浅在性真菌症|真菌症①
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は浅在性真菌症について解説します。
鈴木陽子
静岡市立静岡病院皮膚科
Minimum Essentials
1カビ(真菌)が表皮角層、毛、爪や粘膜表層にとどまって寄生している感染症である。
2おもな疾患に白癬、カンジダ症、癜風(でんぷう)がある。
3診断は真菌検査(とくにKOH法)で、病変部に病原真菌を検出して行う。
4治療は抗真菌薬の外用であるが、内服が必要な病型もある。
浅在性真菌症とは
定義・概念
カビ(真菌)が皮膚の角層や毛、爪、あるいは口腔や外陰部・腟などの粘膜表層に限局して寄生する感染症。菌が生体内に深く侵入しないので、宿主からの抵抗(免疫反応、炎症反応)が起こりにくい。
原因・病態
白癬
皮膚糸状菌との接触により感染する。表皮最外層のケラチンの塊である角層や爪、毛に、菌が外から入って寄生する。
皮膚糸状菌症
白癬以外の疾患はまれなので、通常、白癬という。皮膚糸状菌にはトリコフィトン(Trichophyton)属、ミクロスポルム(Microsporum)属、エピデルモフィトン(Epidermophyton)属の3つのグループ(属)がある。動物や土壌の菌の感染では炎症が強い。
皮膚・粘膜カンジダ症
ヒトの皮膚や粘膜には多種のカンジダが常在菌として住んでいる。
カンジダ症は、局所や全身的な防御力(菌の増殖を抑える働き)が落ちたときに、その常在菌が病原菌となって起こる日和見感染症である。カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)によるものがもっとも多い。
外陰・腟カンジダ症は性感染症(STI)(「梅毒、性感染症(STI)」参照)として接触感染することもある。
皮膚マラセチア感染症
マラセチアも皮膚常在菌であるが、脂質を好むため、脂漏部位(「脂漏性皮膚炎」参照)の毛包上部に胞子の形(酵母形)で豊富に存在する。高温多湿や皮脂など、菌発育に好条件になると異常増殖して病変ができる。
胞子と菌糸が皮膚表面で増殖する癜風と、毛包内で胞子のみが増えるマラセチア毛包炎(「真菌検査」図2-d参照)が代表疾患である。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
白癬(図1)
罹患部位により病名が異なる。無毛部の手掌・足底の白癬と爪白癬、短い毛のある皮膚の生毛部白癬(有毛部四肢を含む体部、顔面、股部)、長い毛の生える頭部の白癬がある。
なかでも足白癬(みずむし)がもっとも多く、3つの型がある。趾間(しかん)型、小水疱型は悪化時にかゆみを伴うことが多い。角化型は角層が厚くなり、落屑のみでかゆみは少なく、慢性化し難治である。爪白癬は、通常、手・足白癬の長期罹患後に爪にうつってできるので高齢者に多く、難治である。
体幹など短い毛のある皮膚(生毛部)において、辺縁が堤防状に赤く隆起し外側に輪になって広がる。それが明瞭な生毛部白癬を俗称“たむし”という。菌が角層内を遠心性に発育するために生じる。
頭部白癬では、菌は頭皮の角層から毛包に入り下降し、毛包内の毛に寄生する。感染した毛が増えて約3週間で脱毛病変ができる。紅斑や毛包炎をともなうこともある。
毛表面のキューティクルが侵されると、毛のつやがなくなってもろく折れやすくなり、落屑・脱毛を伴う円形の病変(しらくも)になる。毛の中心部が侵されると、病毛は頭皮表面で折断して黒点となり、境界不明な脱毛斑となる。
まれではあるが、頭髪、顔面のヒゲ、すね毛のような太い毛に菌が寄生すると、真皮の毛包を中心に激しい炎症が起こり、膿瘍を伴う結節を形成することがある(炎症性白癬)。治ったあとに瘢痕・永久脱毛が残ることもある。頭部ではケルスス(Celsus)禿瘡(とくそう)、顔面では白癬性毛瘡(もうそう)という(図1-⑧)。
皮膚・粘膜カンジダ症(図2)
局所の高温多湿、ステロイド薬などの免疫抑制薬や抗菌薬の使用、高齢、糖尿病・貧血・AIDS・悪性腫瘍などの全身疾患が誘因となり発症することが多い。
皮膚カンジダ症は、陰股部、臀裂部、腋窩、乳房下など皮膚が重なりこすれあう部分(間擦部)に好発し、カンジダ性間擦(かんさつ)疹という。紅斑に薄い鱗屑や小膿疱、びらんを伴う。
指(趾)間ではカンジダ性指(趾)間びらん症という。おむつや絆創膏などで皮膚がむれてできることも多い。乳児のおむつ部では乳児寄生菌性紅斑とよぶ。
カンジダ性爪囲炎でも、ゴム手袋や絆創膏などによる爪周囲のむれが誘因となる。爪の中まで菌が増殖すると爪カンジダ症になる。
