骨格筋の構造|動く(3)
解剖生理が苦手なナースのための解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より
今回は、骨・筋肉についてのお話の3回目です。
[前回の内容]
解剖生理学の面白さを知るため、骨の機能について知りました。
今回は骨格筋の構造の世界を探検することに……。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
うーん、それを説明するにはまず、骨格筋の構造を知ってもらう必要がありそうね
行ってみますか?
筋肉へ
骨格筋の構造(図1)
筋肉の組織って、そうめんの束みたいですね
骨格筋を構成している筋線維は直径10~100μmで、 長さ10~100mm。そうめんよりも、ずっとずっと細いのよ
あれっ? 筋線維の中をのぞくと、またまた細い束がいくつも集まってますよ
それは、筋原線維とよばれます。筋線維は、その筋原線維を数百本も集めて束にしたものなの
図1骨格筋の構造
縞模様をつくる2種類の線維
骨格筋を構成しているのは多数の筋線維(筋細胞)です(図2)。細胞質には数百から数千本の収縮性のある筋原線維がぎっしり詰っており、長軸に沿って並んでいます。
図2骨格筋の微細構造
筋原線維をよく見ると、暗く見える部分(暗帯=A帯)と明るく見える部分(明帯=I帯)があり、縞模様を形成しています。縞模様を形成しているのは、2種類の線維(フィラメント)です。どちらもタンパク質でできていて、アクチンというタンパク質でできている細い線維をアクチンフィラメント、ミオシンというタンパク質でできている太い線維をミオシンフィラメントとよびます。
2種類の線維の並びを模式化した図2を見てほしいの。まずは、A帯の中央にある、H帯という細い縞に注目して
左右のアクチンフィラメントの隙間ですね
そう。実は筋肉が収縮して短くなるのはこの部分だけ。2種類の線維の長さはまったく変わらないの
筋収縮の動きはトランプをきるイメージ
筋収縮の動きは、トランプの束を2つに分けて、交互にパラパラときっていく様子をイメージしてもらえばわかりやすいかも知れません。トランプを2つに分けて横に並べると、見た目には倍の長さになりますが、それをきって交互に重ねていくと、トランプ1枚分の長さに戻ります。
筋肉の収縮もこれと同じです。図3を見ると、筋肉が弛緩(しかん)した状態では、ミオシンフィラメントはA帯にあり、アクチンフィラメントはI帯とA帯のH帯以外の部分にあります。
図3筋収縮の仕組み
筋肉が収縮すると、アクチンフィラメントが両側から滑り込んできて、H帯の幅がちょうど消えてしまいます。
あたかも筋肉全体が伸びたり縮んだりしているように見えながらも、実は1本1本の筋原線維の長さは同じまま、というわけです。
なるほど。筋肉が収縮するって、そういうことだったんですね
ちなみに、I帯の中央にはZ線があり、Z線とZ線の間を筋節とよびます。筋節は、骨格筋の機能的な構成単位になるのよ
筋肉の収縮とカルシウムの関係
筋肉の収縮には、神経伝達物質のアセチルコリンが関係している、とお話しました。厳密にいうと、アセチルコリンは筋収縮のきっかけをつくるだけで、収縮そのものを起こすわけではありません。どういうことか、説明しましょう(図4)。
図4興奮と筋収縮
運動神経からの信号が神経筋接合部に到達すると、神経細胞の末端からアセチルコリンが放出され、それが筋肉の細胞膜を刺激します。その刺激は、筋肉細胞内にある筋小胞体からカルシウムイオンを放出させ、そのカルシウムイオンがアクチンフィラメント上のトロポニンというタンパク質に結合すると、ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントの連絡橋が形成されます。
筋肉を収縮させるのは、この連絡橋の存在です。連絡橋が形成されると、ミオシンフィラメントの頭部がアクチンフィラメントを引き寄せ、アクチンフィラメントがミオシンフィラメントの間に滑り込んできます。
筋肉が収縮するためには、アセチルコリンだけではなく、カルシウムイオンの助けも必要なんですね
そうなの。筋肉運動の仕組みはだいたい、理解できたかしら?
