熱産生|体温とその調節
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、熱産生について解説します。
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 1.熱産生には、代謝、ふるえおよび非ふるえがある。
- 2.代謝では、糖質や脂質が持つ結合エネルギーの約70%がATPに変換され、約30%が熱になる。
- 3.ふるえでは、骨格筋の収縮が外に対する仕事につながらず、筋収縮で使われるATPが熱になる。
- 4.非ふるえでは、酸化的リン酸化を脱共役させて、糖質や脂質が持つ結合エネルギーが100%熱になる。
熱産生とは
ヒトの体温は、熱産生(heat production)と熱放散(heat dissipation)のバランスで一定に保たれている。熱産生には、次のようなことがある。
- ①代謝による熱産生〔metabolic thermogenesis〕
- ②ふるえによる熱産生〔shivering thermogenesis〕
- ③非ふるえ熱産生〔non-shivering thermogenesis、NST〕
代謝による熱産生
糖質、脂質などの栄養素が化学エネルギー(結合エネルギー)の形でもつ「還元力」は、解糖系およびTCA回路でNADH、FADH2に換えられ、さらに電子伝達系で酸化されてアデノシン三リン酸(adenosine triphosphate、ATP)になる。
栄養素がもつ結合エネルギーがATPに変換される効率は、糖質も脂質もほぼ同じで約70%である。残りの約30%が熱になり、これが①の熱産生である。食品に含まれる糖質および脂質の代表的なものとしてグルコース(glucose)およびパルミチン酸(palmitic acid)を例にとると、解糖系、TCA回路および電子伝達系の反応は図1のように集約される。
図1代謝による熱産生
ふるえによる熱産生
ふるえは動筋(agonistic muscle)と拮抗筋(antagonistic muscle)が同時に収縮するので、外に対する仕事がない筋収縮である。したがって、骨格筋が収縮するときに使うATPのエネルギーが仕事でなく、すべて熱に変わる。これが②の熱産生である。
非ふるえによる熱産生
NST は、褐色脂肪組織(brown adipose tissue、BAT)で顕著で、酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation)が脱共役(uncoupling)することで起こる。糖質や脂質がもつ結合エネルギーの約70%がATPに変換され、約30%が熱になるが、脱共役すると100%が熱になってしまう。これが③の熱産生である。BATはミトコンドリアが豊富なので、褐色に見える(図2)。
図22種類の脂肪細胞
(黒島晨汎:環境生理学.第2版、理工学社、1993より改変)
ATP の水和反応の自由エネルギー⊿Gは下記の式で与えられる。
上記の反応式中の各分子の濃度がすべて1モル(mol/L = M)で、pH7.0、温度25 °Cのときの⊿Gを標準自由エネルギーとよび、その値は-7.3kcal/molである(マイナスは発熱を表す)。しかし、実際の細胞内ではATPなどの濃度は1モルよりもはるかに低い。
細胞内の実際の濃度を用いると、⊿Gは、例えば赤血球の場合、-12.4 kcal/molになる(A.L.Lehninger, Principles of Biochemistry)。ATP1モルの加水分解で得られるエネルギーを-7.3kcal/molとして計算している文献もあるが、その場合は、糖質および脂質がもつ結合エネルギーのATPの化学エネルギーへの変換効率(図1の70%)を低く見積もることになる。
Nursing Eye
大きな脂肪細胞(白色脂肪組織)は、遅筋であるインナーマッスルを使う運動で小さな脂肪細胞(褐色脂肪組織)の特性を持つようになる。小さな脂肪細胞はインスリン抵抗性を改善するアディポネクチン(adiponectin、「脂肪組織が産生するホルモン様物質の作用」参照)などを分泌するので、遅筋を使う軽運動を日常的に行うことが重要である。
※編集部注※
当記事は、2016年11月4日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
熱放散|体温とその調節
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版