安易な食物除去はNG、湿疹の管理も忘れずに◎日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会委員長に聞く

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インタビュー◎「食物アレルギー診療ガイドライン」改訂のポイント

日本小児アレルギー学会は2016年10月、「食物アレルギー診療ガイドライン」を5年ぶりに大幅改訂した。アレルギーの原因となる食物除去は必要最小限とし、原因食品を可能な限り摂取させることを目指して、より具体的な方策が示された。ガイドライン改訂のポイントを、日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会委員長(国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルギー性疾患研究部部長)の海老澤元宏氏に聞いた。(文中敬称略)

 

日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会委員長の海老澤元宏氏

「特異的IgE抗体価検査の結果だけで安易に原因食物の除去を勧めるのはやめてほしい」と話す日本小児アレルギー学会食物アレルギー委員会委員長の海老澤元宏氏。

 

末田聡美=日経メディカル

 

──今回のガイドラインでは、「正しい診断に基づいた必要最小限の食物除去」を積極的に推し進め、「原因食品を可能な限り摂取させる」という方針を改めて強調しています。

 

海老澤 食物アレルギーの研究はここ数年で大きく進んでいます。以前は、アレルギーの原因となる食物は完全に除去するよう指導が行われてきましたが、安全な範囲を見極めた上でその範囲内で経口摂取を続けた方が、消化管からの免疫寛容が誘導され、早期に耐性を獲得できると考えられるようになってきました。

 

医療現場では、いまだに症状発症との一致率が低い特異的IgE抗体検査皮膚プリックテストで「陽性」の結果が出ただけで原因食物の摂取を控えるよう指導している医師が少なくありません。ただ、完全に除去したままでは、いつまでも経口免疫寛容が誘導されない上、生活の質は大きく下がってしまう。本ガイドラインは、食物アレルギー診療に携わる全ての医師を対象にしていますが、特に食物アレルギーの診療を専門としないかかりつけの先生方には、「血液検査の結果だけで原因食物の除去を安易に勧めるのはやめてほしい」というメッセージを伝えたいです。

 

今回のガイドライン改訂の大きなポイントの1つは、アレルギーの原因と考えられる食物を、症状を誘発しない範囲で摂取させるためにどうすればよいのか、具体的な方針を示した点です。食物経口負荷試験では、患児の症状発症のリスクに応じて、段階的な負荷量を設定した試験の方法を新たに盛り込みました。また長期管理においては、安全な量を実生活で継続的に摂取することが重要であるため、「栄養食事指導」の章も独立して設け、具体的な指導法を紹介しました。

 

──食物アレルギーは、「経口免疫寛容」と「経皮感作」という2つの科学的な知見が出てきたことで、予防に対する考え方が変わってきました。

 

海老澤 早期にアレルギーの原因食物を経口摂取することで免疫寛容が誘導される(経口から抗原が継続的に入ることで免疫が抑制される)という考え方は、食物アレルギーの発症予防においてはここ数年で多数の大規模介入研究の結果が発表されており、今回のガイドラインでも「予知と予防」の章で詳しく紹介しています。

 

以前は、食物アレルギーの原因になりやすい食物は乳児期の摂取は避けるべきだと考えられてきましたが、世界各国で経口免疫療法(原因物質を経口摂取することで耐性獲得を目指す治療法)の研究が始まった10年ほど前から、方針が転換されました。現在では、食物アレルギーの原因になりやすい食物の摂取時期を遅らせても食物アレルギーの発症予防にはつながらないことが世界的にもコンセンサスとなっています。

 

むしろ、アレルギーの原因になりやすい食物は乳児期早期から食べ始めた方がアレルギーの発症予防につながる、という説が有力視されており、ピーナッツアレルギーや卵アレルギーの予防においてはその説を実証した研究結果も報告されています(離乳食早期からの卵摂取で卵アレルギー8割予防ピーナツ経口摂取で乳児のアレルギーを予防)。今後は、既に卵アレルギーを発症している児に対して早い段階から卵を摂取させることで免疫学的な寛容状態に持っていけるのか、我々も含めて研究を進めている段階です。

 

また、アトピー性皮膚炎などの湿疹はその後の食物アレルギー発症と強い相関があることが明らかになっています。バリア機能が障害された皮膚を介して食物アレルゲンに感作(経皮感作)されると食物アレルギーの発症や悪化につながると考えられているため、湿疹の治療も欠かせません。

 

──新ガイドラインでは、かかりつけ医と専門医との役割分担を示すものとして、「食物アレルギー診断のフローチャート」が示されました。どのように活用すればよいでしょうか。

 

海老澤 食物アレルギーの診断においては、確定診断や安全に摂取できる量の見極めには経口負荷試験が不可欠です。特異的IgE抗体検査や皮膚プリックテストで陽性となっても経口摂取して症状が出るとは限らないからです。ただ前述したように、経口負荷試験をしないまま指導が行われているケースが少なくありません。食物アレルギー診療を専門としない医師の下で、小学校入学時まで完全除去のまま経過していたり、逆に、経口負荷試験で症状誘発の閾値を確認することなく、少しずつ食べる量を増やすよう勧めているような危険なケースもあります。

