内診の実際
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は分娩期の内診の実際について解説します。
吉川芙雪
滋賀医科大学医学部看護学科助教
内診とは
内診は、分娩開始の判断や進行、分娩経過を正しく評価するために行われる診断技術である。しかし、産婦の羞恥心や苦痛を伴い、また感染を引き起こす原因となることもあるので、外診所見から分娩進行状況をアセスメントし、必要な時期に迅速にかつ正確に内診できるようにする。
助産師の内診行為規定
保健師助産師看護師法第30条は「助産師でないものは、第3条の規定する業をしてはならない。ただし、医師法の規定に基づいて行う場合は、この限りではない」と規定し、助産師、医師以外のものが助産(内診を含む)を行うことを禁止している。
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内診を行う時期
①活動期・開口期開始(子宮口4cm) →分娩予測を行うため
②児娩出予測時刻30分~1時間前 →分娩介助の準備を行うため
③子宮口全開大 →分娩第2期を確定するため
④破水 →異常の有無の確認と対応を行うため
⑤異常出現時 →異常の原因の探索を行うため
POINT
通常、産婦の負担を考慮し、陣痛間欠時に内診を行うが、分娩の進行によっては、陣痛発作時にも内診を行い、分娩進行状況を確認する必要がある。
発作時:児頭の下降の程度、胎胞緊満の有無
間欠時:未破水時での骨縫合・泉門の触知、臍帯脱出の有無
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必要物品
手袋(感染のリスクが高い場合は滅菌手袋)、消毒液(イソジンクリームやザルコニンなど)、防水シーツ、掛け物(バスタオルやタオルケット)、診察後外陰部を清拭するもの(ティッシュペーパーなど)、新しいナプキン(交換の必要があれば)を準備する(図1)。
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観察項目
①ビショップスコア(表1)
分娩進行と子宮頸管の熟化を判断するための指標である。子宮頸管の熟化度は、子宮口(頸管)の開大度(cm)、頸管展退度(%)、児頭先進部の高さ、頸管の硬度、子宮口の位置の5項目から判定し、0~13点で得点化する。
②胎児先進部の部位、下降度、回旋
胎児先進部位が頭であるか確認する。胎児先進部位が四肢、臍帯であれば緊急帝王切開術を行う必要がある。
児頭の下降部の評価として、ドゥリー(De Lee)のステーション法(図2)を用いることが多い。両骨坐骨棘を結ぶ線(坐骨棘間線)をステーション0という(図3)。
ステーション0から児頭の先進部が上部にあれば+(プラス)、下部にあれば-(マイナス)と表現し、ステーション0から何cmという表現をする。ステーション-2では児頭は固定、ステーション±0はすでに児頭が骨盤内に嵌入していると判断する。
ステーション0から児頭の先進部が上部にあれば+(プラス)、下部にあれば-(マイナス)と表現し、ステーション0から何cmという表現をする。
胎児は狭い産道を通過するため、4段階の回旋を行っているが、とくに骨盤内で行われる第1回旋、第2回旋が、正常に起きているか評価することが大切である。その評価として、児頭の矢状縫合の向き、大泉門・小泉門の触知を行う。
③破水・卵膜の有無、胎胞の状態
胎胞や卵膜の有無によって破水を判断する。胎胞とは、子宮頸管内に胞状に侵入した卵膜の部分をいう(図4)。
破水時は、臍帯下垂・脱出の有無、先進部の固定の状態、胎児心音、羊水の色や性状を確認する。高位破水時は卵膜はあるため、羊水の流出に注意し、明らかな羊水の流出がない場合は、pHの測定(BTB試験紙)、簡易キット(胎児性フィブロネクチン等)にて確認する。
④腟壁の伸展度、恥骨弓角の広さ、坐骨棘間の広さ
子宮口の開大や硬度のみではなく、腟などの軟産道、骨産道なども内診時に観察を行う。分娩進行に影響を及ぼすため、観察とアセスメントが必要である。
⑤会陰の伸展性、外陰部の浮腫、瘢痕の有無
会陰裂傷を最小限にとどめるため、分娩進行を予測するために観察を行う。会陰の伸展性が悪い場合には、医師に報告し児頭娩出前に会陰切開を行ってもらう。前回出産時の会陰切開部や会陰裂傷部が瘢痕化していることがあり、そこが会陰裂傷となりやすいため、確認を行う。
⑥出血、腟分泌物の性状
色や性状、量を確認する。粘稠性の出血は子宮口が全開大に近くなるとみられる。
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内診の手順
1産婦に内診について説明する。膀胱充満がないか確認し、充満しているときは排尿を促す。
2露出をさけるため、膝まで掛け物をかけ、衣類が汚れないように、腹部・背部の衣類を上方へ上げる。臀部の下に防水シーツを敷く。
POINT
ベッド上や畳の上で仰臥位で行うときは、両膝を立てた状態で両側に軽く開くように声をかける。
3消毒液を内診指に塗布する。
4内診指と逆側の手の母指と示指で、上方から小陰唇を開く。
5産婦に息を吐くように声をかけながら、内診指の示指を腟後壁に沿って第2関節まで挿入したところで、指腹を上向きに返し、示指に沿って中指を挿入する(図5)。
POINT
片手で行う場合は、内診指側の手の母指と中指で小陰唇を開き、示指を挿入する。示指を挿入したら母指と中指は離し、上記のように示指の指腹を上向きに返したときに、示指に沿って中指を挿入する。
6診察が終わったら、産婦に診察が終了したことを伝え、外陰部をティッシュペーパー等できれいに拭く。
7ショーツと新しいナプキンを装着し、寝衣を整える。
留意点
産婦のプライバシーや羞恥心に配慮し、露出を最小限にする。
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引用・参考文献
1)町浦美智子編:助産師基礎教育テキスト2013年版、第5巻、分娩期の診断とケア、p.78~81、p.106、日本看護協会出版会、2013
2)我部山キヨ子、武谷雄二:助産学講座7、助産診断・技術学Ⅱ[2]分娩期・産褥期、第4版、p.80~94、医学書院、2012
3)医学情報科学研究所編:病気がみえるvol.10、産科、第4版、メディックメディカ、2018
4)平澤美惠子、村上睦子監修:写真でわかる助産技術アドバンス-妊産婦の主体性を大切にしたケア、安全で母子に優しい助産のわざ、p.89~90、インターメディカ、2016
5)平澤美惠子、村上睦子監修:写真でわかる助産技術アドバンス-妊産婦の主体性を大切にしたケア、安全で母子に優しい助産のわざ、p.85~86、インターメディカ、2016
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版