胸腔ドレナージ | ドレーン・カテーテル・チューブ管理

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は胸腔ドレナージについて説明します。

 

中島 淳
東京大学大学院医学系研究科呼吸器外科学教授
宇野光子
東京大学医学部付属病院看護部副看護部長

 

〈目次〉

 

《胸腔ドレナージについて》

 

主な適応
胸腔内に空気・液体が貯留した場合(気胸・胸水)
開胸手術や胸腔鏡手術を行った場合(肺切除術・食道切除術・縦隔腫瘍、胸膜腫瘍の切除術、心臓手術など)
目的
肺の再膨張、術後出血、肺からのエアリーク、リンパ液漏出の監視
合併症
挿入時の血管・神経損傷、挿入時先端による臓器損傷、逆行性感染、膿胸
抜去のめやす
ドレーンを2~3時間クランプ後、胸部X線写真で肺の虚脱がみられない場合
胸水:1日量が4mL/体重kg(成人ならば1日200mL)よりも少なくなった場合(ただし血胸・膿胸を除く)
観察ポイント
ドレーン刺入部の皮膚トラブルやドレーンチュー ブの屈曲・ずれなどがないか観察する
水封室を確認し、陰圧や呼吸性移動、気泡(エア リーク)の状態などをチェックする
ケアのポイント
ドレナージ回路 : 適切な吸引圧の維持および感染予防のため、ドレナージボトルは転倒させないようチェックする
ドレナージ回路 : エアリークや気胸があるときにクランプは行わない。また、ミルキングも日常的には行わない

胸腔ドレナージ

 

胸腔ドレナージの定義

1胸腔の解剖

胸腔は胸壁・縦隔・横隔膜によって囲まれた空間であり、左右の肺がそれぞれ左胸腔、右胸腔の中に収まっている(図1)。

 

図1胸腔の解剖

胸腔の解剖

 

胸腔は体外とは隔絶されており、横隔膜・胸壁の運動によってその容積が大小に変化することによって、左右の肺が受動的に膨張・縮小して換気が行われる。

 

肺自体は表面の肺胸膜の弾性のために常に縮小しようとするため、胸腔の中は常に陰圧である(安静時で約-5cmH2O)。

 

2胸腔ドレナージの目的

正常な胸腔内には空気は存在せず、ごく少量の胸水が存在するだけであるが、種々の疾患のために胸腔内に空気や液体が貯留することがある。また、開胸手術や胸腔鏡手術を行った場合には、閉胸後にも胸腔内に空気が遺残したり、血液やリンパ液が貯留しうる。

 

胸腔内に気体や液体が貯留すると、肺が圧排され、容積が小さくなり、十分な換気が行われなくなるために呼吸機能低下をきたす。また、術後に胸腔内に出血があった場合、外から出血の程度を把握するのは困難である。

 

すなわち胸腔ドレナージ、特に手術後に行う胸腔ドレナージは、①開胸操作によっていったん虚脱した肺の再膨張のため、②胸腔内術後出血、肺からの空気漏れ(エアリーク)、その他リンパ液などの漏出の監視のために行うものであり、該当する手術では手術中に胸腔ドレーンを必ず挿入しなければならない。

 

3胸腔ドレナージの方法

前述の通り、胸腔内は陰圧であるため、腹腔ドレナージのように、ただ排液チューブを挿入しただけでは外界から胸腔に空気が逆に流入し、かえって肺が虚脱してしまう。このため、常にドレーンチューブに陰圧をかけておく必要がある。または、胸腔内に外界から空気が流入しないような工夫が必要である。

 

このため、通常は胸腔ドレーンに持続陰圧吸引装置をつなげる(図2)。

 

吸引圧は通常10cmH2O程度とする。図2に示した3つの瓶が一体となったディスポーザブル製品(Pleur-evac®、キューインワン〈図3〉など)が市販されている。

 

ドレーンは、手術中閉胸前に比較的太いもの(24Fr以上)を留置する。

 

図2持続陰圧吸引の原理

持続陰圧吸引の原理

 

図3製品の一例(キューインワン)

製品の一例(キューインワン)

 

胸腔ドレナージの適応(胸腔ドレナージが必要となる手術)

「肺切除術」「食道切除術」「縦隔腫瘍、胸膜腫瘍の切除術」など、胸腔内の臓器に対する手術を行った場合には、開胸手術・胸腔鏡手術などの手術経路にかかわらず胸腔ドレナージが必要となる。

 

「胸骨正中切開から行われる心臓手術」や「前縦隔腫瘍の手術」においても、右または左の縦隔胸膜が切開されて胸腔が大気に開放される場合がある。このようなときには胸腔ドレナージが必要となる。

 

 

