人工呼吸器装着患者の褥瘡予防のためのポジショニング
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『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は人工呼吸器装着患者の褥瘡予防のポジショニングについて解説します。
江村真弓
綜合病院山口赤十字病院/皮膚・排泄ケア認定看護師
ポジショニングのポイント
- 人工呼吸器装着患者の体位保持の基本は頭部を挙上させることであるため、禁忌でなければ、頭部を極力30度以上挙上した体位をとらせる。
- 頭側挙上を行うことにより、同一部位への持続的な圧迫とずれが増加し、褥瘡発生のリスクが高まる。
- 褥瘡予防のためには高機能マットレスを導入すること、”2時間” にこだわらず適切な間隔で体位変換を行うことも考慮できる。
- 鎮静状態が深い夜間は、日中よりも頭部挙上を浅くし、病変部位を上にした体位を中心に体位変換を行う。
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人工呼吸器装着患者の体位の基本
人工呼吸器装着患者の体位管理の基本は頭部を挙上させることである。そこで、禁忌でなければ、頭部を極力30度以上挙上した体位をとらせる。体位によって肺容量は大きな影響を受けるためである(表1)。
頭側挙上は人工呼吸器関連肺炎の発生率を減少させるとされている1)。
しかし頭側挙上を行うことにより、同一部位への持続的な圧迫とずれが増加し、褥瘡発生のリスクが高まる。
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褥瘡予防のための体圧分散
1 マットレスの選択
圧分散のために高機能マットレスを使用し、同一部位に持続する圧迫・ずれに対応すると同時に、適切な接触面積を確保する。
自動体位変換マットレスは、ALI(急性肺傷害)患者の酸素化を改善するが2)、肺炎などの合併症を予防するかどうかについてはさまざまな意見がある。
2 体位変換の頻度
一般的に、体位変換は ”2時間ごと” に ”側臥位-側臥位” で行うことがよいと考えられている。
2時間間隔の体位変換と体位ドレナージは混同されがちだが、体位ドレナージは選択された患者で行うものであって、通常の体位変換とは異なる。
体位ドレナージは、同一体位を10~20分間継続する。「10~20分」の根拠は、気道分泌物が線毛運動により1分間に約1cm末梢から移動するためと考えられる。
体位ドレナージなどの排痰手技は、主に慢性呼吸不全などで喀痰量が著しく多い患者での有用性が証明されている3)。しかし、ICUなどで急性期に人工呼吸管理を受けている患者での有用性は不明であり、積極的に行う必要はないとされている。
ただし、末梢気道における分泌物の貯留を認める患者の場合、体位変換スケジュールのなかに体位ドレナージを組み込むことは効果的であると考える。
3 体位変換方法
鎮静状態が浅い日中は大きく頭部を挙上させる。
夜間は鎮静状態を深くし、頭側挙上を日中よりも浅くする。
呼吸状態が非常に不安定で鎮静状態が常に深い場合や、重度の意識障害の場合は、日中、夜間を問わず病変部位を上にした体位を中心に体位変換を行う必要がある場合もある。
換気が不良な部位を上にすることによって、その部位の換気を改善できることが多い。この効果は「喀痰が落ちる」という体位ドレナージ的な従来の考えではなく、換気が不良な部位に対して換気が行われやすくなるという現象の効果であると考えられる。
人工呼吸器装着患者の体位変換は、褥瘡予防だけでなく無気肺や肺炎の予防にも重要である。そのため通常の体位変換(左右の30度側臥位、図1-①、図1-②)に加えて、90度側臥位(図2-①、図2-②)、側臥位(図3)も取り入れる。
側臥位は、自発呼吸が少ない患者では換気改善に効果がある場合が多く、腹臥位と比較して容易に行うことができる。さらに、側臥位から体位変換すると実施しやすい。
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ピローの素材と大きさ
鎮静や意識障害の患者の頭部は後屈しやすいため、頭部から肩までをしっかり支えることができる大きめのピローを使用する(図4)。
側臥位を安定させ、患者にとって苦痛のない体位を保持するため、上半身、下半身に大きなピローを挿入する(図5)。
観察とアセスメント、そして混沌
ポジショニングを行う際には、観察とアセスメントが重要になります。常に意識していることは、「森を見て木を見ず、木を見て森を見ず」の格言のように、細部と全体を行き来させながら見るように努めていることです。
子どもの頃、風景画や写実画をよく描きましたが、その際、近くと遠く、細部と全体を見ながら描くということが求められるので、こうした物の見方が自然と身についたように思います。この見方・観察の仕方は、看護師として働くなかでいろいろ便利であることに気づきました。
患者さんに傷があるとき、目は傷そのものにいきますが、傷の周辺から傷がある手、そして受傷した患者さんの表情など、傷そのものからどんどん傷を持つ患者さんの全体像へ目が広がっていきます。そして、また傷に戻ります。
無意識のうちに身についたこの観察方法は、ただの観察から「よいのか/悪いのか」という判断につながり、アセスメントに至ります。
私がポジショニング方法において、身体のアライメントを強調し、その見方や観察の仕方を説明するのは、私のこんな癖というか成長過程が影響しているのかも知れません。
しかし昨今、大きな課題を抱えています。これまでのように、観察とアセスメントの重要性を強調するのみではなく、もっと「どう介入すればよいのか」「より自然に近づけるためにどうすればよいのか」等、具体的介入について、多くの場面でシンプルに、そして普遍的理論のもとに説明したいという混沌とした思いの中にいるのです。
日常ケア場面で遭遇するさまざまな、子どもから高齢者、女性や男性等、いろいろな人や状況に適応・応用できる、シンプルな真実と方法を抽出・析出し、そして解明できたらと思い願いながら、細部と全体を行き来させつつ観察しアセスメントを続けています。
田中マキ子(山口県立大学看護栄養学部教授)
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引用・参考文献
1)豊岡秀訓 編:人工呼吸器の使い方.照林社,東京,2004.
2)坂本すが 他 監修:決定版 ビジュアル臨床看護技術.照林社,東京,2011.
3)藤野彰子,長谷部佳子 監修:看護技術ベーシックス.医学芸術社,東京,2005.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社