マダニ刺症|動物寄生性疾患②
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回はマダニ刺症について解説します。
兵庫医科大学皮膚科学
Minimum Essentials
1マダニは野生動物に寄生するが、ヒトからも吸血する。
2マダニの皮膚咬着を認める。
3局所麻酔下で皮膚ごとマダニを切除するのが確実な除去方法である。
4マダニ媒介性感染症に注意が必要である。
マダニ刺症とは
定義・概念
マダニはイノシシ、シカなどの野生動物から吸血して生活する一時寄生性のダニ類で、成虫の体長は2〜8mm程度である。マダニの幼虫、若虫、成虫は雑木林の下草やササ類などの葉で待機し、動物が通ると素早く乗り移って体表面を徘徊し、皮膚に口器を刺入して吸血する。
野外活動の際にヒトにも寄生する。皮膚に咬着したまま3〜10日間にわたり吸血を続け、腹部が膨大して5〜20mm程度になり、飽血状態になると自然に脱落する。
ヒトがマダニの咬着を受けた状態をマダニ刺症とよぶ。
原因・病態
地域によって生息するマダニ種が異なるが、東日本ではシュルツェマダニやヤマトマダニ、西日本ではタカサゴキララマダニやフタトゲチマダニなどによる被害が多い。
マダニは吸血の際に唾液腺物質を注入するが、その中にリケッチアやウイルスなどの病原体を保有する場合がある。
おもに西日本ではリケッチア感染症である日本紅斑熱やウイルス感染症である重症熱性血小板減少症候群、北海道や本州中部山岳地帯ではボレリア感染症であるライム病を媒介する可能性があるので注意が必要である。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
マダニの発育段階や吸血後の日数によるが、1〜20mm大のマダニ虫体が皮膚に咬着している(図1)。
自覚症状を認めないことから、咬着に気づかない症例が多い。時には咬着した虫体の周囲に紅斑を認める場合があり、瘙痒感を伴うこともある。
ほとんどのマダニは病原体を保有しないので、感染症のリスクはきわめて低い。しかし、マダニ刺症のあとに発熱、全身倦怠感、嘔吐、下痢、咬着部周囲の大きな紅斑、全身の発疹などを生じた場合は、マダニ媒介性感染症の可能性を念頭に置く必要がある。
これらの感染症では、明らかなマダニ咬着の既往がない場合も少なくない。
検査
咬着した虫体が小さい場合、ダーモスコープなどの拡大鏡でマダニを確認する。
発熱や皮疹を認めない場合は原則として臨床検査は不要であるが、何らかの症状を伴う場合は一般検血、血液生化学検査、炎症反応などをチェックする。マダニ媒介性感染症が疑われる場合は、保健所を通じて行政検査を依頼する必要がある。
法律に基づいて自治体などの公的機関が実施する検査で、感染症検査、食中毒検査、食品検査、環境検査などがある。感染症の場合は、医療機関からの依頼を受け、所轄保健所を通じて、衛生研究所や感染症研究所で患者検体からの病原体検出や血清抗体価測定などが実施される。
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法
マダニの咬着を認めた場合、ピンセットやマダニ除去用の器具などを用いて慎重に除去する。除去が困難な場合は、局所麻酔下で咬着したマダニを皮膚ごと切除する必要がある。
合併症とその治療法
感染症を発症した場合、リケッチア感染症ではテトラサイクリン系、ボレリア感染症ではペニシリン系の抗菌薬が第一選択薬となる。ウイルス感染症では全身管理下で病態に合わせた対症療法を適宜行う。
治療経過・期間の見通しと予後
虫体が完全に除去できれば通常は速やかに改善するが、口器が残存すると異物肉芽腫を生じて硬結が半年以上残ることがある。
看護の役割
治療における看護
マダニ刺症のみの場合、特別な看護ケアは必要としない。しかし、マダニ媒介性感染症に対しては個々の疾患に合わせて体温や臨床検査値の推移のモニタリング、全身管理など急変時に対応できる看護ケアを必要とする。
フォローアップ
マダニ刺症のあとに発熱や発疹、消化器症状などが出現しないか、患者に対する注意喚起を行う。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