 

こうした状況を改善し、正しい診断と管理に導くため、ガイドラインでは診断のフローチャートを提示。かかりつけ医と専門医との役割分担を明確に示し、専門医に紹介してほしいタイミングもまとめました(図1)。経口負荷試験は、専門的な知識がないと危険を伴うため、基本的には食物アレルギーの診療経験が豊富な専門医が行うべきだと考えています。

 

図1 食物アレルギー診断のフローチャート(即時型症状)

食物アレルギー診断のフローチャート

出典:食物アレルギー診療ガイドライン2016

 

例えば、アレルギーを起こしやすい食物を摂取した後に蕁麻疹などの即時型症状が出現した子どもがかかりつけ医を受診した場合、まずは症状や、疑われる食物を摂取してからの時間経過などについて詳細な問診をした上で、疑われる食物に対する特異的IgE抗体検査やプリックテストを実施します。「陽性抗原2項目」以下の場合は、それらの食物を除去して症状が安定するかを確認した上で、経口負荷試験を行うため専門医に紹介してください。「陽性抗原が3項目以上」など原因食物の把握が難しい場合や、原因不明のアナフィラキシーを繰り返す場合は、リスクが高いためすぐに紹介すべきとしました。

 

一方で、特異的IgE抗体検査で陰性となった場合は、食物アレルギーであるリスクはかなり低いため、かかりつけ医の下で食べられるかどうか確認するとよいでしょう。何かあったときにすぐ対応できる体制を作った上で、クリニック内でアレルギーの原因と疑われる食物を少量食べてもらい、しばらく様子を観察します。症状が出なければ「少しずつ食べても大丈夫」であると患児の保護者に指導します。

 

──今回、ハイリスク症例にも安全に行えるような経口負荷試験の方法を示しています。具体的な方法を教えてください。

 

海老澤 新ガイドラインでは、食物経口負荷試験は「アレルギーが疑われる食品を単回、または複数回に分けて摂取させて症状の有無を確認する検査」と定義されました。前回との大きな変更点は、少ない量の単回摂取も摂取負荷試験として認めること、そしてリスクに応じた段階的な負荷試験の方法を新たに示した点です。段階的に何度か負荷試験を行うため、従来より手間はかかりますが、より安全性が高まりました。

 

具体的には、目標とする負荷量を「少量」「中等量」「日常摂取量」と3段階に分け、個々のリスクに応じた目標量で負荷試験を実施します(表1)。目標量で安全に摂取できることが確認できたら、その後はその量を上限として日常的に摂取してもらうよう食事指導につなげる、という流れです。

 

表1 食物経口負荷試験(オープン法)の総負荷量の例

食物経口負荷試験(オープン法)の総負荷量の例

出典:食物アレルギー診療ガイドライン2016

 

従来の経口負荷試験は、アレルギーの原因疑いの食物を、約20~60分おきに複数回に分けて摂取し、1回の検査で最終的に多い負荷量を目指すという方法で行っている施設が大半でした。そのため、少量なら摂取できても負荷試験の途中で症状が出てしまうと中断となり、完全除去となるケースも少なくありませんでした。一方で、これまでも1回少量を食べさせて症状が出ないことを確認するという方法も試みられてきました。この方法は前回のガイドラインでは経口負荷試験とは認められていなかったのですが、少量ずつでも摂取を進める観点からは有効だと考え、認めることになりました。

 

新しい経口負荷試験の方法が現場で広がれば、多くの患児の生活の質は上がります。例えば、当院の患児の場合、牛乳の負荷試験で25mLでは症状を誘発してしまうが3mLなら摂取できる、というケースが半数程度を占めます。これまではこうした子どもたちの多くは完全除去になっていましたが、牛乳3mLでも摂取可能となれば、日常的にバターを使用でき、パンやクッキーもある程度は摂取できる可能性があります。また卵なら、全卵32分の1個の負荷試験をクリアできれば、生の状態で黄身だけを取り出して加熱調理に使えるようになる。完全除去にする必要がなくなるだけで、保育園などでの給食提供も受けやすくなります。

 

ある量の経口負荷試験で症状が陰性だった場合、同量を自宅でも週2~3回程度継続して与えてもらって再現性を確認し、問題がなければその量を安全に摂取できる量と判断。継続的に摂取してもらいます。摂取量を上げる際には、さらに総負荷量が多い経口負荷試験を行うのが望ましいでしょう。

 

──中等量まで摂取できるような軽症者の場合は、その後の経口負荷試験はどこまで厳密に行うべきでしょうか。

 

海老澤 経口負荷試験で陰性だと確認できた量以上は摂取しないのが一番安全ですが、中等量が摂取できるような軽症者では、現実的にもう少し管理法を緩めてもよいでしょう。当院では、中等量まで食べられる場合は、さらに多い負荷量の負荷試験は行わず、自宅で少しずつ摂取量を増やしてもらうこともあります。例えば牛乳なら、50mL摂取できることが負荷試験で確認できたら、その後は毎回5~10mLずつ増やしながら週2~3回は摂取してもらいます。