粘膜カンジダ症は、口腔や外陰部・腟など肉眼で見える範囲の粘膜表層の感染である。
口角部は上下口唇が重なり、唾液で常に湿っているため好発部位となる(口角びらん症)。
口腔カンジダ症は鵞口瘡(がこうそう)ともよばれ、粘膜表面に白苔ができる。外陰部では、女性は腟とその周囲、男性は亀頭・包皮に好発する。
皮膚マラセチア感染症(図3)
癜風は、酵母形で皮膚に常在するマラセチア・グロボーサ(Malassezia globosa)が、角層で増殖して菌糸になり発症する。メラノサイトやメラノソームに影響を及ぼし、褐色斑(黒色癜風)や白色斑(白色癜風)を生じるため、皮膚色の異常が患者の主訴となる。
原因菌が好脂性のため、皮脂分泌の盛んな思春期以降の青壮年に多い。高温多湿の環境、多汗が悪化因子で、好発部位は胸背部、頸部、上腕、腋窩である。
マラセチア毛包炎では、毛包内のマラセチアが酵母形のまま増殖する。好発部位や条件は癜風と同じだが、ステロイド薬の外用や全身投与が誘因となることがある。
真菌検査(「真菌検査」参照)
浅在性真菌症では臨床所見とともに、直接検鏡で病変部に病原菌を確認して診断する。
白癬
皮膚糸状菌は常在菌ではないので、KOH法、真菌培養のいずれでも病変部に菌が検出されれば診断できる。真菌培養で原因菌の種類がわかれば、ヒト・動物・土壌などの感染源が推測でき、再感染・流行の予防に有用である。
皮膚・粘膜カンジダ症
カンジダ・アルビカンスのような常在菌では、検鏡で病変部にカンジダ特有の胞子と菌糸の増殖を確認して診断する。培養陽性だけでは診断できない。爪カンジダ症はKOH法と培養結果を併用して爪白癬と鑑別する。
皮膚マラセチア感染症
癜風では検鏡で、多数の太い菌糸と円形の胞子の混在(“スパゲッティとミートボール”とよばれる)がみられる(「真菌検査」図2-c参照)。マラセチア毛包炎では、正常に比べ胞子が異常増殖している。
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法
いずれも基本的には抗真菌薬の外用で治療する。
毛包や爪の病変、角化型足白癬、炎症性白癬では抗真菌薬内服で治療する。病変が広範囲で外用困難な場合にも内服治療を行う。
口腔カンジダ症では口腔内用製剤を、腟カンジダ症では腟錠を使用する。
合併症とその治療法(図4)
足白癬ではしばしばびらん・亀裂や水疱を伴うので、外用薬による接触皮膚炎や細菌の二次感染を起こすことがある。その場合は先にその治療を行い、抗真菌薬は内服で投与するなどの対応が必要となる。
カンジダ症では局所および全身的な発症誘因を見つけ、その改善や治療を行う。
癜風では治癒後に色素脱失を残すことが多く、日焼けはそれを増悪させるので病変部は遮光する。
治療経過・期間の見通しと予後
白癬では、症状が治っても菌はかかとなどの厚い角層や爪、毛の中に生き残り、生活環境中にこぼれ落ちた鱗屑中にも生息する。
皮膚症状が消えても、再発防止のためさらに数ヵ月外用を続ける。爪白癬の内服治療は数ヵ月で終わるが、爪が正常になるまで1年以上かけて経過を見る。
カンジダ症は発症誘因が改善できないと難治となり再発する。
癜風では、鱗屑が消失し検鏡で菌が陰性化すれば治療終了となるが、皮膚色の正常化には数ヵ月以上かかる。マラセチアは皮膚常在菌であるため、薬で菌を一掃することは不可能で再発しやすい(2年間で約80%)。
看護の役割
患者には病変の範囲を正確に示し、外用薬はそれより広めに塗るよう指示する。
患部の清潔と乾燥を保ち、高温多湿の環境を避ける。衣類や履物、ゴム手袋や靴下、おむつ・絆創膏などの被覆材、水仕事などで局所がむれないように気をつける。
白癬では感染源の排除に努める。家族やスポーツチーム内の人間や、犬猫などのペットに白癬があれば同時に治療する。ヘアブラシ、爪切り、タオル、履物、足拭きマットなどは洗浄乾燥し共用しないようにする。柔道など格闘技チームで流行するトリコフィトン・トンスランス(Trichophyton tonsurans)感染者は、治癒するまで競技に参加しないようチームの責任者にも働きかける。
カンジダ症では発症誘因を見つけて改善する。間擦疹では皮膚が重なる部分にガーゼをはさむなど、乾燥させる工夫をする。
癜風では、治療が終わっても皮膚の色が治るまで時間がかかること、常在菌が原因で再発しやすく予防が必要なことを患者に理解させる。発汗後は早めにシャワー浴し、乾燥させる。硝酸ミコナゾール配合のシャンプー・液体石鹸の使用も有用とされる。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