もう、バッチリです
では、おさらいに筋肉と骨格がどのように連携しながら、私たちの身体を動かしているのか、肘関節の運動を例にとって、説明してみましょう
肘関節の屈伸運動
解剖学では、肩関節と肘関節の間を上腕、肘関節と手関節の間を前腕といいます。肘関節を介した上腕と前腕がつくる角度が180度になることを伸展、180度より小さくなることを屈曲とよびます。
肘関節の屈伸運動でポイントになるのは、上腕の内側にある上腕二頭筋と外側にある上腕三頭筋です。これらの筋肉はどちらも、腱を介して肩関節と肘関節をこえ、骨格についています。
中枢神経から運動神経を通り「腕を曲げろ」と指令が届くと、上腕二頭筋が収縮します。筋肉が発達している人の場合、このとき力こぶができます。
上腕二頭筋が収縮すると、その外側の筋肉―上腕三頭筋―は同時に弛緩し、それによって前腕の骨格が引っ張られて腕が曲がります。これが、筋肉の収縮によって肘関節が曲がる仕組みです(図5)。
肘関節を伸ばすときは、この逆になります。
図5肘関節の屈伸運動とその仕組み
注目すべきは、中枢神経からの指令は、収縮させたい筋肉にしか届かないということです。弛緩の命令は下りません。脳は腕を曲げたいと思うときは上腕二頭筋へ、伸ばしたいときは上腕三頭筋へ「収縮しろ」と命令するだけです。
筋肉を動かすエネルギー源
ところで、運動するとエネルギーを消費しますね。そのエネルギーって、どこから調達すると思う?
エネルギーの源はATPだから、栄養素を酸化させて取り出すんじゃなかったでしたっけ?
でも、運動中にモノを食べてエネルギーを補給するわけにはいかないわよね
うーん、それもそうですね……。そうか、わかった! どこかに蓄えてあるのを使えばいいんですね
そうね。筋肉にはもともと、ATPが蓄えてあります。でもね、蓄えてあるATPはほんのわずか。それだけじゃ、はげしい運動や長時間の運動には耐えられないのよ
筋肉を動かせば、ATPが消費されます。しかし、筋細胞に蓄えられたATPはそれほど多くありません。ATPが消費されるのみで補充されないと、筋肉が5~6回収縮しただけで、エネルギーが尽きてしまいます。では、私たちはどうやって、長時間の運動に必要なエネルギーを獲得しているのでしょうか?
身体はまず、筋肉に蓄えた糖(グリコーゲン)を使います。それを分解することで、必要なATPを取り出すのです。分解のプロセスは2段階に分けられます。1段階目は酸素を使わない(嫌気性)解糖系とよばれるプロセス。グリコーゲンからピルビン酸を作り出す過程で、1分子のグルコースから2分子のATPを取り出します。もう1つは、筋肉に貯蔵しておいたクレアチンリン酸を使います。運動時にATPが消費されてADPが増えるので、クレアチンリン酸はリン酸基をADPに渡してATPに再合成します(図6)。
図6ATPの生成と消費されるプロセス
この反応はカール・ローマン(Karl Lohman、1934)により発見されたため、ローマン反応とよばれています。
もちろん、蓄えておいたクレアチンリン酸にも限界はあります。なおもATPが必要な場合には、今度は解糖系によってできたピルビン酸をミトコンドリアの中で酸素を使って分解することで、ATPを取り出します。これが、先の反応の2段階目で、クエン酸回路(TCA回路)です。
はげしい運動で、筋肉への酸素の供給が間に合わなくなると、ピルビン酸から乳酸がつくられます。乳酸の生成過程に生じる水素イオンと乳酸が放出する水素イオンによって、筋肉のpHが酸性になることが疲労の蓄積の理由の1つになっています。
それにしても、いつ、どうやってエネルギーが使われるんだろう? どうもイメージできません
筋肉がATPを必要とするのは、ミオシンフィラメントがアクチンフィラメントを引き寄せるときよ。そこでATPは消費されるの
ATPを消費するのは、収縮時だけですか?