胸腔ドレナージの挿入経路・留置部位

胸腔ドレナージを行うためには、ドレーンを胸壁から胸腔内に刺入する必要がある。手術時は、全身麻酔下に、手術終了直前に胸腔ドレーンが留置されるが、気胸や胸水貯留に対しては局所麻酔下に胸壁皮膚を切開し、肋間を通して胸腔内にドレーンの先端を挿入する。

 

1手術時の挿入・留置

手術時は、胸腔内のドレーンの位置を観察しながら挿入できる。

 

エアリークの観察を重視する場合には、ドレーンの先端が肺尖部に到達するように注意する。

 

術後胸腔内の出血や胸水をドレナージするためには、曲がったドレーンを留置し、先端が横隔膜背面となるように留意する。

 

2手術時でない場合(気胸・胸水貯留時など)

手術時ではない場合に胸腔ドレナージを行う際、挿入時にドレーン先端が胸腔内の肺や心臓・肋間動脈など、外側から見えない臓器・組織を損傷しないことが最も重要である。一般的に安全な刺入経路としては、前胸部鎖骨中線第2肋間であり、気胸に対してはこの経路がよく使われる。

 

胸腔ドレーンの挿入を行う場合、刺入予定部位を十分に局所麻酔し、皮膚を必要最低限切開する。ペアン鉗子などを用いて、前胸壁の筋層、および肋間筋を鈍的にある程度剥離しておく。

 

ドレーン固定用の糸、およびドレーン抜去直後に結紮縫合するための糸をあらかじめ皮膚切開部にかけてから、トロッカーカテーテルを創部に進め、鈍的に胸腔内に進める。トロッカーを肋間に進めるときには、肋間の足側の肋骨に沿わせるようにして挿入し、肋骨下縁にある肋間動静脈や肋間神経を損傷しないように注意する。

 

トロッカーカテーテルの先端が胸腔内に到達すると、呼吸性にトロッカーカテーテルを通して空気が出入りすることが確かめられる。胸腔内にトロッカーカテーテル先端が到達したら、ゆっくりと先端を肺尖部まで進める。

 

胸腔ドレナージの合併症とチェックポイント

1胸腔ドレナージの合併症

胸腔ドレナージの合併症は、①挿入時の肋間動静脈・肋間神経損傷(血管損傷すれば出血、神経損傷すれば疼痛、感覚異常)、②挿入時先端による肺や心臓の損傷、③ドレーンからの逆行性感染、膿胸が挙げられる。

 

2胸腔ドレナージのチェックポイント

胸腔ドレナージの管理で特に気をつけたいチェックポイントを以下に示す。

 

①術後出血

1時間あたり200mL(または4mL/kg)以上の血性排液がつづく場合には、「術後出血」を疑い、再手術・止血術を考慮する。

 

胸腔ドレーンが凝血のために閉塞すると、一見排液が減少するので注意する。ドレーン閉塞時は、ドレナージの水封部液面の呼吸性移動が消失する。

 

ドレーン閉塞が疑われた場合、ドレーンをミルキングして閉塞の有無を確かめる。ミルキングを行っても閉塞が解除されない場合があることに留意する。

 

上記のほか、血圧低下・頻脈尿量減少など、術後出血を疑わせるバイタルサインの変化に注意する。

 

もしもドレーンの閉塞ならびに出血の持続が疑われる場合には、胸部X線撮影を行い診断する必要がある。

 

②エアリーク

肺切除術後、肺切除縫合部が破綻して肺内から胸腔内に大量のエアリークが出現することがある。この場合、術後胸腔ドレナージにて連続性に、すなわち患者の吸気時・呼気時にかかわらず水封室における多量のエアバブルが見られる1

 

エアリークを認めた場合、または逆に呼吸時に水封室の水面が上下に動かない場合には、図4に示すようにドレーンや吸引装置の異常のないことをチェックしたうえで、患者の状態を判断する必要がある。

 

エアリークの排出が不十分であると胸腔内の空気が皮下に侵入して「皮下気腫」(図5)をきたす場合がある。このような場合には、再手術、肺再縫合が必要となる。

 

図4胸腔ドレナージにおけるトラブル対策

胸腔ドレナージにおけるトラブル対策

 

図5皮下気腫をきたす原因

皮下気腫をきたす原因

 

胸腔ドレナージの利点・欠点

利点:胸腔内の状態、特にエアリークや出血の有無についてリアルタイムに情報を得られる。

 

欠点:局所の疼痛、運動制限があるとともに、挿入時に肋間動静脈・神経や胸腔内臓器(肺・心臓など)を損傷する危険がある。

 

胸腔ドレナージの抜去

1抜去時期

胸腔ドレナージが不要と判断されたら、すみやかに胸腔ドレーンは抜去されるべきである。

 

ドレーン抜去の時期は、原因疾患が治癒し、エアリークや多量の胸水の発生がなくなったときである。具体的には、2~3時間程度ドレーンをクランプしたあとに胸部X線写真を撮影し、肺が虚脱していないことを確認してから胸腔ドレーンを抜去してもよい。

