看護師の外来診察同席、がん患者の不安解消に効果|普及する「がん患者指導管理料」算定の現状と課題

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がん患者に対して、医師と看護師が共同で診断や治療方針についてきめ細かに説明することを評価する「がん患者カウンセリング料」が創設されて5年が経った。2014年度診療報酬改定では名称が「がん患者指導管理料」に変わり、要件も拡充され、がん患者の相談業務における看護師の役割は年々増している。医療現場でのこれまでの取り組みと今後の課題について、現場の第一線で活躍する3人のがん看護専門看護師に語り合ってもらった。(文中、敬称略)

(司会・まとめ:井田 恭子=日経メディカル)

 

左から、がん看護専門看護師の吉田智美氏、田中結美氏、二宮由紀恵氏

左から、がん看護専門看護師の吉田智美氏(滋賀県立成人病センター緩和ケアセンター副センター長)、田中結美氏(京都第一赤十字病院看護部看護師長)、二宮由紀恵氏(市立豊中病院がん診療統括センター副センター長)(写真:行友重治、以下同)。 

 

――勤務先での「がん患者指導管理料」の算定状況を教えてください。

 

田中 当院では2011年1月からがん患者カウンセリング料(現、がん患者指導管理料1)を算定しており、実績は年間500件前後です。14年度からがん患者指導管理料2の算定も開始し、昨年度の算定は150件ほどでした。

外来配属の私(がん看護専門看護師:CNS)と乳がん看護認定看護師(CN)の2人が主に活動しています。ほかにも5人のCNを担当者として登録してはいますが、兼務なのでなかなか関われないというのが実情です。

 

吉田 2014年の当院での算定は、がん患者指導管理料1が301件、2が38件でした。最も多いのが、放射線科外来での放射線治療看護CNによる算定です。そのほか、乳腺外来での算定も年間40件ほどと多く、こちらは病棟勤務のがん化学療法、皮膚・排泄、疼痛など様々な分野のCNが、当番制でそれぞれ週1回、乳腺外来等で対応し算定しています。

 

二宮 当院では7人のCN・CNSを登録していますが、主に活動しているのは、外来でフリーの立場で活動している私ともう一人のCNの2人です。当院では、がん患者指導管理料の施設基準の看護師配置を整えると同時に、医師が「看護師の同席が必要」と判断した際に予約を入れられる仕組みを整え、2014年から本格的に算定を開始しました。

 

もっとも、「算定ありき」で行っているわけではありません。がん患者指導管理料1は患者さん一人につき一生に1回しか算定できませんが、節目節目で介入が必要なケースも当然あります。診療報酬上で評価されたことで診察時に看護師が同席することのメリットを医師にも実感してもらいやすくはなりましたが、がん患者指導管理料の算定件数と実際に同席した件数とは、必ずしも一致しないのが現状です。

 

田中 確かに、緩和ケア研修を修了していない医師の患者さんには算定できませんが、だからといって、その医師の患者さんに対して「同席はしません」とはもちろん言いません。また、意思決定能力のない認知症患者さんは算定対象外ですが、実際には手術の意志決定支援に非常に時間を要しているといった、矛盾もありますね。

 

――具体的に、どのようなタイミングでがん患者さんに関わるのですか? 

 

田中 私は、告知の場面での介入依頼が多いです。初診のがん患者さんに検査結果を伝える際にはほぼ必ず同席依頼のある医師もいます。数回の面談で治療の流れに乗っていく患者さんが多いですが、診断時に既にステージ4で今後様々な困難が予想される患者さんや、患者背景などから意思決定が難しそうな患者さんについては、主治医や外来看護師と情報共有しながら継続的にフォローしていく場合もあります。

 

また、診断時に介入していなくても、例えば、外来化学療法中に「治療が奏功しなくなってきた」「病期が進んできた」といった患者さんに対して、外来の看護師や主治医との相談の上、介入する場合もあります。

 

吉田 当院では、放射線科外来以外の内科・外科系外来については、私たちが同席可能な時間帯を2枠設けていて、必要に応じて主治医に予約を入れてもらっています。中でも、先に述べた通り乳腺外科には重点的に関わっており、検査結果が出た段階で外来看護師から連絡を受け、告知の場面に同席しています。

 

患者ケアに関心の高い外来看護師は、次回外来で生検結果が出ると分かれば、「次はご家族と来てくださいね」と患者さんに伝えたり、「お一人暮らしですか」と声掛けするなど目配りしています。院内のがん相談支援センターへの橋渡しのほか、私たちにも適切なタイミングで患者さんを紹介してくれ、大いにサポートしてくれています。

 

滋賀県立成人病センターの吉田智美氏

「患者さんを適切なタイミングで紹介してくれる、外来看護師との連携も重要」と語る滋賀県立成人病センターの吉田智美氏。

 

二宮 確かに、介入ケースが増えてくると、全て患者さんの経過を逐一把握することは困難です。私たちの知らない間に大きなイベントが起きることもあるので、何か困った時に患者さんの方からアクセスできる方法・手段などを事前に情報提供しておくことも重要です。

 

――やはり、病期が進行した患者さんへの介入が多いのですか?

