悪性腫瘍と皮膚|全身性疾患と皮膚②
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は悪性腫瘍と皮膚について解説します。
八木宏明
静岡県立総合病院皮膚科院長
Minimum Essentials
1皮膚以外の悪性腫瘍により引き起こされる皮膚症状には、悪性腫瘍の皮膚転移のほか、皮膚に腫瘍細胞が存在しない非特異的な反応がある。
悪性腫瘍と皮膚
内臓悪性腫瘍は多彩な皮膚症状を呈する。また、悪性腫瘍患者では副作用の強い薬物治療が行われているのみでなく、原疾患や治療薬による免疫不全などの二次的な要因も加わるため、患者に出現する皮疹の原因は複雑である。皮膚症状の観察にあたっては、そのような背景も考慮する必要がある。
代表的な皮膚症状として、①内臓悪性腫瘍の皮膚転移、②悪性腫瘍に対する非特異的な皮膚反応としての腫瘍随伴皮膚病変に分類される。
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内臓悪性腫瘍の皮膚転移
内臓悪性腫瘍の皮膚転移は皮膚転移癌とよばれ、多くは皮下のしこり(皮下結節)として出現する。そのほか大型の腫瘤や皮膚潰瘍として出現するものもある。痛みなどの自覚症状はないことも多い。
頭皮や臍部は皮膚転移を生じやすい部位である。原発巣としては、胃癌、乳癌(図1)、肺癌が多いが、白血病を含む血液系の癌や脳神経系の癌など、どのような癌でも皮膚転移を起こす可能性がある。
皮膚原発癌と外見上は区別がつかないため、診断には皮膚生検による病理所見が必須である。全身CTやPET/CTなどの画像検査で原発巣の検索をするが、皮膚の病理組織像での細胞形態からどの臓器の癌からの転移であるか判断が可能なことも多い。
皮膚転移癌のみで原発巣の見つからない例は原発不明癌とよばれ、注意深く検査を行いながらの観察が必要である。
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腫瘍随伴皮膚病変
腫瘍随伴皮膚病変は内臓悪性腫瘍の直接浸潤ではなく、内臓悪性腫瘍に何らかの影響を受けた非特異的な皮膚反応である。したがって皮膚には癌細胞は出現しない。癌が発見される前の早期に出現することもあり、癌の早期発見に有用である。
悪性腫瘍合併頻度の高いもの
レゼル・トレラ(Leser-Trélat)徴候
中年期から高齢者によくみられる脂漏性角化腫(老人性疣贅)が短期間で急速に増加(数百個以上)する場合は、内臓悪性腫瘍との関連が濃密なデルマドロームである。わが国では胃癌、大腸癌での出現が多い。癌の早期発見につながることがある。
悪性黒色表皮腫
項部、頸部、腋窩、乳輪、手背、口唇などに出現する灰色~黒色の凹凸のあるザラザラした皮疹である。小さな疣状の丘疹が無数に集簇して出現することにより、このような臨床像を呈する。
悪性腫瘍と関連のない糖尿病などの内分泌疾患や肥満体型でも頸部や腋窩に同様の黒色斑がみられ、それらは仮性型とよばれる。悪性腫瘍に随伴する例では、皮疹の程度が高度であり、ほとんどが進行癌である。
後天性魚鱗癬
魚鱗癬には、遺伝要因がある先天性のものと、おもに中年期以降でみられる後天性のものがある。後天性魚鱗癬(図2)は腫瘍随伴皮膚病変として出現することが多く、血液系の悪性腫瘍(悪性リンパ腫や白血病など)でよくみられる。
皮膚筋炎
特徴的な皮膚症状と、筋炎による筋力低下を主症状とする。悪性腫瘍を合併する率が高く、また悪性腫瘍が発見された例では、その治療を優先することで皮膚筋炎が改善する可能性がある。
皮膚症状としては、手指関節面の角化性紅斑〔ゴットロン(Gottron)徴候、図3〕、眼瞼の浮腫性紅斑(ヘリオトロープ疹)、爪の周囲の発赤(爪囲紅斑、図3)、日光過敏症などが特徴的な所見である。
図3皮膚筋炎患者にみられた手指関節面の角化性紅斑(ゴットロン徴候)と爪周囲の紅斑(爪囲紅斑)
悪性腫瘍合併頻度は高くないが注意が必要な疾患
重症や難治性の場合、悪性腫瘍の検索を行う。
紅皮症
全身の皮膚に隙間なく紅斑が生じる疾患である。悪性リンパ腫や白血病を伴う場合がある。
痒疹
かゆみの強い丘疹、小結節が全身に出現し、搔破によりさらに拡大する。悪性腫瘍に合併する例では、アトピー性皮膚炎や喘息などのアレルギー疾患の既往を欠く。治療抵抗性のことが多い。
帯状疱疹
帯状疱疹は、一般的には内臓悪性腫瘍との関連はなく健常者にも発生する。しかし、皮疹が広範囲に及ぶ例や全身に発疹がみられる汎発疹を伴う例では、悪性腫瘍などによる免疫不全が隠れている可能性がある。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