虫刺症(虫刺性皮膚炎)|動物寄生性疾患①
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は虫刺症(虫刺性皮膚炎)について解説します。
夏秋 優
兵庫医科大学皮膚科学
Minimum Essentials
1虫刺症は吸血性、刺咬性、接触性の有害節足動物に起因する皮膚炎の総称である。
2虫刺症における炎症は、虫由来の唾液腺物質や有毒物質に対する刺激反応およびアレルギー反応である。
3治療はステロイド外用剤の塗布が主体となる。
4多くは予後良好であるが、アナフィラキシー症状の出現に注意が必要である。
虫刺症(虫刺性皮膚炎)とは
定義・概念
虫刺症(あるいは虫刺性皮膚炎)とはカ、ブユ、ノミ、ダニなどによる吸血、ハチ、ムカデ、クモなどによる刺咬、有毒毛をもつガの幼虫(毛虫)との接触など、有害節足動物の吸血・刺咬・接触によって生じる皮膚炎を包括した概念である。
原因・病態
吸血性節足動物であるカ、ブユ、アブ、ノミ、トコジラミ、ダニ(室内ではイエダニ類、野外ではマダニ類)や刺咬性節足動物であるハチ(スズメバチ類、アシナガバチ類、ミツバチ類など)、アリ、カメムシ(サシガメ類)、ムカデ、クモ、そして接触性節足動物であるガ(ドクガ類、カレハガ類、イラガ類など)がおもな原因となる。
病態としては、吸血性節足動物が皮膚に注入する唾液腺物質に対するアレルギー反応、刺咬性節足動物や接触性節足動物が皮膚に注入する有毒物質による刺激、あるいはアレルギー反応によって生じる非感染性の炎症反応が基本となる。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
カやブユなどの吸血によるアレルギー反応としては即時型(I型)として吸血直後に瘙痒感を伴う紅斑、膨疹(図1)が、遅延型(IV型)として吸血の1~2日後に瘙痒を伴う紅斑や丘疹、水疱など(図2)が出現する。
ハチやムカデなどの刺咬による刺激症状としては、まず疼痛を生じる。
過去に刺咬を受けて有毒物質に対する感作が成立していると、アレルギー症状が出現する。とくに刺咬直後に生じるアナフィラキシー症状(全身の蕁麻疹や悪心、腹痛、呼吸困難、意識障害など)には注意を要する。アレルギー反応の場合、個々の感作状態が異なるため現れる臨床症状には個人差が大きい。
原因となった虫が明らかでない場合は、患者の病歴や臨床所見から原因を推定する。
検査
虫刺症の診断に役立つ検査はないが、ハチ毒に対するアレルギー検査としてハチ毒特異的IgE抗体価を測定し、次回のハチ刺症での即時型(I型)アレルギー症状の出現を推定する。
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法
個々の皮疹に対してはステロイド外用剤で対応する。炎症症状が強い場合は、抗ヒスタミン薬やステロイド薬の内服を併用する。刺激による疼痛に対しては保冷剤などによる局所冷却で経過観察する。
合併症とその治療法
搔破に伴う二次感染に対して抗菌薬を用いる。アナフィラキシー症状に対しては、ただちにアドレナリンの筋肉注射や全身管理を要する。
治療経過・期間の見通しと予後
虫刺症のほとんどは1~2週間以内に軽快し、予後良好である。
看護の役割
治療における看護
瘙痒性皮疹に対しては、外用処置の補助や搔破を防ぐための局所保護の指導を行う。疼痛に対しては保冷剤を用意する。アナフィラキシー症状では呼吸・循環動態をモニタリングする。
フォローアップ
アナフィラキシー症状は通常、数時間以内に軽快するが、時に数時間以降に症状が再燃する症例(二相性アナフィラキシー反応)があるため、少なくとも24時間の経過観察が必要である。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