 

もちろん、患児の保護者には詳しい摂取量増加の方法やリスク、観察方法などをしっかり説明し、何かあった時にすぐ対応できる体制を整えた上で行うことが重要です。以前は症状が出なかった量でも、体調不良などで1~2週間摂取しない期間が続けば、その後摂取して症状を起こすこともあるため注意が必要です。

 

──食物アレルギー疑いの患児が専門医療機関で経口負荷試験を受ける場合、数カ月待ちという状況もあります。負荷試験のハードルが高いこともあって、プライマリ・ケアの現場では除去指導が広がっているようにも思います。今回、経口負荷試験の安全性が高まったことで、より多くの医師が行いやすくなったと考えてよいのでしょうか。

 

海老澤 経口負荷試験の安全性が高まっても、症状誘発の閾値の見極めやアナフィラキシーなど重篤な症状を起こした時の対処、生活指導などを行う際に必要な専門的知識は変わりません。特に初回の経口負荷試験では症状を誘発する閾値が分からないため、慎重に対応する必要があります。従来と同様、経口負荷試験はあくまで食物アレルギーの診療経験が豊富な専門医の下で実施すべきと考えます。専門医療機関が近隣になく、経口負荷試験を受けるハードルが高いという指摘はありますが、原因食物を完全除去したままの生活は患児や保護者にとっては大変な重荷で、経口負荷試験を受けて安全な量まで経口摂取できるようになることで生活の質は大きく上がります。

 

経口負荷試験を行っている全国の医療機関のリストは、食物アレルギー研究会のホームページに掲載しています。かかりつけの先生方も患児の保護者もアクセスしやすくなっているため、ぜひ活用してください。

 

──診断においては、新しい特異的IgE抗体検査が実用化されていますが、結果はどのように解釈すればよいのでしょうか。

 

海老澤 最終的には食物経口負荷試験で症状を確認しないと食物アレルギーの確定診断ができない状況は変わりませんが、その前段階として、診断に近付けるための判断材料が増えています。

 

その1つがアレルゲンコンポーネントに対する特異的IgE抗体検査です。従来の粗抗原に対する特異的IgE抗体検査では結果がクラス2以上の「陽性」となっても症状発症との一致率が低く、あまりあてになりませんでしたが、最近、アレルゲンとなる特定のタンパク(アレルゲンコンポーネント)の抗体価を測定できるようになり、症状との一致率はより高くなってきました。現在、保険診療で測定できる食物アレルゲンコンポーネントは、卵白のオボムコイド、牛乳のカゼイン、小麦のω5-グリアジン、ピーナッツのArah2など8種類あります。

 

また最近では、年齢や特異的IgE抗体価の値から、ある量の原因食物を摂取した時に食物アレルギーの症状が誘発される確率(診断確定率)を示す「プロバビリティカーブ」が多数報告されており、経口負荷試験をする前に症状を起こす確率がだいたいどの程度なのか推測できるようになってきました。ただそれぞれのプロバビリティカーブは、対象集団、食物アレルギーの診断方法、食物経口負荷試験の方法などの条件が異なるため、目の前の患児に当てはめられるかを考える必要があります。

 

新ガイドラインではプロバビリティカーブの報告を資料として掲載しました。専門医では、これらのデータから症状誘発率を予測して経口負荷試験の際の負荷量を決めることもあります。かかりつけ医でも患児の保護者に説明する際、特異的IgE抗体検査の結果を受けて、クラス2以上で一律に「陽性」と伝えるのではなく、「食物アレルギーの可能性は○%程度なので、一度食物経口負荷試験を受けた方がよいのではないか」などと言えるようになります。

 

──ガイドラインでは、食物アレルギーを管理する前提として、アトピー性皮膚炎をはじめとした乳児の湿疹に対する管理の重要性も強調しています。

 

海老澤 アトピー性皮膚炎をはじめとした乳児の湿疹を放置していると、離乳食を始めたときに食物アレルギーを発症するリスクが高いことが分かっており、実際、乳児期に食物アレルギーを発症する子どもの多くはアトピー性皮膚炎を合併しています。バリア機能が障害された皮膚からアレルギーの原因となる抗原が侵入(経皮感作)すると食物アレルギーを悪化させると考えられているため、食物アレルギーの予防や管理をしていく上では、まず湿疹に対するアプローチが重要です。

 

乳児期は湿疹を起こす頻度が高く、生後4カ月の時点で約30%が湿疹を発症しています。うち、アトピー性皮膚炎の児は推計15%程度とされていますが、神奈川県相模原市の調査では実際に診断されているのは3%にすぎません。全国的にも同様の状況で、適切に管理されている率は著しく低いのです。

 

通常のスキンケアを行っていても湿疹が2カ月以上慢性的に続く場合は、アトピー性皮膚炎の有無をきちんと精査し、治療すべきです。そして、必要に応じて食物アレルギーに対する特異的IgE抗体検査やプリックテストを実施し、特に3つ以上の抗原陽性の場合には、ぜひ離乳食開始前に専門医に紹介してください。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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