介護施設の看護師は本当に暇なのか?ある1日を追ってみた|知らずには働けない?施設看護のリアル【4】

知らずには働けない?高齢者施設看護のリアル

Vol.4 介護施設の看護師は本当に暇なのか?ある1日を追ってみた

多くの人が抱く「施設は暇なので楽だ。」というイメージはあながちウソではありません。

 

介護施設の入居者は疾患や障害はあるものの積極的な治療は必要とせず、症状は落ち着いています。療養しているわけではないので看護師がお世話する場面は少なく、日常の世話のほとんどを介護職が行います

また診療も、検査や手術はなく、急患の入院もありません。

医師は週に数日しか訪問しないので診療の補助もほとんどありません。

日常は決まった日課を繰り返す日々なので看護の業務の予定も立てやすく、残業がほとんどない施設も多いです。

 

でも具体的に、「高齢者施設で看護師がどんな仕事をしているか」はわかりにくいと思います。だからイメージだけで施設の看護師を始め、「イメージと違った」と困惑する護師が多くいるのではないでしょうか。

 

 

有料老人ホームで働く看護師のある一日

毎日の看護業務は、大まかな流れはびっくりするほどどこも似ています。ルーチンワークは入居者の顔と名前を覚えれば難なくできるようになります。

 

入居者50名のホームで、看護師は日勤2~3名。夜間は、オンコールで対応する老人ホームでの1日の流れを追ってみましょう。

 

【出勤~午前中の仕事】

●8:30~9:00 出勤

申し送りが始まる前に、健康管理室でその日の業務の確認を行います。

看護師は2人体制。今日の相棒は60歳定年まで総合病院で勤め上げ第2の職場で老人ホームを選んだ看護師です。あわてなくても時間内に仕事は終わるのですが、病院の習慣が抜けず就業時間前から薬の準備を始めるので、合わせて仕事に取り掛かります。相棒によってはコーヒーを飲みながら昨日のドラマの話をしながら雑談をしてすごすこともあります。

 

● 9:00 全体申し送り

夜勤のケアスタッフから昨夜の様子が申し送られます。

いかに夜勤が大変だったかその苦労話が長く申し送られることもあれば、あっけないほど短い場合もあります。長くても短くても、看護師はそれをじっと聞いています。

 

● 9:30 当日受診予定者の確認と準備

大学病院などの定期受診の準備を行います。受診の時は前回の受診からの経過の記録を持っていきます。

今日は大学病院に月に一度通院している方の受診日です。血糖チェック表と検温データをそろえ家族が到着したら引き渡します。 入居者本人は受診の後外食を家族とすることがとても楽しみなのでウキウキして出かけていく後ろ姿を見送ります。

 

これ以降、お昼までに様々なルーチン業務を実施していきます。

具体的な仕事の例を追ってみましょう。

 

【~お昼までの仕事

● 入居者の昼と夜の内服薬の準備

入居者それぞれの食後薬のセットを行います。

内服確認のチェック方法は施設によってさまざまで、錠剤の数を数えるところから名前の確認をするのみところまで様々です。

一包化された薬を服薬解除するのはケアスタッフです。

病院と同じように、施設でも誤薬しないための工夫を行なっています。この施設では、薬をセットする薬箱に、入居者の顔写真を添えています。

 

● 入浴前のバイタルチェック

入浴は週2~3回。電子血圧計や電子体温計の測定はケアスタッフもできるので、介護スタッフと協力してバイタルチェックを行います。

時には入浴拒否が続く入居者に対して、「今日こそは入浴してもらいたい」とケアスタッフと一緒に説得することもあります。

今日の相棒看護師は血圧が高い、微熱があると言って、いつもと変わりない入居者でも何人も欠浴の指示を出していました。

バイタルチェックの数字は、確かに大切ですが、そもそも入浴していいかどうかは入居者の表情や活気を見て総合的に判断することが大事です。看護師から欠浴の指示が出た場合、彼らは今日お風呂へは入れません。

 

● 状態観察の必要がある入居者のバイタルチェック

肺炎下痢など入院するほどでもないが体調を崩している方は、施設内で療養することもあります。脱水による補液程度の点滴であれば施設内でも行なえます。

看護師は常に状態観察を行い、必要時は往診医に電話やFAXで報告しますが、細かく指示が変わるというより、このまま施設にいていいか?入院が必要か?を見極めてもらっています。

 

● 入浴後は背部や臀部の処置

浴室で新しい発赤を発見した時は看護師が呼ばれます。観察後軟膏を塗布したり、出血していたらガーゼ保護します。すぐにはいけない時は、そのまま待たせる看護師もいますが、そこは急がなければ後で見るという選択もします。

 

● 経管栄養の入居者の準備と注入

今日は経管栄養は3名います。経管栄養をしている方は体調を崩しやすく入院することもしばしばなので、人数はかなり増減します。

注入前はケアスタッフがおむつ交換と体交を済ませています。その時間に合わせて経管栄養を開始します。

 

● 11:30~13:30

交代でお昼休みをとります。

お昼休みは60分。休憩室でお弁当を食べたり、テレビを見たりと比較的ゆっくり過ごして交代します。

 

【13:30~ 午後の仕事】

● 訪問診療医の補助

月に2回、提携病院医師の訪問診療の補助があります。

入居者を一階のデイルームに集めて待機させ、往診医が到着したら、入居者の状態変化の内容をまとめて報告します。

往診医からの指示変更の確認と、処方内容の確認を行います。こちらの意向を加味した次週分の処方箋を作成しますので内容を確認してから薬局にファックスします。

一方的な指示を出す医師はほとんどいません。

 

