最終更新日 2018/05/28

顔面神経麻痺

顔面神経麻痺とは・・・

顔面神経麻痺がんめんしんけいまひ、prosopoplegia)とは、第VII神経である顔面神経が何らかの要因により障害を生じ、顔面に麻痺が生じたものである。前額のしわ寄せができない、まぶたが閉じられない、唇溝が消失する、口角が下垂する、口輪筋の筋力が低下するといった症状のほか、顔面の疼痛やしびれ、舌の前方2/3の領域における味覚障害、涙腺や唾液腺の分泌低下を症状とする。鏡で顔面の表情筋に左右差を認めたり、知人に指摘されたり、食べ物がこぼれるといった症状で気づくことが多い。

 

診断

顔面神経麻痺は一般的に末梢の顔面神経の障害のことを指すが、脳卒中などによる顔面神経の障害(中枢性障害)との鑑別が重要となる。一つの鑑別点として、前額のしわ寄せが消失しているかどうかが挙げられる。つまり、前額の表情筋であってもその中枢は両側に支配されているため、右側の脳卒中により左側の顔面神経麻痺を生じても、左側の中枢支配は保たれているので前額のしわ寄せは保持されていることが多い。一方で末梢神経の障害においてはその支配は完全に障害されるため、左側の顔面神経麻痺では左側の前額のしわは完全に消失することが多い。

 

原因

もっとも多い原因はベル(Bell)麻痺(約60%)とラムゼイ-ハント(Ramsay−Hunt)症候群(約15%)であり、以下に述べる。

 

ベル麻痺

特発性顔面神経麻痺として明らかな原因がないとされてきたもの。近年では単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus 1;HSV−1)の再活性化による神経炎が原因とされているが、それを同定する方法は確立されていない。

 

患者は40歳代に多く、人種や地理、性別の差は認めないが、妊娠三期や産後1週間では3倍のリスクがあるとされるほか、患者の5~10%に糖尿病が認められたとする報告もある。

 

後述するラムゼイ-ハント症候群よりは比較的軽症であることが多い。

 

ラムゼイ-ハント症候群

膝神経節に潜伏感染していた水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus;VZV)の再活性化による神経炎が原因とされている。

 

20歳代と50歳代の二回、発症のピークがある。顔面神経のほか、隣接する第Ⅷ脳神経である内神経の障害も伴うことがあり、①前述した顔面神経障害、②同側の耳介や鼓膜、口腔粘膜の有痛性の水疱、③同側の難聴や耳鳴、めまい、眼振を三徴とするが、無疱疹性帯状疱疹(zoster sine herpete;ZSH)という水疱や難聴・めまいを認めないものもあるため、ベル麻痺とされた顔面神経麻痺の18〜29%はラムゼイ-ハント症候群だったとする報告もある。

 

治療

治療はいずれも副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロンなど)、抗ヘルペスウイルス薬(アシクロビルなど)、ビタミンB製剤による保存的加療である。治療反応が悪ければ星状神経節ブロックや高圧酸素療法、外科的治療が行われることもある。後遺症が残った場合は、外科治療やボツリヌス毒素療法が行われる場合もある。ベル麻痺は予後が良好であり、約70%が自然寛解し、約90%は治癒するが、ラムゼイ-ハント症候群は約30%が自然寛解、治癒率は約60~70%と比較的予後不良である。重症の顔面神経麻痺では治療が遅れると神経の変性により回復が困難になるため、ラムゼイ-ハント症候群や重症の顔面神経麻痺では早期の治療介入が必要である。

執筆: 石田 光

元 神戸市立医療センター中央市民病院 救命救急センター

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