どうします?高齢者救急で遭遇するモヤモヤ|難しい医療面談に臨む際、留意すべき5つのポイント

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

 

宮崎万友子(飯塚病院緩和ケア認定看護師)、吉川英里(飯塚病院看護部救急認定看護師)

 

今日も高齢者が搬送されてきます。患者は間もなく亡くなるところですが、家族は延命を希望しています。

 

「どうしたら良いの?」「あれで良かったの?」。モヤモヤは解決しないまま、次の高齢者がまた搬送されてきます。

 

ここでは、高齢者救急で遭遇する“解決できないモヤモヤや現場に埋もれている葛藤”をシェアしていきたいと思います。

 

症例1:慢性心不全、陳旧性心筋梗塞、高血圧で循環器内科かかりつけの78歳男性


2日前の定期受診で異常はなかったが、院外CPAで緊急搬送。


ER到着時のECG波形はPEA。胸骨圧迫を継続し、気管挿管、アドレナリン投与など実施。
心肺停止から約1時間後に自己心拍が再開したが、自発呼吸はなく、瞳孔散大。


高齢の妻と息子は動揺が激しく、「人工呼吸器をつけるか、つけないか、そんなこと今すぐ決められるわけないだろ!」と怒りを露わにしている。

 

 

高齢者の院外CPA搬送、あなたならどうしますか?

 

共同執筆者の宮崎万由子氏の写真。

 

ある若手医師から、「相手がヒートアップしていても、たくさんのことを説明しなくてはならない。情報量が多く、いつも家族を混乱させていると感じる。人工呼吸器をつけずにバックバルブマスクで換気しながら家族が落ち着くまで時間を取ってあげたい。でも時間も限られているし、どうしたらよいか分からない」という声があがりました。

 

 

家族の気持ちも分かるけど……

家族は、衝撃、混乱、恐怖、否認、自責(もっと早く気づいてやれれば)や、治療選択のプレッシャー(自分が決めなければならない)、もしかすると医療者が予測しえない親族内のプレッシャーや確執など、怒りの背景には様々な思いが隠れているかもしれません。

 

一方の医師はというと、すでに混乱している家族に1人で立ち向かい、ストレスにさらされながら悪い知らせを伝えないといけません。

 

さらに「こんなの看取りでしょ!?」「早く決めてよ!」という周囲からのプレッシャーやノイズに焦りや苛立ちを感じたこともあるのではないでしょうか。

 

セミナー風景

セミナーの模様。左端が共同執筆者の吉川英里氏(提供:岡村知直氏)

 

 

難しいからこそ訓練を

救急外来は、悲しみや怒りを不用意に助長しやすく、コミュニケーションの難易度が高い環境にあります。

 

飯塚病院緩和ケア科では、こうした難しい医療面談のシミュレーション教育を行っています。以下(1)~(5)にシミュレーション教育の内容をご紹介します。

 

(1)感情への配慮

疑似面談はビデオ撮影を行います。「急なことで大変、驚かれたと思います」などの言語的コミュニケーション以外に、「声のトーンに安心感がある」「一気にしゃべりすぎるから、次は沈黙を意識しよう」など、自分が気づいてない癖を発見し、家族に与える非言語的メッセージをみんなで振り返り、改善につなげます。

 

(2)可逆性の判断

医学的判断を明確に伝えるのは、案外、難しいようです。たとえば院外CPAで不可逆性の設定でも、「予断を許さない厳しい状況です」などの曖昧な表現をする傾向にあります。

 

そうした場合、家族役からは、「厳しいと言われてもどのくらい厳しいか分からないから、呼吸器を付ければ元気になるかもしれないと期待してしまう」という感想が返ってきます。

 

感情に配慮し、かつ正確に病状を伝えるにはどうしたら良いのでしょう。興味がある方は、飯塚病院緩和ケア科のシミュレーション教育を一緒に体験してみませんか。

 

(3)価値観の推測

例えば「ふだんのお父様はどういったご様子でしたか?」「もしお父様だったら今の状況をなんとおっしゃるでしょうか?」など、一刻を争うなかでも、いかに本人と家族の軌跡の中にある価値観を引き出せるかを訓練しています。

 

