電子伝達系|栄養と代謝
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、電子伝達系について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
- 解糖系およびTCA回路でつくられるNADHやFADH2が酸化される(電子が取られる)過程を電子伝達系という。
- NADHおよびFADH2がもつ還元力(結合エネルギー)が酸化されるときにそのエネルギーがATPに変換されるのは3か所ある。
- 酸化とATP産生というリン酸化がカップリングしていることから、電子伝達系のことを酸化的リン酸化という。
電子伝達系
解糖系でつくられたNADHおよびTCA回路でつくられたNADH(nicotinamide adenine dinucleotide)およびFADH2(flavin adenine dinucleotide)がミトコンドリアの内膜で酸化される(電子が取られる)過程を電子伝達系(electron transport system)という。
NADHおよびFADH2がもつ還元力(結合エネルギー)が酸化されるときに、そのエネルギーがATPに変換される。
O2消費(酸化)とATP産生(リン酸化)が共役(coupling)していることから、電子伝達系のことを酸化的リン酸化(oxidateive phospholyration)という。あるいは呼吸鎖(respiratory chain)とよばれることがある。ただし、細胞内呼吸は「TCA回路」で述べたように電子伝達系(O2消費)だけでなくTCA回路(CO2産生)も含まれるので、電子伝達系と呼吸鎖は等価ではない。
脱共役
電子伝達系において、O2が消費されてもATPが産生されないことを脱共役(uncoupling)という。O2消費とATP産生が共役すれば、糖質や脂質がもつ結合エネルギーの約70%がATPに変換され、約30%が熱になる(「熱産生」図1参照)。
ところが、O2消費とATP産生が脱共役すると、結合エネルギーがすべて熱に変換される。体温調節が未熟な新生児には、褐色脂肪組織(brown adipose tissue〕(BAT)があり、脱共役による熱産生を行っている。冬眠動物が冬眠から覚醒するときもBATにおける熱産生が重要な働きをしている。
最近、生理的脱共役タンパク質〔uncoupling protein〕(UCP)がBAT以外にも骨格筋などに存在し、肥満防止との関係で注目されている。UCPには表1のようなアイソザイムが存在する(「熱産生」図2参照)
電子伝達系におけるO2の還元
電子伝達系においてO2が4電子還元されることと共役してATPが産生される。表2のような過程をたどるが、全体の反応をまとめると
O2+4H++4e-→2H2O
となる。H+およびe-は、NADHおよびFADH2から供給される。H+はミトコンドリアのマトリックス側から内膜、外膜の膜間腔にくみ出され膜電位を形成する。H+がF1,Fo-ATPase(Foのoはゼロではなく、オリゴマイシンolygomycinのo)を通ってマトリックス側に戻るときに膜電位の電気エネルギーがATPの化学エネルギーに変換される。NADHやFADH2は栄養素(高い還元状態)に由来するので、結局、栄養素を酸化して結合エネルギーをATPに変換していることになる(「異化と同化」参照)。
NursingEye
電子伝達と共役してO2が4電子還元されて水になる過程でO2-、H2O2、・OHなどの活性酸素(reactive oxygen species)が発生する。活性酸素には細胞毒性がある。生体にはこれらの活性酸素を消去するSOD(superoxide dismutase)が存在する。
身体の大きい動物ほど体重あたりの酸素摂取量が少なく長寿命であることから、活性酸素の毒性が寿命を決める因子の1つと考えられている。ヒトは身体の大きさからすると30年ほどの寿命であるが、ゾウと同じ程度の寿命(約80年)をもつ理由は、SODの活性が他の動物に比べ高いことが関係している。
[次回]
熱産生|体温とその調節
⇒〔ワンポイント生理学〕記事一覧を見る
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版