「ドクターX」で登場したドミノ移植、その実態とは?|けいゆう先生の医療ドラマ解説【21】
医療ドラマを題材に、看護師向けに役立つ知識を紹介するこのコーナー。
今回は、10月から始まった『ドクターX~外科医・大門未知子~』第6シリーズの第2話を取り上げます。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
Vol.21 「ドクターX」で登場したドミノ移植、その実態とは?
©テレビ朝日
今回登場した患者さんは、ニシキグループのCEO・二色寿郎(モロ師岡)とドミノ師の古沢研二(清原翔)。
二色は、遺伝性ATTR アミロイドーシス、一方の古沢は肝細胞がんでした。
いずれも生体肝移植が検討されますが、ドナーがなかなか見つからない状態。
そこで外科医、大門未知子(米倉涼子)が披露した奥の手が「ドミノ生体肝移植」でした。
娘の二色由理(上白石萌歌)の肝臓を二色に移植し、二色から摘出した肝臓を古沢に移植する、という、いわば「玉突き」や「ドミノ倒し」に例えられる移植の方法です。
ドミノ肝移植とは?
ドミノ肝移植は、国内では1999年に京都大学で初めて行われた、生体肝移植の一つの形態です。
そのほとんどが遺伝性ATTRアミロイドーシス、つまり今回のドラマのように、二色の疾患の患者さんに対して行われています。
※従来は、家族性ポリアミロイドニューロパチー(FAP)と呼ばれていた疾患です。
遺伝性ATTRアミロイドーシスとは、肝臓で作られるトランスサイレチンというタンパク質が遺伝的な要因で壊れやすくなり、壊れたタンパク質が末梢神経やさまざまな臓器に蓄積してしまう病気です。
壊れたタンパク質の塊のことを「アミロイド」と呼びます。
アミロイドが沈着することで、末梢神経障害をはじめとした、さまざまな臓器障害が起こるのです。
トランスサイレチンを作る遺伝子に変異がある人が、20歳代後半から30歳代に発症するケースが多い、とされています。
肝移植を行わないと、発症からの平均余命は約10年。
今回の二色は、高齢発症であることが術前カンファレンスでも指摘されていましたが、いずれにしても、肝移植が唯一の根治療法です。
つまり、異常なトランスサイレチンを作ってしまう肝臓を取り除き、新しい肝臓に入れ替えてしまう、というわけですね。
さて、今回のストーリーにおけるポイントは、
遺伝性ATTR アミロイドーシスの肝臓は異常なトランスサイレチンを作る以外の機能は正常である
という点です。
そして、遺伝性ATTR アミロイドーシスの発症は20〜30歳代。
つまり、肝臓が異常なトランスサイレチンを作り続けた結果、アミロイド沈着が臨床的に問題となるまでに20~30年程度かかる、と考えることができます。
すると、この肝臓を他の患者さんに移植すれば、約20年近くはアミロイドーシスを発症しない可能性がある、という発想が生まれます。
※移植後短期間で発症したとする報告も複数あるため、必ずしも長期間発症しないとはかぎりませんが。
今回大門の部下である多古幸平(戸塚純貴)は、二色の肝臓を移植された古沢に、
「もらった肝臓は将来アミロイドーシスを発症するかもしれない」
と説明していましたね。
ドナー不足を背景に、肝不全の状態に陥った患者さんに対し、緊急避難的に遺伝性ATTR アミロイドーシスの肝臓を移植する、というのがドミノ肝移植の実態です。
結果的に古沢がアミロイドーシスを発症した時は、やはり再度肝移植が必要になるわけですが、そのことに対して大門は、
「サルベージ再肝移植(ができる)」
と喜んでいましたね。
(サルベージは「救助」や「救済」という意味)
大門は、古沢が由理と結婚して家族が増える幸せを純粋に喜んでいると思わせて、
実は、「古沢がもし将来アミロイドーシスを発症して再び肝移植が必要になったとき、自分がまた手術できる」という意気込みを見せていたのでした。
古沢は肝細胞がんですが、その背景に重度の肝硬変、肝不全があると思われます。
今回の治療方針は、移植なしでは早晩命を失う可能性がある、という状況での、大門の妥当な判断だった、ということでしょう。
では、肝細胞がんのある患者さんに対して肝移植を行うのは、どういう時でしょうか?
肝細胞がんの移植の適応、ミラノ基準
本邦では、肝細胞がんの大部分は、ウイルス性肝炎(多くはB型肝炎やC型肝炎)を背景とした肝硬変(または慢性肝炎)から起こります。
肝機能が悪化し、肝不全症状(腹水・黄疸・下腿浮腫・肝性脳症など)が現れたものを、非代償性肝硬変と呼びます。
非代償性肝硬変を背景に、肝細胞がんが生じた場合、治療として肝移植を考慮することがあります。
その基準となるのが「ミラノ基準」です。
上図のように、腫瘍の大きさと個数が条件を満たし、脈管浸潤と遠隔転移がなければ、現在保険診療の範囲内で肝移植を行うことができます。
肝細胞がんの患者さんに対して肝移植をする場合、進行度によっては再発が問題になります。
当然ながら、肝外のリンパ節や遠隔臓器への転移がある(あるいはそのリスクの高い)患者さんであれば、新たな肝臓を移植しても治療としては不十分で、予後改善につながらないからです。
そこで、大きなリスクを負って肝移植をする以上、上図のような基準が必要になるわけです。
(施設によっては、状況に応じて基準を超えた治療を行うケースもあります)
今回の古沢は、こうした基準を満たしていることが、術前のカンファレンスで確認されたということでしょう。
もちろん生体肝移植は、術前にさまざまな診療科、職種のスタッフらが介入し、その適応を慎重に議論した上で行われるべき治療です。
特にドナーとなる人は、まったくの健常人でありながら、肝切除という大きな手術を受けることになります。
移植後の合併症リスクに対する十分な理解が必要です。
また移植を受けるレシピエントも、術後長期にわたる免疫抑制剤による治療を受け続ける必要があります。
現実には、術前術後のマネジメントに大変苦労を要する治療なのですね。
ちなみに…
今回は、「経営が悪化してドミノ倒しになる」や「
もしかすると、「多古」と「二色」も、
(
最後にたこ焼きを食べるシーンも印象的でしたし、
・ドミノ肝移植は主に遺伝性ATTRアミロイドーシス患者を対象に行われている
・肝細胞がんに対する肝移植に関しては「ミラノ基準」という基準がある
(参考文献)
【執筆】山本健人 やまもと・たけひと
(外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。2010年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
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