価値観の推測といっても、混乱する家族に対話のテーブルについてもらうことは容易ではありませんし、簡単に答えは返ってきません。

 

しかし、家族だけに判断を任せても解決はしません。プロセスをともにする姿勢が家族の救いになることもあるのではないでしょうか。

 

(4)共感的パターナリズム

第1回救急緩和セミナーで飯塚病院総合診療内科の工藤仁隆医師が、救急外来などの切迫する場面では、informed consentよりも共感的パターナリズムが重要であると紹介しています(関連記事〈※記事全文をご覧いただくためには「日経メディカル」の会員としてのログインが必要で〉)。

 

例えば「心臓マッサージや気管挿管するかどうか、ご家族で話し合ってください」ではなく、「お父様のそうしたお気持ちを考えると、人工呼吸器などは喜ばしい選択ではないと思います。何もせず見殺しにするのかというお気持ちもあるかもしれませんが、最期は苦しみたくないというお父様の気持ちを考えると、きつい延命治療はしないことの方が重要かもしれません」など、有益な治療か否か医学的観点も踏まえ、双方が納得いく選択ができるよう訓練しています。

 

(5)意思決定の保証と今後の支援の保証

家族ケアでここが最も重要です。判断も責任も医療者がともに担うことと、最期までサポートすることを保証しましょう。

 

例えば、「難しい選択だからこそ、我々も一緒に考えて判断させていただきます。ご家族だけに全て決めていただくのではありませんから安心してください」という感じです。

 

逆に、人工呼吸器装着後に後悔している場合、「つらい思いさせてしまったと感じてらっしゃるのですね。ご家族にとって難しい選択だったと思います。しかし、お父様を思っての判断ですから、誰からも非難されるものではありませんし、ご自身を責めないでいただきたいです」などと話すのです。

 

また存命の場合は「残念ながら残された時間は長くないですが、お父様にしてさしあげられることは全力でお手伝いさせてください。ご家族が最期に何かしてあげたいことはございませんか?」などと、医療として提供できることがなくなっても、悲しみや不安を抱える家族へ手助けできることはたくさんあることを伝えるのです。

 

 

問題の本質は、こっち!?

論点は変わりますが、筆者は、救急外来での家族ケアより、もっと重大な問題があると考えています。

 

何が言いたいかというと、「予測できる人が放置されている」ということです。

 

例えば、癌で余命1~2週間の患者が外来予約は1カ月先、何かあれば救急車を呼ぶよう説明されていて、予想通り再診前に搬送されてきます。また、明らかに医療依存度が高くなっている認知症高齢者が、毎月、発熱で搬送されてきます。

 

ほとんどの患者が、エンドオブライフについて話し合われていませんし、救急搬送以外の手段は何も準備されていません。筆者は、こうした予測できる人が放置されている現実が問題の本質だと考えています。

 

エンドオブライフの対話がもたれることで、無益な緊急搬送や延命治療はずいぶん減ると考えています。

 

高齢者だからとか、癌の末期だからと安易に治療の差し控えを推奨するものではありません。あくまで適切な病状判断と価値観を軸に、一緒に治療選択し、最期までともに在ることを保証することが重要と考えています。

 

臨床で遭遇する解決できないモヤモヤは、誰ともシェアされなければそこからの発展はないでしょう。

 

今回のセミナーの発起人である飯塚病院緩和ケア科の岡村知直医師が「高齢者救急に変化が求められている」と自ら葛藤し続け、仲間と声をあげ、こうした志の高い医師の皆様が集える場ができたことは、未来の高齢者救急医療の可能性を目撃していると感じます。

 

ご興味ある方はぜひ第3回救急緩和セミナーでお会いしましょう。

 

第3回救急×緩和ケアセミナーのお知らせ


『救急×緩和ケアセミナー』の第3回を11月23日に、飯塚病院で開催します。今回のテーマは「高齢者の救急を考える」です。

 

セミナー告知

 

救急医、精神科医、総合内科医、看護師が、それぞれの立場から高齢者の急性期医療と緩和ケアについて講演します。これからの医療に必要な、高齢者医療を考える上で学びになるような企画を用意してますので、ぜひご参加ください!

 

プログラムの詳細や参加申し込み方法については、こちらをご覧ください。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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