清潔ケア場面でのポジショニング

『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載。一部改変。
今回は清潔ケア場面でのポジショニングについて解説します。

 

栁井幸恵
綜合病院山口赤十字病院/皮膚・排泄ケア認定看護師

 

 

清潔ケアの課題要因・目標・介入

 

ポジショニングのポイント

  • シャワーベッド使用時は、圧迫・ずれにより短時間でも褥瘡が発生・悪化する可能性があるため、シャワーベッドと直接接触しないようにピロー等で体位を整える。
  • 背部を洗浄するときの側臥位では、下肢をずらすなどしてベッドとの接触面積を広くとり、大転子部や肩峰部等にかかる体圧をなるべく少なくする。
  • 洗髪時は、どのような体勢でも身体の安定を図るとともに、仰臥位であれば患者の背面のずれ力を解除するため背面の圧抜きを行う。また、洗髪時、肩甲骨部から頸部にかけてピロー等で支えると、安楽な体位が保たれる。

 

清潔ケアの基本

・清潔のケアには、全身の皮膚や粘膜を清潔にして生理機能を高める効果、温熱刺激等で血液循環を促し代謝を高める効果、リラックスして副交感神経が優位になることによる鎮静や催眠効果などがある。

 

・清潔の援助方法には、入浴や全身清拭、足浴など部分浴や洗髪などがあり、その患者の病態や状況によって選択する必要がある。

 

・入浴の効果としては、温熱作用(循環促進・血圧変動・発汗作用)、静水圧作用(新陳代謝の亢進・循環促進)、浮力作用(筋肉負担の軽減・関節可動域の拡大)などがあると言われている。

 

・リラックス効果等を得るためにも、これらのケアを安楽な体位で行い、より高い効果を得るケアが必要である。

 

 

目次に戻る

入浴・シャワー浴

 

入浴の基本

・入浴方法には、座位での入浴・臥位での入浴、またはリフトバスがある。患者の病態によって、適切な体位・方法を決定する。

 

・水面下に沈んだ身体は、水の重量による圧を受けているが、顎の高さまで入浴すると圧の影響を強く受け、心臓への静脈還流が増加し、心臓への負担が増える。そこで、心疾患をもつ患者の場合、深さは横隔膜までがよいとされている。

 

入浴中は、浮力があるため圧迫等の影響は受けづらい。しかし、入浴から上がった後のシャワー浴や更衣の際のポジショニングでは、直接皮膚がシャワーベッド等に接触するため、配慮が必要である。

 

湯船から上がると浮力がなくなり、直接体重がかかる。特にシャワーベッド等でのケアの際は、裸であることや皮膚がベッドに直接触れていること、狭いベッド上であることなどから、筋緊張が増す。

 

やせている、拘縮などがあり骨突出が強い、また、すでに褥瘡形成をしている患者では、シャワーベッド等に直接、創が接触し、その圧迫やずれで短時間でも褥瘡が発生・悪化する可能性もある。シャワーベッドと直接接触しないようにピロー等を用い、身体を保護する必要がある。

 

水はけのよい圧分散効果のあるピローを一緒に浴室に持ち込み、使用することを検討してもよい(図1)。

 

図1 水はけがよく圧分散効果のあるピローを使用

水はけがよく圧分散効果のあるピロー

 

防水効果のあるシャワー浴専用体圧分散マットレスの開発も望まれる。筆者は防水効果のあるストレッチャー用のウレタンマットレスを褥瘡のある患者や、強い骨突出がある患者に適用している(図2)。

 

ただし、シャワーベッドの柵の高さは低いため、安全面の配慮が必要である。

 

図2 防水効果のある体圧分散マットレス

防水効果のある体圧分散マットレス

 

背部を洗浄する際は、側臥位の体勢が必要である。しかし、先述のような理由で側臥位をとる時間はなるべく短くするように手順を整える必要がある。

 

側臥位時は下肢をずらす等基底面積を広くとり体位を安定させる他、大転子部や肩峰部等にかかる圧・ずれの影響をなるべく少なくする(図3)。

 

図3 シャワーベッド上の側臥位

上(○):両下肢をずらして基底面積を広くとることで体位を安定させる。大転子部や肩峰部等にかかる体圧・ずれをなるべく少なくする。

シャワーベッド上の側臥位

 

入浴用のベッドにも、クッション性を考慮したものがあり、対象によっては適応等を考慮するとよい(図4)。

 

図4 さまざまな入浴用ベッド

入浴用ベッド

入浴用ベッド

 

リラックス効果のある入浴のケアを最大限に生かすためにも、たとえ短時間であっても安楽な体位を心がけることが重要である。

 

 

目次に戻る

洗髪

洗髪の課題要因・目標・介入

 

洗髪の基本

・洗髪には、頭皮や頭髪の汚れを落とし細菌感染や皮膚疾患の予防を行う目的以外に、頭皮を刺激して血行促進し、爽快感を得ることもある。

 

・洗髪方法には、ベッド上や洗髪台において仰臥位で行う場合と、洗髪台にて座位の前屈位で行う場合、リクライニング式の洗髪台で行う場合等がある。それぞれについて、留意点のみを述べる。

 

1 仰臥位で行う場合

洗髪台に頭部を出すために、患者の身体を頭側へ移動する。

 

