牽引中の患者の褥瘡予防のためのポジショニング

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『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は牽引中患者の褥瘡予防におけるポジショニングについて解説します。

 

田中マキ子
山口県立大学看護栄養学部教授

 

 

牽引中患者の褥瘡予防の課題要因・目標・介入

 

ポジショニングのポイント

  • 牽引中は、同一体位が続くこと、牽引によるずれ力の影響などから褥瘡が発生しやすい。そのため、マットレスやシーツの選択・使用上の工夫が必要となる。
  • 大腿骨頸部骨折等における牽引では、骨折面に応じて牽引角度の指示が異なる。この際、股関節の角度に応じて牽引されなくてはならないが、下肢(膝下)からの位置調整に終始せず、股関節からアプローチすることが重要である。
  • 殿部・踵部には、特に圧迫とずれ力が生じやすいため、定期的に部分圧迫による圧上昇、ずれ力の上昇を軽減させる。

 

 

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寝床環境の検討

1 マットレスの機能と構造の選択(図1

牽引中は、同一体位が続くこと、牽引によるずれ力も生じるため、厚みもあり柔らかな高機能の静止型マットレスを選択する。

 

図1 適切なマットレスの選択

圧分散がよく、部分圧迫が少なく、ふわふわした感じがなく、身体全体の“包まれ感”があるマットレスを選択する

*以下、体圧データは被験者や測定条件、測定器の感度特性によっても異なるため、一例として示す

適切なマットレスの選択

 

マットレスの表面にジェル等が使用されているものでもよい。

 

エアーマットレスの上にウレタンフォームを重ねたハイブリッドタイプのマットレスも有効である。

 

ブラウン架台の場合は、柔らかいマットレスの上に段ボールや板を置き、据える牽引台の床面が安定するように工夫する必要がある。

 

2 シーツの素材

殿部、牽引される下肢下には、牽引によるずれ力が機械的にかかる。

 

そのため、滑る素材のシーツ等を使用しないと皮膚にずれが生じる。下着、寝衣にも滑りが効く素材のものを使用するよう勧める(図2)。

 

図2 ずれに対する摩擦係数を少なくできるシーツ(ハイパー除湿シーツ® :株式会社モルテン)

摩擦係数を少なくできるシーツ

 

バスタオルは、表面の糸がループ構造になっており、滑らない素材と言える。

そこで、牽引中の患者の殿部にバスタオルを使用すると、下肢は牽引方向に引っ張られる(滑る)が、殿部は滑らず、その位置にとどまるのでずれ力が高くなると同時に体圧の上昇を招く。

 

 

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ポジショニングの際の牽引角度の維持

牽引は大腿骨頸部骨折等において多用される。そこで、骨折面に応じて牽引角度の指示が異なる。

 

ポジショニングの際、股関節の角度に応じて牽引されなくてはならず、股関節からアプローチすることが重要である(図3-①)。特に、下肢(膝下)からの位置調整にのみ終始してはならない(図3-②)。

 

図3-① 牽引角度の維持

股関節から下肢全体を動かす

牽引角度の維持(良い例)

 

図3-② 牽引角度の維持

下肢(膝下)だけを動かすのはダメ

牽引角度の維持(悪い例)

 

 

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ずれ力緩衝のためのケア

下肢がより広い支持面で体重を支えられるよう、膝蓋骨がまっすぐ上を向くようなポジション維持に努める(図4-①)。

 

図4-① 下肢のポジショニング

下肢のポジショニング

 

牽引下肢が外旋しない(図4-②)ように、そのポジションを維持する。

 

図4-② 下肢の外旋と滑り

下肢の外旋と滑り

 

部分的な圧分散は、下肢全体を支えることを妨げ、その結果、部分圧迫につながる(図4-③)。そこで部分的に圧分散するのではなく、下肢全体の圧分散を図ることを目指さなくてはならない。

 

図4-③ 下肢の部分圧迫

下肢の部分圧迫

 

牽引下肢が外旋すると、腓骨小頭部の部分圧迫につながり尖足を生じる可能性が高くなる。

 

殿部・踵部には、圧迫・ずれが生じやすい。そこで、ポジショニング・グローブを用い、定期的に部分圧迫による圧上昇、ずれ力の上昇を軽減させる(図5)。

 

図5 圧の解消

圧の解消

 

 

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圧迫の予防

腓骨小頭部は、表在し圧迫を受けやすい形態学的特徴を有する。圧迫による腓骨小頭麻痺は尖足位をもたらし、歩行時の障害となるので、徹底した予防管理を行わなくてはならない。

 

予防方法としては、患者にしっかり説明し、膝頭が天井へ向くように意識してもらうことが重要である。

 

睡眠等、無意識な状態に置かれると、身体が弛緩して股関節が外旋しやすくなる。そのため、患者がリラックスする際や睡眠等の無意識下にあっても、股関節が外旋しないようなポジショニングをする必要がある。

 

牽引側の大転子下に小ピローを「股関節が開かないようなイメージ」で挿入すると股関節が中間位に保たれ、それにつながる膝部も倒れない。

 

小枕は大転子下に挿入するが、殿筋(人間が持つ、天然のクッション)があるので部分圧迫とはなりにくい(安全である)。ただし、できるだけ柔らかい素材のものを使用することが安楽の面からも望ましい。

 

図6 下肢に装着する牽引用ブーツとして考案されたもの

下肢全体を包むと同時に部分圧迫がかからないよう工夫されている。また、下肢が外旋し腓骨小頭部が部分圧迫を受けないよう、下肢の外旋防止のためにブーツ上に支持用ウレタンが設置されている。

牽引用ブーツ

 

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社

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