができる。熱産生に応じて発汗して、対表面からの水分蒸発を促進させるので発汗だけは生体固有の機能である。
また、①~③は、外界温が体温よりも高いときは起こらないが、発汗だけは外界温が体温より高くても湿度が低ければ起こりうる熱放散である。
安静時の熱放散に占める割合
24℃における安静時の熱放散に占める割合は、対流および伝導が約10%、輻射が約67%、蒸発が約23%であるが、暑熱下では気道および皮膚からの蒸発が増加して、対流、伝導および輻射が約10%、蒸発が約90%になる(黒島晨汎:環境生理学.第2版、理工学社、1993)。
発汗の神経支配
発汗は交感神経(sympathetic neuron)の刺激で亢進するが、節後線維末端から分泌される神経伝達物質が通常の交感神経と異なりアセチルコリン(acetylcholine)である(コリン作動性神経 cholinergic nerve)(図1)。
これは通常の交感神経のようにノルアドレナリン(noradrenaline)が分泌されると血管収縮が起こり熱放散に不利なためである。
身近な動物で発汗が見られるのはウマであるが、ウマの発汗はアドレナリン作動性(adrenergic)の交感神経で調節される。ヒトの発汗機能はより進化してコリン作動性になったと考えられる。
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交感神経の節後線維は、各脊髄分節から出てすぐに交感神経節でシナプス(synapse)を形成する。副交感神経は神経節が臓器の近くにあるという特徴がある。交感神経のうち、副腎に入っている交感神経にはシナプスがなく、副腎髄質にあるニコチン性アセチルコリン受容体にアセチルコリンが結合すると、アドレナリンが分泌される。図1はそのことを模式的に示している。
[次回]
発汗|体温とその調節
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版