この際、下肢伸展のまま介助者が患者の身体を抱えて移動すると、患者の踵部が引きずられ圧迫・ずれの影響を受けるため、下肢を屈曲した状態、もしくは下肢をピローで支えた状態で頭側へ移動する(図5図6)。

 

図5 移動の方法

膝を曲げた状態で頭側へ移動することで、踵部の圧迫・ずれを少なくできる

移動の方法

 

図6 負担を強いる移動方法

負担を強いる移動方法

 

患者の背面にずれ力がかかってしまうため、背面の圧抜きを行ってずれ力を解除してから洗髪を開始する。

 

洗髪時、肩甲骨部から頸部にかけてピロー等で支えると、安楽な体勢に保てる(図7)。

 

図7 ピローで支える

ピローによる支え

 

2 座位・前屈位で行う場合

前屈位姿勢は、僧帽筋や大腿二頭筋、上腕三頭筋が強く収縮すると言われている。安定した体位をとるためには、足底がしっかり床に着いていることが必要である。

 

椅子のみで調整できなければ、ピローを用いて高さや前胸部と洗髪台との接触面の調整を行う(図8:写真はブーメラン型のピローを使用)。

 

図8 前屈位のポジショニング姿勢

前屈位のポジショニング姿勢

前屈位のポジショニング姿勢

 

3 リクライニング式洗髪台で行うとき

リクライニング式車椅子と同様に、背もたれを倒す際は、ティルト機能付きのリクライニング洗髪台を使用する(図9)。

 

図9 リクライニング式洗髪台の場合

クライニング式洗髪の課題要因・目標・介入

 

ティルト機能がない場合は、下肢の挙上が行えるように大腿部にピローを挿入する。それによって腹部の緊張を緩めることができ、あわせて下肢方向へのずり下がりも予防できる。

 

リクライニング時の背面の高さ調節では、洗髪用シンクの頸部の部分(凹部分)と背面に段差ができないような高さに調節する(図10)。

 

図10 リクライニング時の背面の高さ調節

リクライニング時の背面の高さ調節

 

 

目次に戻る

足浴

足湯の課題要因・目標・介入

 

足浴の基本

・足浴は、清潔にする目的とともに、湯につけることで交感神経の緊張を和らげ、血液循環を促進、催眠効果もあると言われている。

 

・より温熱効果が高くリラクゼーション効果も得られるとされる密閉式足浴法について述べる。

 

・足浴法には仰臥位で行う方法と座位で行う方法がある。

 

1 仰臥位の足浴

1)下肢を屈曲位にする

寝衣を膝上まで緩みなく巻き上げると、下肢が開脚して姿勢がくずれるのを防ぐことができる。

 

自分で屈曲位の保持が困難な場合は、屈曲位の高さに合った大きなピローをビニール袋に入れたり、防水シートの下に入れるなどして防水し、膝下に挿入し支える。

 

この際、下肢を支えるピローの高さが低いと、安定せず筋緊張を起こすと同時に足浴ベースンも安定しないため、下肢が安定する程度の十分な高さを保つ。また、ピローの形状を利用して下肢を安定させる方法もある(図11)。

 

図11 下肢を支えるピローが低すぎる場合

下肢を支えるピローが低すぎる場合

下肢を支えるためのピロー

 

2)足浴用ベースンに湯を入れ下肢を浸す

ベースンの淵に下腿が長く接触して圧迫・ずれの影響を受けないように、ピローでしっかり支える(ピローでは不十分な場合、毛布等を丸めたものでもよい)(図12)。

 

図12 ベースンに湯を入れ下肢を浸す

ベースンに湯を入れ下肢を浸す

 

3)密閉式足浴法

密閉式足浴法とは、下肢をビニール袋に入れて足浴を行う方法である。この方法では、ビニール袋で密閉するため、温浴効果も高く、温湯の温度も冷めにくい効果もある。

 

温湯をビニール袋に入れるためベッド上を濡らす可能性も低く、下肢支持のピローを自由に入れ替えられ、下肢の安定も得られやすい(図13)。

 

図13 密閉式足浴法

下肢支持のピローを自由に入れ替えられ、下肢の安定も得られやすい

密閉式足浴法

 

2 座位による足浴

1)座位を安定させる

一時的に座位保持が可能でも、下肢を上げ下げするため座位の安定性を損なう可能性がある。


端座位ではなく、背もたれのある椅子もしくは車椅子で行う。


2)座位の姿勢保持をとる

足底が床面にしっかり着く高さの椅子を準備し、姿勢の傾斜がないようにピロー等で保持する。

 

 

目次に戻る

引用・参考文献

1)祖父江正代・近藤まゆみ 編:がん患者の褥瘡ケア.日本看護協会出版会,東京,2009.

2)藤野彰子,長谷部佳子 監修:看護技術ベーシックス.医学芸術社,東京,2005.

3)月刊ナーシング編集室 編:スキルアップ臨床看護技術Q&A.学研メディカル秀潤社,東京,2008.

4)川村佐和子,他編著:ナーシンググラフィカ基礎看護学・基礎看護技術.メディカ出版,大阪,2004.


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

> Amazonで見る   > 楽天で見る

 

 

[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社

SNSシェア

看護ケアトップへ