いいえ、弛緩時にもエネルギーは必要よ
カルシウムの回収にもATPは必要
まずは、弛緩のメカニズムをみてみましょう。
筋肉の弛緩は、脳からの指令が止まることでスタートします。すると、カルシウムイオンがアクチンフィラメントから離れ、2種類の線維をつなぐ連絡橋がなくなります。ミオシンフィラメントの間に滑り込んでいたアクチンフィラメントはもとの位置に戻り、これによって筋節は、もとの長さに戻ります。
以上が筋肉弛緩のメカニズムですが、注目してほしいのは、アクチンフィラメントから離れたカルシウムイオンの行方です。実はこのカルシウムイオンは、再び筋小胞体に回収され、再利用されます。ATPが使われるのは、まさにこのとき。エネルギーを使ってカルシウムイオンを回収することで、筋肉は収縮と弛緩を持続的に繰り返すことができるようになるのです。
死後、筋肉が弛緩されずに硬直してしまうことを死後硬直といいます。実はこれにもATPが関係しています。死ぬと呼吸も代謝もなくなるため、ATPが産生されず、放出したカルシウムは回収されません。そのため収縮した筋肉が弛緩されずに固まってしまいます。ただし、死後硬直はずっとそのままではありません。しばらくすると、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントそのものが破壊されて、筋肉は融解してやわらかくなります。
骨格筋と熱
筋肉が収縮すると、その副産物として熱が発生します。筋肉を収縮させる動力源としてATPが使われると、そのエネルギーの4分の3が熱となって放出されるのです。
こうして発生した熱は、正常な体温を維持するために使われます。骨格筋は、最大の体熱供給源でもあるのです。
コラムマラソンに強い赤筋と短距離走に強い白筋
骨格筋は肉眼で見える色によって、赤筋と白筋に分類されます。筋線維にはミオグロビンという色素タンパクとミトコンドリアが含まれており、赤筋にはその量が多く、白筋には少ないために色が違って見えるのです。
ミオグロビンは一種の複合タンパク質で、筋ヘモグロビンともよばれています。化学的構造はヘモグロビンにとてもよく似ていて、酸素と結合し、酸素を貯蔵する機能をもっています。
赤筋と白筋のうち、長時間の運動に強いのは赤筋です。赤筋は白筋に比べるとやや細めで筋肉の内側に多いといわれています。赤筋を動かす燃料は脂肪酸です。この脂肪酸を燃焼させるには多くの酸素が必要となるため、赤筋にはミトコンドリアが多く含まれています。また、この脂肪酸はエネルギー効率(1gあたり9Kcal)がよく、クエン酸回路で燃焼すると多くのATPが取り出せます。したがって、酸素の供給さえ間に合えば、長時間にわたって力を出し続けることができます。
一方、白筋はミトコンドリアが少ない代わりに、グリコーゲンを多く貯蔵しています。白筋は、このグリコーゲンを燃料として使用しています。解糖系を使ってグリコーゲンをピルビン酸に分解すると、赤筋よりも早くATPを取り出せるため、瞬発的な運動に向いています。
ただし、解糖系で取り出せるATPは少なく、エネルギー効率(1gあたり4Kcal)も悪いため、長時間の運動には耐えられません。これらのことから、赤筋はマラソン型の筋肉、白筋は短距離走型の筋肉ともいわれます。
ちなみに、魚にも赤身と白身があります。赤身の代表といえばマグロ。長距離を、ひたすらゆっくり泳ぐので赤筋が発達しています。白身の魚といえばヒラメやカレイ。こちらは砂地で待ち伏せして一瞬で獲物をとる魚なので、瞬発力のための筋肉である白筋が発達しています。
コラム筋肉は使わなければ衰える
筋肉は使えば使うほど鍛えられ太く強くなりますが、使わなければ細く弱くなっていきます。骨折してギブスを巻いたり、病気療養のための床上安静が長く続くと、1週間で筋力の約15%が失われ、1か月で筋肉の大きさが約半分になってしまう、といわれています。
療養といえば注射や点滴を受けながら安静にしていることだった時代の名残りか、「病気になったら安静がいちばん」という考えが広まってしまいました。しかし、不必要な安静はかえって体力を弱めます。脳卒中や大腿骨骨折の患者の場合、長時間安静を続けると、動く方の手足の筋力まで衰えてしまうこともあります。
筋肉の衰えは高齢者ほど早く、ちょっとしたけがで入院し、長時間安静を続けると、そのまま寝たきりになってしまいかねません。過度の安静による筋肉の衰えは「廃用症候群」と総称されます。身体のあらゆる臓器にも影響するため、注意が必要です。
コラム反射とは
針を誤って指に指してしまった場合、「痛い」と感じる間もなく、すばやく手を引きます。このような反応を、反射といいます(図7)。
図7脊髄反射の経路
反射では、電気信号が脳に達する前、つまり、脊髄の段階で命令が発せられるため、通常よりスピーディな反応が起こります。反射による行動は、大脳で知覚・判断するよりはるかに早く起きるので、防衛反応の1つと考えられます。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版