呼吸困難を持つ患者のポジショニング

『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は呼吸困難を持つ患者のポジショニングについて解説します。

 

江村真弓
綜合病院山口赤十字病院/皮膚・排泄ケア認定看護師

 

 

呼吸困難患者の課題要因・目標・介入

 

ポジショニングのポイント

  • 呼吸筋の弛緩を図りながら呼吸量を最大に得られる体位としては、「立位」「座位」「仰臥位」「腹臥位」が有効である。
  • 最も望ましい体位である立位では疲労しやすいため、実際には「座位」「仰臥位」「腹臥位」を工夫する。
  • 呼吸が楽なポジショニングのポイントは、上半身を何かに支えられる状態にすることである。

 

 

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呼吸困難の際の基本的な体位

「呼吸困難」とは、意識的に努力呼吸を行わなければならない状態、または“息苦しい”“呼吸がしにくい”等の症状がある場合を言う。

 

呼吸困難を緩和するためには、呼吸筋の弛緩を図りながら呼吸量を最大に得られるようにすることが重要である。

 

一般に、呼吸量が大きい順にとられる体位は、立位>座位>仰臥位>腹臥位である。

 

呼吸筋の弛緩を図るためには腹腔内圧を低下させる必要がある。実際に、重力の影響から胸郭は最大に膨張し、胸腔内臓器が下方へ押し下げられると同時に横隔膜が下がって呼吸面積が広くなることで換気の効率がよくなる。

腹腔内臓器も下方へ移動して、腹腔内圧は低下する。

 

そのために最もよい体位は立位であるが、立位は疲労しやすく、長時間の体位には適さない。そこで、ベッド上に臥床しつつ、少しでも呼吸筋の弛緩が得られるよう、通常、座位や頭側挙上位をとるようになる。

 

 

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頭側挙上による褥瘡発生の危険性と体圧分散用具

呼吸を楽にするためにとられる体位である頭側挙上では、同一部位に持続する圧迫とずれが生じる。そこで褥瘡の発生リスクが高まる。

 

褥瘡防止のため体圧分散用具を使用して、より広い接触面積をもたせ、限局された部位への圧迫を減少させる。このとき使用する体圧分散用具は、頭側挙上しても底付きしないものである。

 

1日の大半を頭側挙上で過ごす場合は、尾骨部に褥瘡発生の危険性があるため、高機能マットレスを使用することが望ましい(図1)。

 

図1 呼吸困難(1日の大半を頭側挙上で過ごす場合)に適切な高機能マットレス

高機能マットレス

(株式会社モルテン)

 

 

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ポジショニングの方法

呼吸が楽なポジショニングのポイントとしては、上半身を何かに支えられる状態にすることである。

 

そのためには、上肢は垂れた状態にせず、何かの上に置く。例えば、膝の上に手をつく、あるいはテーブル上に肘をつくなどして、上肢が支えられる状態の体位をとることが必要である。

 

1 立位

運動後の息切れが強いとき、または歩行中に呼吸困難になる場合、後ろの壁に寄りかかったり、腕を支えるものに置いて休めたりすると呼吸困難が早く回復する場合がある。

 

2 座位・前屈位

呼吸不全の患者では、前屈位は横隔膜の運動効率をよくすることで呼吸困難を緩和する体位になるという報告がある1)

 

肺水腫など肺循環にうっ血がある状態では、起座位や前屈位をとることで、うっ血した血液が重力の影響で下方に移動することにより呼吸が楽になる。

 

①座位(図2

前方に傾くことから坐骨が突出し、部分圧の上昇を招く。部分圧が上昇することで褥瘡発生の可能性が高まるので、圧分散を図るために体圧分散用具を使用する。

 

図2 座位でのポジショニングの方法

座位でのポジショニングの方法

体圧図

 

下肢に挿入するピローは下肢の緊張を緩め、また胸腹部に圧迫がかからない程度の厚みのものを使用する。

 

背部に挿入するピローは、安楽・安定性を重視し上半身全体を支持できる大きさのものを使用する。

 

上肢は溝を作ったピローで支持し安楽に保つ。

 

ピローを身体全体に挿入した後に、必ず圧抜きを行い、部分圧迫やずれの解除を行う。

 

さらに、体位の安定を図り、疲労の低下、腹部への圧迫の回避のために、大きいピローを抱えるように挿入してもよい。

 

②前屈位(図3

前屈位は、座位時に最も呼吸が楽なポジションである。

 

留意点としては、殿部圧を減じるために体圧分散用具を使用することである。

 

背中が曲がることを予防し、胸腔・腹腔内臓器を下方へ下げることができ、体位の安定と疲労の低下、腹部への圧迫の回避のために、オーバーテーブルと身体との間にピローを挿入する。

 

オーバーテーブルの高さは、患者の状態に応じ、患者の意見や要望を取り入れながら調整する。

 

図3 呼吸困難における前屈位のポジショニング

呼吸困難における前屈位のポジショニング

 

3 臥位(頭側挙上)

殿部から大腿後面の接触面積が増し、圧分散されやすいように頭側挙上は30度を基準とする(図4)。

 

図4 呼吸困難における臥位のポジショニング

呼吸困難における臥位のポジショニング

 

腹部の緊張を緩め、腹腔内臓器を下方へ下げる。また、下肢の緊張を緩め、安楽感をもたらすことができるよう膝下にピローを挿入する。これは、踵部への部分圧迫を回避することにも効果的である。

 

4 側臥位

呼吸筋は上肢の運動にも関与する。上肢を運動状態にしておくと呼吸筋は呼吸のために十分にはたらくことができなくなるため、上肢を支えて非運動状態にする。そのため上肢をピローで支える(図5)。

 

腹部の緊張を緩めるため、膝関節が屈曲するようにピローで支えるとよい。

 

図5 呼吸困難における側臥位のポジショニング

呼吸困難における側臥位のポジショニング

 

5 セミファーラー位

仰臥位に比べ、腹部の緊張を緩め安楽感をもたらすことができるセミファーラー位も呼吸が楽なポジショニングである(図6)。

 

下肢の緊張を緩めるため、下肢は軽度屈曲させる。

 

上肢は溝を作ったピローで支持し安定させて安楽に保つ。

 

図6 呼吸困難におけるセミファーラー位のポジショニング

呼吸困難におけるセミファーラー位のポジショニング

 

呼吸困難を持つ患者では、呼吸困難の程度、個々の体型および個々の条件(麻痺の有無や医療処置から発生する制限事項)など、いくつもの制約がかかる。

 

意識のある患者の場合には、患者の意見や要望を取り入れながら頭側挙上の高さや角度、使用するピローの素材や形状等を吟味する必要がある。

 

自力での体位調節が困難な場合には、人手を確保し、安楽を保ちながら速やかに体位を整えることが必要である。

 

 

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引用・参考文献

1)田中マキ子,栁井幸恵 編:これで安心! 症状・状況別 ポジショニングガイド.中山書店,東京,2012.

2)祖父江正代,近藤まゆみ 編:がん患者の褥瘡ケア.日本看護協会出版会,東京,2009.

3)川村佐和子,他 編:基礎看護学 基礎看護技術.メディカ出版,大阪,2004.


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社

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