看護師が働く「高齢者施設」6形態まとめ|知らずには働けない?施設看護のリアル【2】

知らずには働けない?高齢者施設看護のリアル

Vol.2 看護師が働く「高齢者施設」6形態まとめ

高齢者施設はその設置目的や根拠法によってさまざまな名称で呼ばれています。外から見ると、障害や病気を抱えて何らかの介助・介護がなければ生活が難しい高齢者が、マンションのような建物に住んでいる、という状況には大きな違いがないようにみえます。

しかし、その目的や役割には微妙な違いがあり、その違いが利用者の住まいとしての役割に少なからず影響を与えます。看護師が提供するケアやサービスにもちがいがあります。

 

また、サービスの対象者の呼び名が変わります。病院で呼ばれる病気を患う人としての「患者」から、介護サービスを利用する「利用者」、その施設に入っている「入居者」と変化するのです。

 

高齢者施設には、要介護の認定を受けた人が対象となる「介護保険施設」と、比較的自立している方から重度の要介護者まで幅広い高齢者向けの住まい「高齢者向け住宅」があります。

 

高齢者施設の種類を、実際に勤務している看護師視点で分類してみます。

 

【目次】

 

「介護保健施設」の目的と特徴

「介護保健施設」には3種類あります。どんな違いがあるか、見てみましょう。

 

介護保健施設

 

(1)老人保健施設

―自宅に帰るためにリハビリをする中間施設

 

特徴

看護の体制

利用者と関わる期間

自宅復帰を目指すリハビリ施設

医師:1人(常勤)

看護師:100人あたり9人

基本的には3ヵ月で退所

 

通称「老健(ろうけん)」と言われる老人保健施設は、入院は不要だが自宅介護が困難な要介護高齢者が自宅復帰を目指すリハビリテーション施設です。

 

●看護師の働き方

施設内には医師が常駐し医療も提供しています。看護師は24時間交代制で夜勤もあります。

必要な検査や薬については、医療保険が適用されず、介護保険からまかなわれます。そのため、本当に必要な治療しかしません。高齢者に処方された薬の飲み残しや貼りきれないほどの湿布の処方など医療費の無駄使いが問題になっていますが、老健は、包括報酬なので薬の数は他の施設に比べてダントツに少なく、徹底的に医療の無駄を省きます。
だからといって、入居者が体調を崩すことは私の経験してきた施設ではほとんどありませんでした。むしろ薬が減り元気になることもあるのです。

 

●看護師と入居者との関係

老健は、建前上は在宅復帰を目的としている施設です。しかし、実際には、リハビリをしてADLが上がっても、家族の事情で在宅復帰が難しく、老健を転々とする方が大半でした。病気を治しても、現実には家には帰れないことが多いです。
自宅に帰れると信じて一生懸命にリハビリしたのに帰れないことを知った入居者の落胆ぶりはそばで見ていて本当に切なくなります。

一方で、もちろん自宅に帰れる人もいます。退所した人が自宅で家族に囲まれて暮らし「やっぱりうちはいいねえ。」と生き生きとした表情でデイケアに通ってくる姿を見ると、老健本来の目的を果たせてよかったと思うのです。

 

老健はリハビリ施設のため、基本的には3カ月で自宅に戻るか、他の老健に移るか、どちらにしても一度退所することが望ましいとされています。しかし、現在は病院のように3カ月たっても介護報酬が減算されることはないので、施設は無理に追いだしません。そのまま長く老健で過ごす入居者もいます。

 

入居者とスタッフの関係も、在宅復帰という大目標があるために、かえってあいまいな状態が続きます。入居者は「もしかしたら家に帰れるかも」と、スタッフは「この人はもうすぐ帰るかも」と思い、お互いにとことんつきあう覚悟ができません。いやなことがあると「帰りたい」「帰ればいいのに」といった心境になり、宙ぶらりんの関係が続くことがあるのです。

 

(2)介護老人福祉施設(特養)

―やっと入れた。最期までいたい終の住処

 

特徴

看護の体制

利用者と関わる期間

要介護で自宅介護が困難な高齢者向け介護施設

医師:1名(非常勤可)

看護師:100人あたり3人

入所期間に制限なし

看取りまで関わる

 

