ダリエ(Darier)病|角化症④
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回はダリエ(Darier)病について解説します。
高橋健造
琉球大学大学院医学研究科皮膚病態制御学講座
Minimum Essentials
1表皮角化細胞内のカルシウム濃度の上昇により、異常角化を呈する先天性角化症。
2脂漏部位に、黄褐色の痂皮を伴う湿潤した丘疹が多発する。夏季に悪化し、伝染性膿痂疹やカポジ(Kaposi)水痘様発疹症を併発する。
3エトレチネート(チガソン®)内服が主体となる。さらに、随伴する感染症への対症療法が主体となる。
4先天性疾患ながら10歳代以降に発症し、壮年期以降には軽快する。
ダリエ病とは
定義・概念
常染色体優性に遺伝する先天性角化異常症である。表皮角化細胞内のカルシウム濃度上昇により、異常角化を呈する。
原因・病態
表皮角化細胞に発現するカルシウムポンプの1種のSERCA2遺伝子に変異が存在する。このため細胞内カルシウムイオンの濃度が上昇することで、有棘層において異常な角化が生じ、特徴的な病態を呈する。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
先天性の疾患であるが、出生時や幼児期に皮膚症状はなく、10~40歳代(とくに思春期)に発症し壮年期以降に軽快する。
黄色~褐色の痂皮を付着したかたい丘疹が胸、背中、顔面、頭、腋窩、鼠径(そけい)部など脂漏部位に集族し、さらには疣状の過角化局面を形成する(図1)。
図1 ダリエ病患者の脂漏部位である耳介(a)と腹部の皮疹(b)
痂皮がとれたあとにはびらんや潰瘍を形成し、じくじくして悪臭を放つ。梅雨時~夏季にかけて増悪する。びらん面を形成した皮疹に細菌やヘルペスウイルスが感染し、しばしば伝染性膿痂疹やカポジ水痘様発疹症を併発する。
検査
特異的な臨床化学、血液検査上の所見はない。症状が現れるのが青年期以降であるため、遺伝の有無は慎重に決定しなくてはならない。
病理組織像において、特異的な異常角化像がみられる。病理検査と皮疹の分布や遺伝形式などを考え合わせて、脂漏性皮膚炎などとの鑑別をする。
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法
(1)内服
第一選択は合成レチノイドであるエトレチナート(チガソン®)の内服となる。初期投与量としては10~40mg/日で満足のいく結果を得られることが多く、丘疹は平坦化し、びらんは上皮化に向かう。
エトレチナートを中止すると皮疹の再燃は避けられないので、妊娠の可能性や骨の成長発育などを考えたうえ、長期投与の計画を立てなくてはならない。
(2)外用
尿素軟膏やサリチル酸ワセリン薬などの表皮の角質融解作用のある薬剤やステロイドの混合薬を、症状や季節に応じて使い分けていく。
びらん、潰瘍を形成している症例においては、上皮化を促進する抗潰瘍薬(プロスタンディン®軟膏、アクトシン®軟膏など)の外用も併用する。
活性型ビタミンA酸
本邦ではまだ入手が難しいが、レチンA(ビタミンA誘導体)などの外用薬は皮疹、潰瘍面の改善に効果がある。内服のエトレチナートの使用が難しいときや、内服薬からの離脱を望むときには使用を試みる価値がある。
合併とその治療法
多汗、悪臭に対するケアが必要である。腋下や足蹠、足先、臀部の皮疹は夏季には湿潤し悪臭を伴い、患者は多大な苦痛を感じている。10~20%の塩化アルミニウム水溶液を塗布することで発汗が抑えられ、多少満足を得られることがあるが、潰瘍面などに使用すると刺激が強く疼痛も生じる。
治療経過、期間の見通しと予後
年余にわたり皮疹がみられる。壮年期以降は軽快する。
看護の役割
治療における看護
夏季に近くなると腋、胸、鼠径部などに悪臭を伴う浸潤した皮疹が出現し、毎年繰り返される。
発症が10~20歳代の思春期に当たることが多く、精神的に追いつめられる患者も多い。海外においてはダリエ病患者の自殺率が高いとの報告があり、心のケアが大切と思われる。
頭部や間擦部位ではとくに夏季に細菌が繁殖し、発汗により悪臭を発する。予防のためには入浴やシャワーを頻繁に行い皮膚を清潔に保ち、外用剤や時にはオリーブ油などを使用し痂皮や鱗屑を取り除くよう指導する。足先に生じたびらんや潰瘍は、部位的に大きな痛みを伴い苦痛となる。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