NO吸入療法の看護上の注意点は?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「NO吸入療法の看護上の注意点」に関するQ&Aです。
三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任
NO吸入療法の看護上の注意点は?
NOはすみやかに生体に効果を示すため、NO開始・減量・中止時の患者の全身状態変化、副作用の発現を観察し、肺高血圧クライシスに備える必要があります。
〈目次〉
観察のポイント
1開始時
NO吸入療法開始時、NO吸入の効果が得られれば、肺血管抵抗の低下に伴い、肺動脈圧(あるいは中心静脈圧)の低下、血圧の上昇、心拍数の低下、SpO2の上昇などの改善傾向を示す。
左心不全がある症例では、左心負荷増大に伴う左心不全の増悪をきたすため、左心不全徴候の有無を観察する。
2減量・中止時
NO吸入濃度の減量、NO吸入療法の中止時、適応となった病態が残存していれば、肺動脈圧(あるいは中心静脈圧)の上昇、血圧の低下、心拍数の上昇、SpO2の低下などの増悪傾向や、体位変換や気管吸引などの刺激に対する易刺激性を示すため、刺激は最小限にとどめて、これらの徴候を観察する。
面会している家族にも上記のことを伝え、静かに見守るように依頼することも必要である。
NO吸入療法による害
1NO2曝露
NOが酸素と反応すると、強い毒性を有するNO2が発生する。NO2に曝露すると急性気管支炎を生じ、高濃度では肺水腫に至る。
呼吸器排気口から排出されるNOによる医療者への影響を避けるため、活性炭での吸着や中央配管での吸引による対策を行う(図1)。
2PH Crisis(肺高血圧クライシス)
NO2は水溶性で硝酸や亜硝酸を形成する。これらも人体に有毒である。
NO回路接続部には結露水の貯留が生じやすいが、これは有毒であるうえに、水滴が気管内に入り込むことにより、NO適応疾患である肺高血圧症の急性増悪であるPH Crisis(肺高血圧クライシス)*(図2)を誘発することがある。
貯留した水によるNO回路の水封も生じうるため、呼吸器回路、NO回路に貯留した結露水はすみやかに除去する。
ケア時の注意点
呼吸器回路の着脱や気管吸引操作などにより、一時的にNO吸入量が減少もしくは中断すると、高濃度のNO吸入に依存している状態であればあるほど影響は大きくなる。
易刺激性のある症例では、これらの操作を行う前に、鎮静薬のボーラス投与や、吸入酸素濃度を一時的に増加させるなどのPH crisisに備えた対応を行い、これらの操作を行うときは、肺動脈圧(あるいは中心静脈圧)、血圧、SpO2を観察しながら短時間で行うことが求められる。
PH crisisの徴候(中心静脈圧の上昇、血圧の低下、SpO2の低下)を認めた場合には、操作を中止し、NO・酸素による過換気を行い、状況に応じて、鎮静薬、重炭酸ナトリウム、輸液などによる対応が必要となる。
NOは血小板凝集抑制作用を有しており、出血傾向をきたす恐れがある。患者の凝固能や血小板数、貧血の有無を把握するとともに、気管分泌物の性状、皮膚・粘膜所見、消化管出血所見、神経学的所見などを観察する。
- PH Crisis(pulmonary hypertensive crisis):肺高血圧クライシス
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社