通称「特養(とくよう)」といわれる介護老人福祉施設は、65歳以上の人で、身体あるいは精神に著しい障害があるために常時介護が必要で、かつ、家で暮らすことが困難な人が入れる施設です。

 

入居の期間に制限はなく、所得に応じた利用料の負担軽減の制度があり、体調を崩して入院治療が必要な状態にならなければずっといることができます。

 

しかし、入居待ちが全国で40万人ほどいるといわれ、入居までに数年かかってしまうこともあります。最近では介護状態が重い方が優先される傾向にあり、介護状態が中度~重度の要介護3以上でなければ、いつまで待っても入居することが難しい、という状況になってきました。

そのため、有料老人ホームに入居して特養の入居を待っている家族に「リハビリをして介護度が軽くなり、特養に入れなくなったら困る。くれぐれもリハビリはしないでほしい」という、本末転倒ながらも切実な要望を聞いたことがあります。

 

●看護師の働き方

特養は、介護保険が始まる前から、日常生活に支障があり家では暮らせない老人の生活の場として存在していました。措置制度の中で生活困窮者を救済する側面を持つ施設でもあったため、最低限の生活を保障するだけの集団処遇が当たり前でした。

 

介護保険が始まってからは、特養に入居することは措置ではなく、自由意思に基づく「契約」に変わり、誰もが等しく受けることのできるサービスに変わりました。

ケアも集団処遇から個別ケアを目指すようになり、一人一人を大切にしていこうという方針に変わってきています。

 

とはいうものの、今でも集団処遇に疑問を持たない施設が存在するのも事実です。特養は歴史が古いため、いまだに旧態依然とした体質が残る施設も存在していています。

また、個別ケアの必要性が分かっていても、スタッフの人数が充分とはいえず、最低限の介護をどれだけ効率的に行うかを考えるだけで精一杯な施設もあります。

 

●看護師と入居者との関係

入居者は、家族が説明しなくても「もう家には帰れない。自分は一生ここで暮らすことになる」と薄々は気付いています。

スタッフも最期までずっとお世話すると思っており、その覚悟もできています。そのため、お互いが親近感を持ち、まるで家族のような関係を持つことがあります。

 

特養には入居期間に制限がないため、入居者とスタッフは年単位で関わることになります。家族とも顔見知りになり、どんな人生を歩んできたのか?どんな最期を迎えたいのか?深く知ることができます。人生の最後を寄り添ったスタッフとの関わりは、本人が亡くなった後も家族の心にずっと残るのです。

病院やリハビリ施設ではなかなか難しい、生活の「生涯」のケアができる施設の一つが特養ではないかと思います。

 

【コラム】かつての特養の「集団ケア」の衝撃

20年ほど前、看護学生の時に実習で特養に行きました。部屋はうす暗く、10人ほどの大部屋で、入居者はみな同じ服を着て同じ刈り上げの髪型をしていました。当時「寮母」と呼ばれていたケアスタッフが、入浴時にはベルトコンベア式に入居者を浴槽に運び、デッキブラシのようなもので洗身をしていました。

患者さん一人一人のニーズをくみ取ることが看護だと学んでいた私にとっては、人を人として扱っていないその光景がとても衝撃的で、おどろおどろしく思えたことを今でも覚えています。

 

(3)介護療養型医療施設

―医療的なケアが必要でも入れる介護施設

 

特徴

看護の体制

利用者と関わる期間

医療的ケアが必要な高齢者向け長期療養施設

医師:3人(常勤)

看護師:100人当たり17人

入所期間に制限なし

看取りまで関わる

 

症状が安定していて、介護を中心とする施設では医療管理が難しい方を受け入れます。入居後も重度化したからといって退所を迫られることはありません。

 

●看護師の働き方と入居者との関係

入居者は、医療依存度が高く要介護状態の重い方が大半を占め看護師は処置に追われます。忙しい割には、回復して元気になることもほとんどなく、コミュニケーションをとることも難しいです。家族も「早く良くなってほしい」といった希望より、いつまでこの状態が続くのかという不安を口にしたりします。

 

介護療養型医療施設では、人生を終えようとしている人への延命治療がいったい誰のためのものなのか? 終末期医療の在り方を考えさせられる場面が多くありました。

 

