入院時から行う退院支援
『本当に大切なことが1冊でわかる循環器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は循環器疾患の退院支援について解説します。
加瀬美樹
新東京病院看護部
〈目次〉
- なぜ入院時から退院支援を考えるの?
- ポイント①入院時の情報から増悪因子を見抜く
- ポイント②セルフケア・モニタリングの必要性の説明
- ポイント③患者教育のための教育資材の活用
- ポイント④行動変容ステージモデルに合わせた指導
- 退院支援に役立つ自己効力感を高める方法
なぜ入院時から退院支援を考えるの?
生活習慣病と呼ばれる循環器疾患は、食事、運動、喫煙などの生活習慣の是正によって症状の悪化予防ができることが多いため、患者教育・指導が重要となります。
患者教育・指導には、患者さんが病気をどのように理解しているか、自己管理能力、患者さんのADL(日常生活動作)、家族構成と患者さんをサポートできる体制が大きく影響してきます。
医療者は教育支援するだけでなく、指導内容が継続できているかの評価、できていないところの情報収集とアセスメントを行い、必要時は再指導を行っていく必要があります。そのため、入院時の早期から退院支援を進めていくためにも、情報収集を行います(表1)。
★1 循環器のフィジカルアセスメント(近日公開)
★2 虚血性心疾患(IHD)の分類(近日公開)
★3 急性心不全の初期対応(近日公開)
ポイント①入院時の情報から増悪因子を見抜く
入院時の情報収集から、増悪因子(冠危険因子※1)となっているものを見抜き、正しくアセスメントを行う必要があります。
急性冠症候群(ACS)のリスクを評価するものに、TIMIリスクスコアがあります(表2)。複数のリスクファクターから評価し、リスクファクターの数が増加するほど、相乗的に予後が悪化するといわれています(表3)。
表3TIMI リスクスコアと 30日間の胸痛発作の発生率1)
ポイント②セルフケア・モニタリングの必要性の説明
心疾患の終末的な病態である心不全は、急性増悪し、再入院することが多い疾患です。急性増悪の原因として図1のグラフに示した「塩分、水分制限の不徹底」「感染症」「過労」「治療薬服用の不徹底」は、患者さん自身が是正できるものが多くあります。
そのため、心不全ガイドラインには、「患者の自己管理が重要な役割を果たし、自己管理能力を向上させることにより、予後は改善する」とあります。
ポイント③患者教育のための教育資材の活用
高血圧手帳・糖尿病手帳・心不全手帳など、患者さんが記録できる患者手帳はたくさんあります(図2)。まずは、院内で統一した教育媒体を使用することが望ましいです。統一した教材を使用することで、患者さんと医療者間の共通認識が、多職種間での共通認識につながります。
患者手帳とは、患者さんもしくは家族や介護者が、患者さんの病状を記録する手帳で、入院中から毎日の血圧・脈拍・症状などを記録します。毎日の情報を受診時に医師へ提供できるだけでなく、患者さんや家族が異常を早期発見することができ、早期の受診行動につなげることができます。
患者手帳の活用方法には、以下のようなものがあります。
心身の状態に関する情報を共有する
入院中はもちろん、退院後に患者さんが毎日の測定値(血圧・脈拍・体温・体重など)や症状を記載した手帳は、自宅で生活する患者さんの生活状況や症状、特徴に関する情報源となります。例えば、患者さん・家族は毎日記録している数値から受診すべきかを判断し、理解できているのか、適切な対処行動がとれていたのかについて把握することができます。
セルフモニタリング能力を促進させる
医療者と患者さんが記録手帳を一緒に振り返り、測定や記録ができたことを医療者がほめます。できていない部分については把握し、継続できるように支援することで、自己管理が継続できているという自信(=自己効力感)の強化が期待できます。
コミュニケーションツールとして活用する
退院後も患者手帳をとおして患者さんと医療者が情報を共有し振り返ることで、患者さんは医療者から「見守られている」という安心感をもつことができ、さらなる自己管理への意欲にもつながります。手帳をコミュニケーションツールとして活用することは、患者さんと医療者の関係を安定させることができます。
ポイント④行動変容ステージモデルに合わせた指導
退院支援は、患者さんが病気について、そして自己管理の必要性を理解できているかから始めます。簡単なことから複雑なことへと段階を経て進めていくと患者さんの学習意欲は高まります。
人が行動を変える場合、行動変容ステージモデルという「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」を経ていきます(図4)。患者指導をするときは、今はどのステージにあるかを把握する必要があります(表4)。
退院支援に役立つ自己効力感を高める方法
人の行動は「その行為を行えばよい結果が得られる」という予測に加えて、「自分にもできる」という予測、つまり「自信」が伴い実行に移されます。したがって患者さんの行動変容を促すためには、自己効力感(できるという自信)を高めることが必要になります。
患者さんがすぐにできる小さな目標を設定し、小さな成功体験を積んでいくことが成功のカギとなります。また、何らかの理由で変化を妨げられた場合は、ステージを逆戻りすることもあるので注意が必要です。
以下の①~④に示した内容が自己効力を向上させるためには重要です。このなかで最も自己効力感を高めるのは成功体験です。
①成功体験
成功体験とは、何かをやり遂げた、成功した実体験のことです。
スモールステップ法を用いて、できることからコツコツと、「できない」よりも「できる」をたくさん体験することで患者さんのやる気を引き出すことがポイントになります(図5)。
②代理的経験
代理的経験とは、他者が達成している様子を観察することによって、「自分にもできそうだ」と感じることをいいます。「あの人にできるなら自分にできないはずはない」というわけです。
③言語的説得
言語的説得とは、専門性をもった人から賞賛を受けたり、達成可能性を言語で繰り返し説得することです。
言語的説得のみによる自己効力感は、容易に消失しやすいといわれています。
④高揚感と想像
「できる」と思える環境に身を置いたり、想像することです。
[文献]
- 1)Antman EM,Cohen M,Bernink PJLM,et al.The TIMI risk score for unstable angina/non-STelevation MI.A method for prognostication and therapeutic decision making.JAMA 2000;284:835-842.
- 2)池亀俊美企画編集:特集 「おさらい」で看護力UP! 3大疾患 総復習.循環器ナーシング 2015:5(3).
- 3)内藤博昭医学監修,伊藤文代編:循環器看護ケアマニュアル 第2版.中山書店,東京,2013.
- 4)百村伸一,鈴木誠編:慢性心不全のあたらしいケアと管理 チーム医療・地域連携・在宅管理・終末期ケアの実践.南江堂,東京,2015.
- 5)佐藤幸人編著:CIRCULATION Up-to-Date Books 02 スペシャリスト集団になる! 最強! 心不全チーム医療.メディカ出版,大阪,2014.
- 6)佐藤栄子編著:事例を通してやさしく学ぶ 中範囲理論入門 第2版.日総研出版,愛知,2009.
- 7)木原康樹,森山美和子,広島大学病院心不全センター 他 編著:心不全ケアチーム構築マニュアル 広島発・チームの作りかたと地域連携の道のり.メディカ出版,大阪,2016.
- 8)日本心臓リハビリテーション学会:指導士認定試験準拠 心臓リハビリテーション必携.日本心臓リハビリテーション学会事務局,東京,2011.
- 9)Yancy CW,Jessup M,Bozkurt B,et al.2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure:a report of the American College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines.Circulation 2013;128:e240-e327.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 循環器 第2版』 編集/新東京病院看護部/2020年2月刊行/ 照林社