 

胸水については、めやすとして1日量が4mL/体重kg(成人ならば1日200mL)よりも少なくなった場合(ただし血胸・膿胸を除く)に胸腔ドレーンを抜去してもよい。

 

2ドレーン抜去法

抜去後ただちにドレーンの創を閉じる必要があるため、ドレーン挿入の際にあらかじめ抜去後に縫合する糸をかけておくことが推奨される。

 

ドレーン抜去の際に空気が胸腔内に流れ込むのを防止するため、抜去時は患者に息こらえをしてもらい、ドレーンはできる限り手際よく抜くことが必要である。

 

抜去後に胸部X線写真を撮影し、気胸の再発などがないことを確認する。

 

胸腔ドレナージのケアのポイント

胸腔ドレナージの管理には、胸腔内の解剖生理(図1)に加え、ドレナージに通常使用される胸腔ドレナージボトルの原理(図2)と構造を十分に理解しておくことが必要である。

 

1観察のポイント

適切なドレナージが実施できているか、図6に示す項目を確認する。

 

図6胸腔ドレーン挿入中の観察点・リスク

胸腔ドレーン挿入中の観察点・リスク

 

気胸ではドレナージが不十分だと、水封部水面の呼吸性移動が消失したり、ドレーン周囲の皮下気腫が拡大する場合がある。

 

緊張性気胸はドレナージ直後に解除されるが、再膨張性肺水腫に注意が必要で、呼吸状態、・痰の有無、SpO2の低下を観察する。

 

肺切除術では、胸腔内出血の把握のために排液の性状と量、ドレーン閉塞の有無を観察するとともに、バイタルサインの変動に注意する。

 

膿胸では、有瘻性か無瘻性かが観察上重要である。

 

2管理上の注意

時期に合わせた管理ポイントを表1に示す。

 

表1胸腔ドレーンの管理ポイント

胸腔ドレーンの管理ポイント

 

そのほか、特に注意したい点を以下に挙げる。

 

①ドレナージボトルの転倒予防

ドレナージボトルが転倒すると、水封室の水が移動して外気が胸腔に逆流し、肺虚脱や逆行性感染の危険性がある。また、排液が水封室に移動し適切な胸腔圧での管理が行えなくなる可能性があるため、患者の歩行時やベッド移動時などは十分に注意する。

 

万一、転倒した場合はすみやかにボトルを交換する。

 

②ドレーンクランプ

エアリークや気胸があるときにドレーンをクランプすると、肺胞内に空気が充満し「緊張性気胸(図7)」の誘因となりうる。そのため、X線撮影や体位変換などで患者の移動が必要な場合においても、指示がない限りはドレーンをクランプしない。

 

ただし、胸腔からのエアリークがなく、ドレーンの抜去を考慮するときだけはクランプしてもよい。あるいはドレナージ装置の交換時に、一時的なクランプが必要となる。

 

胸水が多量に貯留した場合には装置を交換する必要があるが、交換の際は必ずトロッカーカテーテルを鉗子などでクランプしておき、空気が流入しないように注意する。また接続部位の消毒を前後にわたり入念に行う。

 

図7緊張性気胸

緊張性気胸

 

③ミルキング

ドレーン全体をミルキングすることにより、胸腔内を一過性に過陰圧状態にする危険性があるため、日常業務としてのミルキングは行わない。ただし、排液によりドレーンが閉塞するリスクがある場合は実施することもある。

 

3トラブル・異常時の対応

胸腔ドレナージ実施中に起こりうるトラブル・異常時の対応を表2に示す。

 

表2起こりうるトラブル・異常時の対応

起こりうるトラブル・異常時の対応

 

Column:胸腔ドレナージの新しい機器

近年コンピュータ制御による持続ドレナージ吸引装置が市販されている。設定した吸引圧を発生させドレナージを行うだけでなく、毎分あたりのエアリークの量(mL/分)のリアルタイム表示および経過記録・トレンド表示が可能である。さらにドレーンの閉塞や外れに対してアラームを発するなど安全性が高まっている。

 

本体は小さく、またバッテリーが内蔵されているため、患者の移動は容易である。

 

ドレーンの観察時に、最近のエアリークの変化を知ることができるため、胸腔ドレーンの抜去時期をより早く安全に行うことが可能である。結果として、入院期間を短縮することができる(図8)。

 

図8コンピューター制御による持続吸引装置 (ThopazTMトパーズ吸引器、メデラ株式会社)

コンピューター制御による持続吸引装置 (ThopazTMトパーズ吸引器、メデラ株式会社)

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)中島淳:胸腔ドレナージ.臨牀看護2003;29(6):804-809.
  • (2)東京大学医学部付属病院看護部 監:ナーシング・スキル日本版.エルゼビア・ジャパン.https://nursingskills.jp/(2015年6月1日アクセス)

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

SNSシェア

看護ケアトップへ