「高齢者向け住宅」の目的と特徴

「高齢者向け住宅」は、集合住宅で生活しているので一見「施設サービス」のように見えますが、あくまで個人による「在宅」での暮らしです。その集合住宅に「居宅サービス」として介護や看護を提供します。

また、入居者は自立~終末期の様々な方が入居します。いろいろな人と関わることになりますが、「在宅」ですから、それはまさに生活の場そのもの。しつこいようですが治療の場ではないのです。

 

ここでは主な3種類の高齢者向け住宅を紹介します。違いを見ていきましょう。

 

高齢者向け住宅

 

(1)有料老人ホーム

―介護サービスがパックで付いてくる分譲マンション

 

施設特徴

関わり方

仕事内容

介護サービス付きの高齢者向け分譲住宅

施設により夜勤・オンコールあり

特定施設入居者生活介護として生活支援サービスを提供する

 

有料老人ホームの多くでは、住居と介護サービス(特定施設入居者生活介護)が提供されます。利用権方式の契約を採用しているところが多く、終身にわたり、居室と共用施設を利用する権利と介護や生活支援サービスを受ける権利が保障されます。

 

有料老人ホームは入居対象者の要介護度によって「介護付」「住宅型」「健康型」の3種類に分かれています。

「介護付有料老人ホーム」は介護が必要になったら有料老人ホームのスタッフが介護サービスを行ないます。「住居型有料老人ホーム」は介護が必要になったら外部の介護サービスを利用します。「健康型有料老人ホーム」は、介護が必要になると退去しなければなりません。当然、どの形態かによって、看護師の仕事内容も変わります。

 

●看護師の働き方と入居者との関係

スタッフによる虐待など劣悪なケアが取り上げられがちですが、一方で、利用者個人を大切にしたケアの実現に取り組んでいる有料老人ホームもたくさんあります。

 

有料老人ホームは、介護保険施設と比べると、多様なレクリエーションを提供しているのが特徴的かもしれません。

私自身たくさんの思い出があるのが、不測の体調不良に備えて看護師も付き添って外出する「お出かけレク」です。ショッピングモールや映画館、水族館など、様々なところに同行しました。同じことが同じ空間で繰り返される施設の中では起こり得ない、迷子や街中での失禁といったハプニングにも見舞われましたが、いつもは、にこりともしない方が声をあげて笑うなど、参加された方は本当に楽しそうで「日常生活」を彩るケアの大切さを実感しました。

 

(2)サービス付き高齢者住宅

―介護サービスが出前で頼める賃貸マンション

 

施設特徴

関わり方

仕事内容

介護サービスを選択できる賃貸住宅

訪問看護師として関わる

入居者が選択したサービスを提供

 

サービス付き高齢者向け住宅は、通称「サ高住」と呼ばれます。

入居者が住宅部分については建物賃貸借契約を結び、居住の権利が保障された上で、サービスを選択制で利用する賃貸住宅です。生活支援サービスを受ける場合は、サービスを提供する事業者ごとに契約を結びます。

 

●看護師の働き方と入居者との関係

看護師は訪問看護の立場で関わりますが、サ高住はまだ開始して日が浅い施設なので、看護師としての関わり方がまだまだ確立していません。

施設内に看護師が常駐しているにもかかわらず一人ひとりの入居者にかかわる時間が決まっていたり、訪問看護の契約を結んでいない人の急な体調不良に対応できないことといったことがあります。

 

(3)認知症対応グループホーム

認知症の人が少人数で暮らすシェアハウス

 

施設特徴

関わり方

仕事内容

軽度~中度の認知症患者のシェアハウス

週に数回訪問

健康管理と介護士へのアドバイスが中心

 

軽度~中度の認知症の方が、9人~18人ほどの少人数で生活をします。

なじみの空間でなじみのスタッフがお世話をして、食事の準備や家事を一緒に行います。看護師は、常時そこにいるというより、訪問看護師として週に数回ほど訪問することが多いでしょう。

 

【春野すみれ】看護師・介護支援専門員。総合病院で6年勤務後、介護保険開始以降施設系在宅系さまざまな事業所で老年看護に特化して携わる。現在は高齢者施設に勤務するかたわら、研修講師なども務める。

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