 

二宮 いいえ、必ずしも病期では判断できません。早期で治癒が望めるけれど不安が非常に高い患者さんもいれば、進行がんであっても、自分である程度分かった上で来られていて、意思決定に迷いが少ない患者さんもいます。

 

吉田 確かにそうですね。先日も、ステージ1の肺癌患者さんで、主治医は手術も終わり術後補助化学療法をすればあとは大丈夫、と思っていたのですが、不安の訴えが強いケースがありました。かつて乳癌を患い、再び癌になったことがショックだったと。自暴自棄になり仕事も辞めてしまい自宅で塞ぎ込んでいたところを、看護外来でこれまでの経過を振り返りつつ思いを聞きました。その後、仕事を再開され、少しずつ元気を取り戻されました。 

 

田中 当院の医師を対象に、がんカウンセリングの成果と課題について個別インタビューした調査では、「疑問がたくさんある」「治療への心構えができていない」「高齢者」「精神的に不安定」「社会的背景・家族関係が複雑」「理解がいま一つだが医師に聞きたいことを十分聞けない」――といった患者さんについて、医師の説明を看護師の立場で分かりやすく伝えてもらえると有用であるなどの意見が挙がりました(2015年2月の日本がん看護学会で発表)。

 

実際、がん患者さんの不安の中身をよくよく尋ねてみると、病気や治療への理解不足から来ている誤解に起因しているものが多い印象です。抗癌剤の副作用症状を指して、「まだ症状があるのに、『治療は終わった、退院しろ』とはひどい」とか。

反対に、「お医者さんは偉い人だから、質問をむやみにすると失礼じゃないか」という思い込みのある患者さんも中にはいます。限られた外来の診療時間で医師が説明に十分時間を掛けるのは難しいですから、私たちが“通訳”のような形で関われればと思っています。

 

京都第一赤十字病院の田中結美氏

「がん患者さんの不安の多くは、病気や治療への理解不足に起因している印象がある」と話す京都第一赤十字病院の田中結美氏。 

 

――診察に同席する際に心掛けていることは? 

 

二宮 医師の診察スタイルは、告知の仕方一つとっても様々です。看護師の関わり方についても、自分自身で患者さんに一通り説明した後にフォローを希望する医師もいれば、説明の合間に看護師に口を挟んでほしいという医師もおり、個々の医師のスタイルに合わせて対応しています。

一方の患者さんも、専門用語を交えた説明を望む方、数字での説明望む方など様々です。医師の説明を聞いている患者さんが、どこで質問しているか、どこでうなずいているか、どこで首をかしげているかなどを確認しつつ、その患者さんの情報ニーズを探ります。患者さんがもっと詳しく聞きたそうにしているけど医師がそのことに気付いていないようであれば、代わりに質問を行い、説明内容を咀嚼しきれていなければ、その場で、もしくは診察後に補足説明を行うなど、患者さんの反応を見ながら支援しています。

 

市立豊中病院の二宮由紀恵氏

市立豊中病院の二宮由紀恵氏は、「患者さんが事実を正しく認識し対処していけるよう、受け止め方を探りつつ支援していくことが私たちの役割」と話す。

 

田中 患者さんの中には、医師が告知後すぐに手術の予約など次の段取りを進めようとすると、面食らってしまう人もいます。医師はそろそろ説明を終わろうとしているけれど、患者さんがまだまだ聞きたそうであれば、「ご質問はありませんか」と患者さんに振ってみたり、反対に、医師からの説明が自分の中でうまく整理ができず混乱気味の患者さんには、「いったん外に出てちょっとお話をまとめてみましょうか」とクールダウンを促すこともあります。

 

吉田 もっとも、専門性を持った看護師が全てのがん患者に介入するのは現実には難しいのが現状です。

当院では主治医や外来看護師などが集まり、外来カンファレンスを月1回開き、フォローが必要な患者の情報を共有しています。外来看護師は診察に同席しないまでも、医師の説明の様子を見聞きしていますから、説明が足りないと感じた患者についてカンファレンスで伝えたり、通院時や入院時にフォローするなど、早めに介入できるよう工夫しています。最近は、月1回のカンファレンスでは間に合わないほど患者さんの数が多いので、フォローしきれない部分は、日ごろの看護師同士の情報交換で補っています。 


二宮 「多職種で」というと、自分の診察スタイルを評価されるのではと身構える医師もいますが、病気を診断して治療法を提示するのが医師の役割であるのに対し、私たちの役割は、患者さんが事実を正しく認識し対処していけるよう、受け止め方を探りつつ支援していくことです。そもそもの立ち位置が異なることを理解してもらい、信頼して任せてもらえるよう配慮しています。

 

田中 この活動を始めて、以前よりも医師の苦労が分かるようになった気がちょっとします。中には、一生懸命説明していても、ちょっとしたニュアンスの違いで患者さんから誤解を受けてしまう医師もいます。そういう医師ほど、実は患者さんを診察室に呼ぶ前にどう説明しようか真剣に考えていたりして……。

私たちがチームとして関わることで、医師の肩の荷も軽くなるのではないかと思いますし、視点の異なる職種が連携することで、患者さんをより確実に支えることが可能になるのではないでしょうか。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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