往診医はほかの施設も受け持っているので、100名ほどの入居者を担当しています。顔と名前さえ一致しない場合があるので、看護師が細かくチェックすることが重要です。

多くの場合、入居者は、30分以上待って3分程度の診療しか受けられません。中には、待たせると入居者に負担だからと言って各自の部屋を回ってくれる医師もいます。そんな医師にあたれば本当に仕事がやりやすいですが、私が会った医師を見ると、「来てやってる」感じを漂わせている医師の方が多いように思います。

 

訪問診療がない日は入浴や受診など比較的午前中に集中しているので午後は時間に余裕があります。処置を回りながら、入居者とたわいもない話をしながらすごします。

 

● レクリエーションへの参加

時間がある時は見守りをかねて一緒に手芸にはげむことがあります。

認知症でもきちんと縫物ができる方もいれば、鋏の使い方が分からなくなっている方もいるので、その方に合わせた促しを行います。

看護師の中には「レクは看護師の仕事じゃない。絶対やらない」と頑なな人もいますが、私はアセスメントのいい機会なので積極的に参加します。

 

● 15:00 状態観察の必要がある入居者のバイタルチェックと排便チェック

夜間スタッフに申し送る前に状態を観察します。

施設長には、受診が必要な場合はできるだけこの時間に判断してほしいといわれています。この時間を過ぎると病院は救急外来になるので、「もっと早く来てください。」といわれるからです。

 

また、入居者は便秘になりやすいために、排便がスムーズに行われているか排泄表でチェックします。その後排便コントロールのために下剤を眠前薬に追加したりします。

どのように追加するかは、施設ごとにルールがあります。本来ならば腹部マッサージやトイレへの促しが必要なのですが、わかっていてもなかなか実践できなかったりもします。

 

● 16:30 申し送り

申し送る相手は夜勤のケアスタッフです。

夜間体調が変化する可能性のある入居者は、あらかじめ対応を伝えておきます。どんな時にオンコールが必要なのかを具体的に伝えます。申し送りは夜を預かる介護スタッフが不安にならないように行うことが重要です。「今日は落ち着いてるよ。」と伝えると本当にホッとした表情を見せます。

 

● 18:00 退勤

入居者の状態に変化がなければほとんど定時で帰れます。今日は、何もなく定時に退勤です。相棒の看護師とともに施設を後にします。

 

不測の事態が起こったときはどうするの?

問題は、不測の事態が起こったときです。

 

高齢者施設で起こる不測の事態とは、入居者の急な体調の変化です。そしてそのとき、ほとんどの場合医師はいません。施設看護師が最も重要な役割を果たします。

 

呼吸停止」や「意識の消失」のような明らかな急変は、救急車を呼べばいいので迷いはありません。隊員が到着するまでその場を離れず観察を行い隊員に申し送ります。

実際には、このような明らかな急変は年に数回あるかないか。大半は今すぐ受診が必要かどうか迷うケースです。

 

たとえば発熱や、転倒打撲等、「今は大丈夫だけれど夜間ケアスタッフしかいない状態で症状が悪化する可能性がある」というようなときです。

看護師が判断するにあたっては、入居者がそのあとどうなる可能性があるかを診立てられることが必要です。この際、最初に連絡する相手は医師ではなく、家族であることもしばしばあります。中にはどんな些細なことでも受診してほしいと望む家族もいれば、できるだけ受診はしてほしくないとのぞむ家族もいます。その意向を最大限に考慮します。

電話で、家族に状況を説明して受診の希望があるかないか確認します。その時看護師の診立てた説明で家族の判断が決まることがあります。看護師の視点で様子を見ていいかどうかではなく、家族が判断できるような説明を行います。

 

医師にも報告はもちろん必要です。まれに時間外でも訪問してくれる医師もいますが、私が出会った医師の大半は「受診したらいい」という答えが返って来るだろうと予測されたので、事後報告の場合が多かったです。

 

看護師が下すべき判断は、「救急に医療機関を受診するのか、もしくはこのまま明日の朝まで様子を見るのか」ということです。そのラインの見極めが難しいのです。もちろん判断の基準が入居者の、安全と安楽を最優先することは言うまでもありません。そのうえで、受診するかどうかは病状だけでなく、施設長やケアスタッフの意向も加味して方向性を決めていきます。

働くスタッフの視点で考えると、予定外に受診をすればその同行のため、いつ終わるともしれない残業が決定します。そのため、可能な限り様子を見て受診は最小限が理想だと私は思います。

 

医師の指示を受けて薬の調整や症状観察をする病棟と違って、自分の判断がたくさんの人に影響を与えることが病院との違いかもしれません。医師のいない施設の中でどんなことでも対応するという覚悟をもつことが、施設の看護師には必要なのです。

医師の指示だからとすぐに受診してばかりでは他のスタッフの働き方に影響します。根拠なく様子を見ていて夜間に急変すれば、入居者の生活も変わります。

 

 

【春野すみれ】看護師・介護支援専門員。総合病院で6年勤務後、介護保険開始以降施設系在宅系さまざまな事業所で老年看護に特化して携わる。現在は高齢者施設に勤務するかたわら、研修講師なども務める。

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