肝内胆管拡張症は閉塞性黄疸のサイン

画像検査のなかでも、エコー(超音波)検査は、侵襲度が低く、簡便に行える検査です。
外来や病棟で、看護師が目にすることの多いエコー検査について、コツやポイントを消化器内科医が解説します。
今回は、「肝内胆管拡張症は閉塞性黄疸のサイン」についてのお話です。

 

加藤真吾
(横浜市立大学附属病院がんゲノム診断科)

 

「肝内胆管が拡張している」という言葉を、聞いたことはありますか?

 

聞いたことあります。
でも、どんな状態で、何をしないといけないかは、よくわかりません。

 

肝内胆管が拡張しているかどうかの検査は、右季肋部痛を訴える患者さんや、黄疸の患者さんに対して行います。

 

肝内胆管が拡張していると、どうなるんですか?

 

閉塞性黄疸という疾患の疑いが強くなります。
閉塞性黄疸はイメージし難い疾患ですが、緊急の処置が必要な疾患のため、要注意です。
病態と緊急度に注意して、解説を読んで下さい。

 

〈目次〉

 

肝臓内部にある胆管が拡張している状態

肝内胆管拡張とは、肝臓の中にある細い管の肝内胆管が、通常時よりも拡張している状態を表しています(図1)。

 

図1肝内胆管の解剖図

 

肝内胆管の解剖図

 

通常、健康なヒトの肝内胆管は拡張していません。「肝内胆管拡張なし」が、正常の所見です。「肝内胆管拡張あり」は異常所見で、胆管の圧が高まっていることを指しています。

 

ココが大事!肝内胆管の拡張は異常な状態

肝内胆管拡張なし・・・正常

 

肝内胆管拡張あり・・・異常胆管の圧が高まっている

 

エコー検査を行う必要がある患者

肝内胆管の拡張の有無を調べるためのエコー検査は、主に右季肋部痛を訴える患者さんや、黄疸の患者さんに対して行います

 

この検査の目的は、閉塞性黄疸の有無を評価することです。閉塞性黄疸は、緊急に処置が必要な疾患です。このような疾患が存在するかどうかを、エコー検査で判断しています。

 

ココが大事!右季肋部痛や黄疸を疑う患者さんと肝内胆管拡張の検査

肝内胆管拡張なし・・・閉塞性黄疸なし

 

肝内胆管拡張あり・・・閉塞性黄疸あり緊急事態

 

肝内胆管拡張の疾患解説

閉塞性黄疸は緊急処置が必要な危険な状態

閉塞性黄疸は、肝臓で作られて十二指腸へ分泌されるはずの胆汁(図2)が、その経路(胆道)のどこかでせき止められてしまった場合に起こります。

 

図2正常時の胆汁の流れ

 

正常時の胆汁の流れ

 

肝臓で生成された胆汁は、総胆管から、胆囊や十二指腸を通り、排出されます。

 

胆汁がせき止められる2大要因

胆汁がせき止められる原因としては、結石と腫瘍が2大要因です(図3)。

 

図3閉塞性黄疸が発生する2つの要因

 

胆汁がせき止められる2つの要因

 

A:腫瘍(膵頭部癌)が原因で胆汁の流れがせき止められた場合。
B:結石が原因で胆汁の流れがせき止められた場合。

 

これらの要因によって、胆管が詰まり、胆汁の流れが悪くなります。このように、胆汁がせき止められることで、閉塞性黄疸は発生します。

 

閉塞性黄疸の主な症状

閉塞性黄疸の主な症状は、右季肋部痛と黄疸です。黄疸とは、ビリルビンという色素が血液中に増加し、その結果、全身の皮膚が黄色くなる状態のことを指します。

 

原因はさまざまですが、黄疸の中でも、「閉塞性」というタイプの黄疸は、緊急に処置が必要な危険な状態と覚えておいてください

 

閉塞性黄疸は抗菌薬が効かない感染症に進展する

身体の中で、通常流れているものがせき止められると、そこに細菌の感染が起こります。胆汁の流れが阻害されると、十二指腸内の腸内細菌が胆管内を通して感染します。この形式の感染を、胆汁の流れと逆行するという意味で、逆行性感染と言います。

 

