人工呼吸管理中の目標カロリーは、どうやって決める?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「人工呼吸中の目標カロリー」に関するQ&Aです。

 

清水孝宏
那覇市立病院看護部看護師長

 

目標カロリーは、どう決める?

 

間接熱量計によって目標カロリーを算出する方法もありますが、「25kcal/kg」という推算式を用いて目標カロリーを算出するのが一般的です。

 

〈目次〉

 

目標カロリーの算出

健常者では、Harris-Benedictの式や間接熱量計による必要エネルギーの算出が可能である。

 

人工呼吸器を装着している患者に対する適切な必要エネルギーの算出には限界がある。なぜなら、高濃度酸素投与の影響や、重症患者であればカテコラミンなどの薬剤、内因性エネルギーの消費などが影響する可能性があるためである。

 

必要エネルギーの算出法

一般的に広く用いられるのは「25kcal/kg」といった簡便な推算式である。

 

Harris-Benedictの式(『なぜ、人工呼吸管理中に栄養管理を行うの?』)も多く用いられている。

 

1Harris-Benedictの式

Harris-Benedictの式で算出したBMR(基礎代謝率)に活動因子と傷害因子を乗じ、必要エネルギーを算出する方法である。

 

下記に、60歳男性、身長165cm、体重50kgの患者の例を示す。

 

〈例:60歳男性、身長165cm、体重50kgの患者〉

BMRをHarris-Benedictの式で算出すると1173.37kcalとなる。

 

ベッド上安静ならば、BMRに1.2を乗じる。

 

中等度の手術ならば、さらに1.2~1.4を乗じる。

 

すると、必要エネルギーは1689~1971kcalとなる。

 

2推算式

以下に、推算式25kcal/kgで、上記の患者の必要エネルギーを算出した例を示す。

 

〈例:60歳男性、身長165cm、体重50kgの患者〉

BMRを推算式25kcal/kgで算出すると、1250kcalとなる。
 [25(kcal/kg)×50(kg)=1250kcal]

 

ベッド上安静ならば、BMRに1.2を乗じる。

 

中等度の手術ならば、さらに1.2~1.4を乗じる。

 

すると、必要エネルギーは1800~2100kcalとなる。

 

つまりHarris-Benedictの式のBMRと、推算式で計算したカロリーの差は77kcalとわずかであるが、活動因子や傷害因子を乗じる(加える)と、最大411kcalの差が生じ、過剰なカロリーになる恐れがある。

 

実臨床での目標設定

上記の患者の例で考えると、30kcal/kg/日は1500kcalとなる。術後の状態が安定していれば傷害因子(1.2~1.4)を乗じることもないので、Harris-Benedictの式でも1406kcalとそれほど差はなくなる。

 

初めから目標を高く設定するのではなく、全身状態を十分に観察したうえで、徐々に目標に近づけていくような栄養管理が重要である(表1)。

 

表1侵襲時のエネルギー投与

 

  特徴 栄養投与量
急性期 ショック状態
例)ノルアドレナリン0.2γドーパミン5γ以上 細胞外液補充にて循環維持
ショック離脱、循環維持優先
超急性期Ⅱ ショック状態を脱したころ
例)尿量が0.5mL/時以上 カテコラミンが超急性期Ⅰ以下
6〜15kcal/kg/日
亜急性期
回復期
呼吸循環が安定し、利尿が得られ、浮腫が軽減する時期 25〜30kcal/kg/日
慢性期 CRP(C反応性タンパク)が低下(3〜5mg/dL)し、Alb(アルブミン)の上昇がみられる。同化期 25〜30kcal/kg/日
必要に応じ増量

 


[文献]

  • (1)飯干泰彦,岡田正:腸粘膜萎縮の病態とその対策静脈栄養時にみられる腸粘膜の形態学的変化.JJPN1995;17:459-462.
  • (2)氏家良人,海塚安郎,佐藤格夫,他:急性呼吸不全による人工呼吸患者の栄養管理ガイドライン2011年版.人工呼吸 2012;29:75-120.
  • (3)McClave SA, Martindale RG, Vanek VW, et al. Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM)and AmericanSociety for Parenteral and Enteral Nutrition(ASPEN). JPEN 2009; 33: 277- 316.
  • (4)Clinical Evaluation Research Unit:Practice Guideline 2013, http://www.criticalcarenutrition.com(2014年11月18日閲覧).
  • (5)Singer P, Berger MM, van den Berghe G, et al. ESPEN Guidelines on Parenteral Nutrition: intensive care. Clin Nutr 2009:28:387-400.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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