破水のメカニズムとケア
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は破水のメカニズムとケアについて解説します。
吉川芙雪
滋賀医科大学医学部看護学科助教
破水とは
破水とは、胎児と羊水を内包し体外環境から分離することによって、腟内の細菌等による上行性感染を予防する役割の卵膜が破れて羊水が子宮外に流出することをいう。
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破水の分類
時期による分類
①適時破水
陣痛が発来した後、胎児娩出が近い、外子宮口が全開大(10cm開大)に近いころに破水が起こる。子宮収縮による内圧の上昇により起こる。
②遅延破水(遅滞破水)
子宮口が全開大し、先進部が深く骨盤腔内に侵入した時点でも卵膜の破綻をみないもの。被膜児での娩出とならないようにするため、分娩介助の際に人工的に破水させること(人工破膜)もある。
③早期破水
分娩開始後、子宮口全開大近くまでの間に破水が起こること。分娩進行中に起こるため、分娩が遷延しなければ問題となることはない。
④前期破水
陣痛が発来する前に破水するもの。妊娠37週以降(正期産の時期)の前期破水は80%は24時間以内に陣痛が発来し、分娩に至る。妊娠37週以前の破水はpreterm PROM(premature rupture of the membranes)といわれ、36週以前では35~50%が24時間以内に、70%が72時間以内に陣痛発来する。そのため、早産・低出生体重児の原因となる。
破水の時期
5~10%に前期破水が起こり、60%は妊娠37週以降に起こる。Preterm PROMで入院する妊婦の75%はすでに陣痛が開始しており、5%は他の合併症で入院、他の10%は48時間以内に陣痛が開始して分娩となる。
Preterm PROM で入院した妊婦のうち、破水後48時間以降まで妊娠が継続するのは7%である。
程度による分類
①低位破水(完全破水)
胎児先進部より低い位置(胎胞部分)で卵膜が破綻して羊水が流出したもの。通常はこの破水である。
②高位破水
子宮口あるいは胎児先進部より高い位置で卵膜が破綻したもの。部分的な卵膜の破綻または卵膜の脆弱化によるものと考えられている。
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破水の原因とメカニズム
①卵膜の異常
卵膜が炎症などで脆弱化が起こり、子宮の静止内圧あるいは腹緊程度の軽度の子宮収縮により子宮内圧の上昇によって卵膜の破綻が起こる。また、絨毛膜羊膜炎の存在が前期破水の原因として注目されている(図1)。
②子宮内圧の上昇
・子宮内容の増大:多胎、羊水過多では子宮内圧が慢性的に上昇しており、咳嗽などに伴う腹圧の亢進で破水が起こる。重荷の移動、墜落、咳嗽などで腹圧が急激に高まること、あるいは性行為などによって起こる。
・子宮腔の狭小化:双角子宮などの子宮奇形では、子宮の増大が阻害され、子宮内圧が上昇して破水が起こる。
③その他
羊水穿刺による卵膜の損傷から、前期破水を起こすことがある。
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破水の診断
①肉眼的診断
低位破水の場合、肉眼的に羊水が流出していることを確認できる。
②腟内pH測定法
・ ブロムチモールブルー(BTB)法:羊水はアルカリ性であるため、破水すると羊水が腟内に流れ込み、腟内容物がアルカリ性となる。これをBTB試験紙により判定する。試験紙が青色に変色した場合に破水と診断する。
・ ニトラジン法(エムニケーター):pH指示薬としてニトラジンイエローを用いて、BTB法よりも正確なpH診断を行う方法。ニトラジンイエローは、破水の鑑別に適した変色域を持ち、腟分泌に浸すことにより、そのpHに応じて呈色する。黄色の綿棒を腟分泌物に浸して、青色に変化するとpHが6.5以上であると診断する。
POINT
腟内pH測定法による破水の診断は簡便であるが、出血や腟炎などにより偽陽性となることも多いため、目安程度にとどめるべきである。
③羊水中成分測定
羊水中に多量に含まれるタンパクを検出することによって、破水の診断を行う方法。検出にはキットが使用され、外来や病棟で迅速に診断することができる(表1)。
④顕微鏡診
腟内容物の樹枝状結晶形成をみる方法や毳毛(産毛)を顕微鏡により観察するといった方法があるが、近年はほとんど行われない。
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治療とケア
①適時破水
適時破水は生理的な現象であり、治療を要するものではない。
②37週以降の前期破水
すでに胎児は成熟しており、分娩に至ってもとくに治療は要さないため、自然に経過観察を行う。破水すると80%以上の産婦に24時間以内に陣痛が発来するといわれており、それ以上経過すると感染を起こすリスクも高くなるため、誘発分娩を行うこともある。
また、卵膜が破綻し子宮外との交通があるため、感染予防のために、抗生物質の点滴や内服を行うこともある。胎児の状態、感染に注意し、経過観察を行う。
③37週未満の前期破水
胎児の娩出をいつ行うかに合わせて管理が必要となる。胎児に感染を起こさせずに、胎児が成熟した状態で分娩となるかを考えることが重要となる。
感染兆候を認める場合、抗生物質を投与し、分娩誘発を行う。感染や胎児仮死などの異常所見を認めない場合、妊娠週数によっては、入院管理で子宮収縮抑制薬(リトドリンや硫酸マグネシウム)を投与し、胎児の状態や感染に注意しながら経過観察を行う。胎児の肺成熟を促進する目的でステロイドを母体に投与することがある。
この場合、長期入院となる可能性がある。また、早産児を分娩する可能性が高く、新生児がNICU(新生児集中治療室)に入院となることも考えられるため、特別なケアが必要である。長期入院によるストレスやベッド上安静によるストレス、早産に対する不安などに対して、看護を行う必要がある。現在のお腹の中にいる胎児の状況(現在の在胎週数の胎児の発達の程度)や、NICU での管理方法などについて、小児科医師や看護師・助産師から説明を行うことも1つのケアである。
肺成熟のためのステロイド(ベタメタゾン)は、12時間空けて2回投与し、与薬から出産までの最適期間は与薬開始後24時間以上7日間以内であり、投与後48時間での分娩はいちばん効果を発揮する。
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引用・参考文献
1)荒木勤:最新産科学、異常編、改訂22版、p.343~346、文光堂、2012
2)久保隆彦:周産期分野、胎児肺成熟促進、ホルモン療法実践マニュアル、産科と婦人科、増刊号、p.80、p.85~88、2013
3)上妻志郎他監修:プリンシプル産科婦人科学、第3版、2.産科編、メジカルビュー社、2014
4)大鷹美子訳:ウィリアムス臨床産科マニュアル、改訂第2版、メジカルビュー社、2014
5)2)我部山キヨ子、武谷雄二:助産学講座6、助産診断・技術学Ⅱ[2]分娩期・産褥期第4版、p.98~100、医学書院、2012
6)町浦美智子編:助産師基礎教育テキスト2013年版、第5巻、分娩期の診断とケア、p.37、97~99、p.106、日本看護協会出版会、2013
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版