長く続けられる施設はどう見極める?|知らずには働けない?施設看護のリアル【3】

知らずには働けない?高齢者施設看護のリアル

Vol.3 働かないとわからない。長く続けられる施設はどう見極める?

看護師が高齢者施設で働こうと考える際には、施設の種類とそれぞれの特徴を知った上で、自分の実現したい看護ができるのはどこかを考えると思います。

 

とはいえ、どうしても実際に働かないとわからないこともあります。

また病院の中で育成され働いてきた看護師は病院の外に出て施設で働く時、今までとはちがう環境に戸惑うことがあります。いち看護師として、長く介護施設で仕事を続けていくために私が気付いたポイントは、2つあると思っています。

 

(1)施設利用者が支払う料金

(2)運営母体の法人格

 

病院や医療機関のみで働いていると意識することがない点かもしれませんが、一度この視点を知っておくことで、戸惑いを乗り越え働く場所の見極め方が変わるかもしれません。

 

看護師が働きやすい高齢者施設の見極め方

 

(1)施設利用者が支払う料金―一時金や利用料のちがい

 

「介護保険施設」に入居する際には、入居一時金などを支払う必要はありません。また所得に応じた負担軽減の制度があります。

介護報酬は一律なので全国どこでも利用料に大きな差がないことが介護保険施設の特徴です。

 

「高齢者向け住宅」に入居する際に必要な費用は、大きく分けて入居時に必要な入居一時金と、入居後に毎月支払う月額利用料の2種類に分けられます。入居一時金とは、利用権方式の契約をした場合に、入居後の一定期間の居住費を事前に支払うものです。

月額利用料は「施設利用のための費用」であり、その大半は、賃料と施設管理・運営の費用・食費にあてられます。  

入浴、排泄、食事などの日常生活介護にあてられる費用は、介護保険から賄われ特定施設入居者介護費を利用します。その報酬額は介護施設の報酬とあまり変わりません。

 

高齢者向け住宅は介護保険施設と違って、入居者や家族がどのような施設で暮らしたいか・どんなサービスを受けたいかによって施設を選択できるように、様々な価格帯の施設が存在しています。

その違いによって提供するサービスの内容も変わるため、自分の実現したい看護ができるかどうかの目安になるでしょう。

 

(2)運営母体の法人格―非営利法人か、営利法人か

 

介護保険施設の設置主体は、ほとんどが社会福祉法人・医療福祉法人で、それらは「非営利法人」と呼ばれています。その他の居宅系の高齢者住宅は、株式会社などの「営利法人」が設置主体となり、運営の母体です。この運営母体によって、運営方針に違いが生まれます。これが、看護師の働き方にも大きな影響を与えます。

 

営利法人も非営利法人も利用者のQOLを上げるためのサービスを提供することを目的にしていますが、株式会社などの営利法人は、「利益を出すこと」が必要です。

 

営利法人の施設では、入居者は「お客様」で家族は「ご家族様」です。

利益を得るためには、お客様である利用者やご家族に満足していただけるサービスを提供することが必要です。お客様に満足していただくために、さまざまなレクレーションを提供したり、丁寧な接遇を心がけたりします。

営利企業で働くことで、私たちの提供する「看護」は「サービス業」である、といった当たり前のことを再認識することになるのです。

 

病院で「利益を出すこと」に触れずに育った私のような看護師が営利法人で働き始めると、「利益」について、今まで考える機会があまりなかったため困惑することがあります。

私自身営利法人で働いているのに、「利益が重要である」といった価値観を受け入れることがなかなかできずに悶々として過ごし、施設の中で孤独感を感じていた時期もありました。

 

更に、短期的な利益を追求し、肝心のサービスレベルを下げてしまうという本末転倒な運営をする施設に入ってしまったこともあります。たとえば、質の高い介護を提供しようとスローガンを掲げているのに、経費を削るために介護スタッフの人数を減らしたり、「入居者の食事の楽しみを大切に」といいながら、冷凍食品を頻用する安い給食業者に変えたりするなど。本音と建前があまりにも違う施設に出会ってしまったとき、私は、会社に対して不信感を抱き悪徳業者のように感じたこともありました。

 

とはいえそのような運営をする企業ばかりではありません。先に書いたように、そもそも入居者のQOLを上げるという目的をきちんと果たさない企業は存続していけません。

 

一般社会では営利企業が大半を占めます。看護師は利益が出なくても存続できる病院の外に出てはじめて、利益をはかる数字という存在を知り、それが評価のすべてになることもあるといった世間の常識を知ることになるのです。

今では、看護職の私には一番大切なことは利益を出すことではないけれど、それが一番大切な職種もあるのだと思えるようになり視野が広がったと思います。

 

高齢者施設は「運営の理念」との相性が大切

こうして、高齢者施設と高齢者向け住宅の全体を概観してみると、外から見れば大きな差はないようでも、実際に働くと「その施設が大切にしているもの」が大きく違ってくることがわかります。それは看護師として働くうえで、もしかすると待遇や福利厚生よりも重要なポイントとなります。

 

施設は人が作るもの。だからこそ、いい悪いでは測れない人と人の相性があります。施設と入居者や家族だけではなく、施設と働くスタッフにも相性はあります。

さまざまな形態の施設があるのは、入居者に万人受けする施設はないからです。そして働くスタッフに万人受けする施設もありません。

 

施設がサービスの中で大切にするものは、設置主体や運営者に強く影響を受けます。

例えば施設長の言動の中に「高齢者一人一人の人生を大切に思っているか?」「入居率と稼働率を上げることだけにとらわれていないか?」がにじみ出てきます。施設長の考えは末端のスタッフにも影響を及ぼします。つまり施設は、その施設の「理念」と、そこに関わる人々の「思念」によって、日々の業務で何が大切にされるかが決まってくるのです。実際に多くの施設で働いた私は、「建物にお金をかけて立派なものを作ったとしても、立派な施設にはならない」とつくづく実感しています。

 

高齢者施設は、それぞれの施設の特性を理解して、自分の価値観とのずれを修正し、自分の目指す看護理念と相性がよいかを見極めることが必要です。さらにいえば、施設で働く人々の大切なものを自分も共有することによって、自分自身で居心地のいい職場に変えていくこともできるところだと思うのです。

 

【春野すみれ】看護師・介護支援専門員。総合病院で6年勤務後、介護保険開始以降施設系在宅系さまざまな事業所で老年看護に特化して携わる。現在は高齢者施設に勤務するかたわら、研修講師なども務める。

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