胆管は、肝臓の中では類洞というスペースを介して血流と交通があります。このため、胆汁内で細菌が感染すると、それらは直接血流に乗ってしまいます。こうなってしまうと、いくら抗菌薬を血管から投与しても、次々に細菌が胆汁側から供給されるため、なかなか感染症が治りません。

 

重篤な症例では、感染症が原因で起こる敗血症性ショックというショック症状になる場合があります図4)。

 

図4感染した細菌が増殖する様子

 

感染した細菌が増殖する様子

 

十二指腸にいる常在菌が、腫瘍が原因で胆汁の流れがなくなったことで、逆行性に体内に入ってきています。

 

ココが大事!閉塞性黄疸が危険な理由

胆汁の流れが詰まる → 逆行性感染 → 敗血症性ショック

 

閉塞性黄疸は内視鏡的胆道ドレナージで治療

閉塞性黄疸から起こる逆行性感染、そして敗血症性ショックへと進展する流れを食い止めるためには、一度せき止められた胆汁の流れを、再度開通させる処置が必要になります。

 

通常、この処置は内視鏡を用いて行います。代表的な内視鏡による治療法として、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography:ERCP)、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)、内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(endoscopic retrograde biliary drainage;ERBD)の3種類があります。

 

治療法①:内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)

内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)は、内視鏡を十二指腸まで挿入し、その先端から造影チューブを出し、X線で胆管像を観察する手技です(図5)。

 

図5内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)

 

内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)

 

十二指腸まで挿入した内視鏡の先端から造影チューブを出して胆管内に挿入します。
そのチューブから造影剤を入れて、X線で胆管像を観察します。

 

治療法②:内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)

内視鏡的経胆道ドレナージ(ENBD)は、チューブの片方が鼻から出ているので、チューブが詰まっても外から洗うことにより、詰まりを解除できるという利点があります図6)。このため、ENBDは急性期に選択されます。しかし、患者さんにとっては苦痛があり、このままでは退院はできません。

 

図6内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)

 

内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)

 

ドレナージチューブを用いて、胆汁を鼻から体外に出します。

 

治療法③:内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)

内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)は、患者さんの負担が少ないですが、ステントが詰まったら、再度、ERBDを行う必要があります(図7)。

 

図7内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)

 

内視鏡的逆行性胆管ドレナージ

 

ステントを総胆管と十二指腸の間に挿入し、胆汁の流れを維持します。

 

閉塞性黄疸の患者さんには、上記のような内視鏡を用いた3つの治療法を行うことが一般的です。

 

ドクターが、「患者さんは閉塞性黄疸だ」という診断をした場合、直ちに処置を行う必要がある、ということを押さえておいてください。

 

ココが大事!閉塞性黄疸は緊急処置

閉塞性黄疸の診断 → 緊急処置(通常、内視鏡治療)!

 

ナースへのアドバイス

閉塞性黄疸は、緊急処置が必要な危険な状態です。このため、ドクターは、右季肋部痛や黄疸の患者さんを診断すると、まず「閉塞性黄疸か否か」を鑑別します。

 

この結果、閉塞性黄疸であると診断がついた場合には、ERCPと呼ばれる緊急内視鏡検査を行うこともあります。

 

肝内胆管が明らかに拡張している症例では、エコー検査だけでも閉塞性黄疸を診断することは可能ですが、実際は、血液検査やCTなど、他の検査と総合して診断を決定します。

 

エコー検査は外来ですぐにできるという利点を活かして、血液検査の結果が出るまでの時間や、CTを撮影するまでの合間の時間に行うことが多いです。

 

 

Check Point

  • 肝内胆管の拡張は、エコー検査で診断できる代表的な所見です。
  • 閉塞性黄疸は、緊急処置が必要な危険な状態です。
  • エコー検査は、他の検査結果が出るまでの時間や合間の時間に行われることが多いです。

 

次回は、実際の肝内胆管が拡張している患者さんのエコー写真を紹介します。
検査の準備や、申し送り時、看護記録記入時のポイントについてもしっかりと覚えましょう。

 

[次回]

肝内胆管が拡張しているエコー像

 

[関連記事]
  • ⇒『初めてのエコー(超音波)検査』の【総目次】を見る

 


[執筆者]
加藤真吾
横浜市立大学附属病院がんゲノム診断科

 


Illustration:田中博志

 


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