縦隔ドレナージ | ドレーン・カテーテル・チューブ管理
『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は縦隔ドレナージについて説明します。
橘 啓盛
杏林大学医学部外科学(呼吸器・甲状腺)助教
田中清美
杏林大学医学部付属病院看護部(s-6病棟)主任看護師
近藤晴彦
杏林大学医学部外科学(呼吸器・甲状腺)教授
〈目次〉
《縦隔ドレナージについて》
主な適応 |
心臓・縦隔術後のドレナージ(術後出血・体液排出) 壊死性降下性縦隔炎、膿瘍のドレナージ(感染) |
目的 |
心臓、縦隔手術後:術後出血の監視、余分な体液の排出 食道破裂、壊死性降下性縦隔炎、膿瘍のとき:膿の排出 |
合併症 |
ドレーン回路の接続不良、出血、感染 |
抜去のめやす |
排液量:「<100mL/日」となれば抜去を考慮する 色・性状:「淡血性」から「漿液性」になることがめやす |
観察ポイント |
ドレーンの挿入部、固定部、接続部(タイガンバンドのゆるみ)、排液量・性状、ドレナージの吸引圧などを観察する |
ケアのポイント |
ドレナージ回路:閉鎖回路として持続吸引を行う。ドレーンを開放してしまうと体液貯留や、胸腔と交通がある場合は気胸の原因となりうるため注意 感染予防:胸骨正中切開後の場合、縦隔炎を起こすと感染コントロールに難渋するため、特に清潔管理に注意が必要 |
縦隔ドレナージの定義
縦隔とは、胸腔内の両側肺、横隔膜、胸椎、胸骨に囲まれた部位をいい、心臓や大血管、気管、食道など重要な臓器を含んでいる。ほかに胸腺、リンパ節、胸管、神経なども含まれている。縦隔と胸腔には壁側胸膜によって隔てられている(図1)。
縦隔ドレナージは、心臓や縦隔手術後に必須となる。
縦隔腫瘍の手術などでは、しばしば壁側胸膜を合併切除することがある。こうなると胸腔と縦隔は交通することになり、縦隔ドレナージのほかに胸腔ドレナージも同時に必要になる。
縦隔ドレナージの適応
適応として最も多いのは、心臓や縦隔手術後のドレナージで、術後出血の監視や余分な体液の排出を目的とする。
このほか、食道癌や食道損傷により食道が破裂して縦隔内に感染をきたした場合と、頭頸部の炎症が下降して縦隔に感染が波及することによって生じる壊死性降下性縦隔炎や縦隔膿瘍(図2)に対するドレナージがある。
これらは当然、感染に対するドレナージが主な目的である。縦隔にはそれほど大きなスペースがないため、少量の液体貯留でも感染を起こしやすく、深刻な状況が発生することがある。つまり、縦隔に感染を起こすと、早期に全身へ波及し重篤な状態になりやすい。
このため、縦隔の感染は早期に診断し治療(原則はドレナージ)を行う必要がある。
挿入経路と留置部位
縦隔手術後のドレーン挿入経路は、手術アプローチによっても変わる。
- ①胸骨正中切開創の場合:正中創の直下から挿入し、心囊の前に留置するのが通常(図3)である。
- ②胸壁から胸腔鏡や開胸などによるアプローチの場合:胸腔を経由したドレナージとなる。
- ③壊死性降下性縦隔炎の場合:頸部からドレナージを行うこともある。
- ④手術操作で縦隔と胸腔に交通がある場合:胸腔ドレーンで縦隔のドレナージもあわせて行うことがある。
縦隔ドレナージの合併症
1ドレーン回路の接続不良
縦隔内は胸腔内と同様に陰圧であるため、閉鎖回路として持続吸引を行う必要がある。このため、ドレーンを開放してしまうと縦隔に体液が貯留したり、胸腔と交通があるときは気胸の原因となることがあるため、注意が必要である。
2出血
挿入部から出血することがあり、止血をよく確認する。
3感染
挿入部の皮膚やドレーン回路から逆行性感染を起こすことがあり、ドレーンの清潔管理に注意する。
手術後のドレナージ(特に胸骨正中切開後の場合)では、縦隔炎を起こすと骨髄炎を併発したり、胸骨を固定しているワイヤーなどの異物のため感染コントロールに難渋するため、特に清潔管理に注意が必要である。
胸骨正中切開後に縦隔炎を合併した症例の縦隔造影検査画像を図4に示す。保存的に軽快したものの、治癒に1か月以上要した。
縦隔ドレナージの利点と欠点
利点:手術以外の縦隔炎に対するドレナージでは前述の通り、早期に対応する必要がある。しかし、適切にドレナージされれば、スペースは大きくはないので治癒が可能である。
欠点:スペースが小さく、胸骨や胸腔と隔てられているのでアプローチ経路が限定される。
縦隔ドレナージのケアのポイント
1観察(表1)
縦隔ドレーン挿入中の患者の看護は、ドレーン留置による合併症に注意するとともに、ドレナージが有効に行えているか、排液の量や性状などに異常がないか観察を行っていくことが大切である。
2逆行性感染の予防
留置中は呼吸性変動と陰圧がかかるため、逆行性感染の危険性があり、清潔の確保と医師の指示による消毒が必要である。
3患者指導
ドレーン留置の必要性を説明し、ドレーンを引っ張る・排液バックを倒すなどしないよう指導する。
ドレーン留置による不安の軽減や訴えの傾聴にも努める。
[引用・参考文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社