「ドクターX」大門が見抜いた認知症、特発性正常圧水頭症とは?|けいゆう先生の医療ドラマ解説【22】
医療ドラマを題材に、看護師向けに役立つ知識を紹介するこのコーナー。
今回は、10月から始まった『ドクターX~外科医・大門未知子~』第6シリーズの第4話を取り上げます。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
Vol.22 「ドクターX」大門が見抜いた高齢者の認知症、特発性正常圧水頭症とは?
@テレビ朝日
今回登場したのは、次世代インテリジェンス手術担当外科部長の潮一摩(ユースケ・サンタマリア)の母、四糸乃(倍賞美津子)。
潮に会いに病院にやってきた四糸乃でしたが、物忘れの症状が強く、検査の結果アルツハイマー型認知症と診断されてしまいます。
この診断を行ったのが、潮が頼りにする診断用AIシステムでした。
ところが、大門(米倉涼子)は四糸乃の症状を冷静に観察し、AIの誤診を指摘します。
正常圧水頭症の「三徴」と呼ばれる症状がすべてそろっていたからでした。
今回扱われた「特発性正常圧水頭症」は、認知症を呈する高齢者の原因疾患として見過ごされやすい点で重要です。
私は脳神経の専門ではありませんが、最低限の概要を解説したいと思います。
正常圧水頭症の三徴(認知障害、歩行障害、排尿障害)
四糸乃は、病院のロビーで大門に一度会ったにも関わらず、その数時間後には大門の顔を忘れていました。
そのすぐ後には、息子である潮の顔すらわからなくなってしまいます。
これが症状の1つ、認知障害でした。
続いて大門は、食堂で四糸乃の歩く姿を見て不思議そうな顔を見せます。
手押し車を押しながら、小股で両足をするようにして前進していたからです。
これが症状の2つ目、歩行障害です。
歩幅の減少(small-step gait)、足の挙上低下(magnet gait)、開脚歩行(broad-based gait)が特徴とされています。
まさに四糸乃の歩き方はこれらの特徴を満たしており、
「アルツハイマー型認知症ではない」
という考えが大門の頭をよぎった瞬間でした。
そして最後は、教授室にいる潮に会いに行った四糸乃が、部屋の前で尿失禁を起こしてしまいます。
これが3つ目の症状、排尿障害でした。
報告によれば、特発性正常圧水頭症の場合、歩行障害が最も病初期から生じ、これが94〜100%に認められます。
続いて認知障害が78〜98%、3番目に排尿障害が76〜83%に認められ、この三徴がそろうのは60%程度とされています(*1)。
潮の自慢のAIでも、患者さんに直接問診し、診察するわけではありません。
結局、潮自身が問診や丁寧な診察によって得た所見をAIに伝えないかぎり、AIが正確な判断を下すことはできなかったのです。
(現在はこうした細かな診断システムや手術ナビゲーションは実用化されていません)
AIに頼りきったせいで、あろうことか実母の誤診を招いてしまった潮は、大門から、
「自分の頭で考えなさい」
と言われてしまいましたね。
注意すべき認知症
正常圧水頭症は、その名の通り、
頭蓋内の脳室は異常に拡大している(水頭症が起こっている)が、髄液圧は正常、という病態を指します。
中でも今回は「特発性正常圧水頭症」でしたが、この「特発性」の意味はご存知でしょうか?
時々これを「とっぱつせい」と誤って読む看護師さんを目にしますが、正しくは「とくはつせい」です(「突発性」なら「とっぱつせい」)。
「原因不明」という意味ですね。
つまり特発性正常圧水頭症は、くも膜下出血や頭部外傷、髄膜炎などの先行疾患なしに起こる水頭症のことを指します。
以前の記事でも解説しましたが、
「認知症=アルツハイマー病」ではないことに注意が必要です。
実際、今回のAIシステムが示したように、認知症の中にはさまざまな疾患が含まれているのです(*2)。
(認知症疾患診療ガイドライン2017を基に編集部作成)
特発性正常圧水頭症は、この「その他」に入る、ということですね。
治療としては、脳室〜脊髄くも膜下腔に貯留した脳脊髄液を他の場所へ逃がす手術、すなわちシャント術が主体になります。
今回大門が行ったのは、腰部くも膜下腔・腹腔短絡術(lumbo-peritoneal shunt、LP シャント術)。
患者さんを側臥位にし、腰部のくも膜下腔と腹腔内をチューブで交通させ、くも膜下腔の脳脊髄液を腹腔内に逃がすルートを作ったのですね。
他にも、同様の目的で、脳室・腹腔短絡術(ventriculo-peritoneal shunt、VP シャント術)や、脳室・心房短絡術(ventriculo-atrial shunt)が行われます。
専門性が高いので詳細は割愛しますが、解剖を復習しておくことで、こうしたシャント術の合理性が理解できると思います。
・認知症にはさまざまな疾患が含まれていることを知っておこう
・正常圧水頭症の三徴(認知障害、歩行障害、尿失禁)を覚えておこう
(参考文献)
【執筆】山本健人 やまもと・たけひと
(外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。2010年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
図表作成/中山佳之(看護師・イラストレーター)、他
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
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