「ドクターX」に学ぶ 入れ墨のある患者さんの対応とよくある事例|けいゆう先生の医療ドラマ解説【23】
医療ドラマを題材に、看護師向けに役立つ知識を紹介するこのコーナー。
今回は、10月から始まった『ドクターX~外科医・大門未知子~』第6シリーズの第5話を取り上げます。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
Vol.23 「ドクターX」に学ぶ 入れ墨のある患者さんの対応とよくある事例
(写真:PIXTA)
今回登場したのは、日本看護師連合会名誉会長の三原雅恵(岩下志麻)。
三原は講演会で看護師らを相手に、
「看護師たるもの患者様のために死ぬ気で働け」
と言って「働き方改革」を否定するなど時代錯誤な考え方で、ロビーですれ違った患者さんの腕の入れ墨を叱りつけるなど、冒頭から患者さんに対しても厳しい姿勢を見せます。
ところが、三原はかねてから背中の痛みがあり、これを疑問に思った大門が、CT検査でダンベル型神経鞘腫があることを指摘します。
精査、手術が必要と判断されますが、三原はこれを拒否。
その理由は、三原の背中にある大きな入れ墨でした。
三原は若い頃に入れた背中の入れ墨を見せたくない、傷つけたくない、という思いから、手術を拒否していたのでした。
冒頭の入れ墨のくだりは伏線で、三原は自分の入れ墨は大切にしつつも、外向きでは看護師としてきちんとしなければ、という強い自分をみせるための行動だったのですね。
「入れ墨を傷つけてはならない」という制限の中で、大門は側方から腫瘍にアプローチするなど、かなりの難題に挑戦することになりました。
さて、実際に入れ墨のせいで、検査や手術を制限されることはあるのでしょうか?
私自身も、入れ墨を入れている患者さんを担当したことは何度もあり、患者さんから、検査等の制限について質問されたことがあります。
看護師の立場からも、知識を整理しておくと安心でしょう。
MRI検査ができない?
脊髄腫瘍の進展範囲を正確に知るためには、MRIを行う必要があります。
しかし、背中の入れ墨のことを知った大門は、「やけどの恐れがあるからMRIは撮れない」と判断し、MRIを行いませんでしたね。
確かに原則としては、入れ墨のある患者さんにMRIは禁忌、ということになっています。
日本磁気共鳴専門技術者認定機構の公式サイトには、MRIに関する患者向けQ&A集(*1)がありますが、そこにも、
アートメイクや入れ墨の着色顔料やインクに金属を含む場合があり、過去に熱傷を生じた事例があることからも一般的には禁忌になっています。
熱を感じた時には、すでに低温火傷を発症している場合があります。
と記載されています。
学会レベルで注意喚起されるような原理原則は、看護師も改めて確認しておいたほうがいいでしょう。
ただし、その後に、
アメリカでは火傷のリスクよりもMRI診断の有用性の方が高いという見解を出していますので、変色のリスクを承知のうえで検査を受けることも考慮してください。
その際に承諾書への署名を依頼する場合があります。
と書かれています。
実際の医療現場では、MRIのメリットが上述のリスクを上回ると判断される場合は、ケースバイケースで撮影している、というのが実情です。
熱傷の報告はあるものの頻度は低いため、検査の必要性が上回ると判断されるかどうかが大切ということです。
患者さんから質問された場合も、こうした一般論を説明するとともに、実際の個別の対応については必要性に応じて医師と相談する、という方向性を伝えるのが望ましいでしょう。
手術の制限は?
今回、大門は三原に、手術での背中からのアプローチを強く拒絶されましたね。
入れ墨を傷つけることを、どうしても三原が受け入れられなかったからです。
私のこれまでの経験でも、入れ墨を入れている患者さんから、
「この部分の皮膚は切らないでほしい」
「ここには点滴しないでほしい」
と細かく希望されたことが何度かあります。
「ドクターX」では、患者さんのこうした希望を100%受け入れつつ、かつ100%安全な手術を提供する、という大門の曲芸のような技術が魅力なわけですが、現実ではやはり、安全性の方が優先です。
切開創の位置は手術のやりやすさを左右する重要な因子で、この制限は手術の安全性に影響します。
安全のためには、患者さんの希望を受け入れられないことある旨を説明し、ご理解いただくほかありません。
また、腕に入れ墨を入れている方から、末梢輸液ラインの挿入位置を指定されることもあります。
輸液ラインが安全に確保できる血管の選択肢が複数ある場合はいいですが、そうでない場合は、やはり医学的な必要性と安全性が優先です。
チーム内で相談、あるいは担当医に相談の上、患者さんに同意をいただく必要があります。
ちなみに私は以前、腹部に龍の入れ墨が入っている方から、
「この龍の目を切るのだけはやめてくれ」
とお願いされたことがあります。
こうした1センチ程度の調整で手術が大きく制限されることはありませんから、このお願いはチーム内で共有し、受け入れました。
医療行為の多くが患者さんの体に傷をつける行為である以上、それぞれ固有の価値観や信条を受け入れ、リスクを考慮した上で判断することが大切でしょう。
・入れ墨のある方へのMRIの制限の原則は知っておこう
・入れ墨に関する患者さんの希望は、チーム内で十分相談の上で受け入れるかどうかの判断を
(参考文献)
*1 安心してMRI検査を受けていただくために|日本磁気共鳴専門技術者認定機構
【執筆】山本健人 やまもと・たけひと
(外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。2010年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医、がん治療認定医 など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
編集/松下淳史(看護roo!編集部)
この記事を読んだ人は、こんな記事も読んでます
▷看護師をお助け!医療情報をわかりやすく発信する“外科医けいゆう先生”ってどんな人?
▷けいゆう先生の医療ドラマ解説~学習はドラマのあとで~【全記事まとめ】
▷【緊急収録】免疫療法について看護師が知っておくべき3つのこと(外科医けいゆう著)
▷コード・ブルーを看護師が観て面白いのは何でなの?鑑賞会をやってみた!【外科医の解説付き】ネタバレあり