人工呼吸中の栄養管理方法には、どんなものがあるの?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「人工呼吸中の栄養管理方法」に関するQ&Aです。

 

清水孝宏
那覇市立病院看護部看護師長

 

栄養管理方法には、どんなものがあるの?

 

経腸栄養と静脈栄養が主な栄養管理の方法です。
経腸ならば経または経空腸、静脈ならば末梢静脈と中心静脈が栄養管理の主な投与ルートです。

 

〈目次〉

 

第一選択は経腸栄養

栄養管理の方法を図1に示す。

 

図1栄養管理の方法

 

A.S.P.E.N. Board of Dinectors. Guidelines for the Use of Parenteral and Enteral Nutrition in Adult and Pediatric Patients. JPEN1993;17:1SA-52SA.

 

人工呼吸管理中に限らず、消化管を使用できるのであれば消化管を第一選択とすることが重要である。

 

栄養の消化吸収を担う小腸には、絨毛といわれる栄養を吸収する部分がある。この絨毛下には、多数のリンパ組織が存在し、これを総称しGALT(ガルト:腸管関連リンパ組織)と呼んでいる。

 

GALTには、T細胞やB細胞マクロファージや免疫グロブリンなどを産生する組織がある。つまり消化管は、体内の免疫機構で最も重要な役割を担う部分といえる。

 

経腸栄養は、消化管が免疫機構として十分な役割を担うために、重要な役割を果たしている。

 

静脈栄養のみで7日間管理されたラットの空腸を観察した研究では、絨毛の萎縮が見られている。

 

絨毛の萎縮はGALTの機能を低下させると考えられ、さらに消化管内に存在する多数の細菌がリンパ管を介して血液に侵入する現象が起こりうる。これをbacteria translocation(バクテリアルトランスロケーション)と呼んでいる。

 

人工呼吸管理中の患者の多くは、免疫力が高い状態ではないことが想定される。

 

bacteria translocationは、敗血症の合併など新たな侵襲を引き起こす原因となる。そのため、消化管が使用できる状態であれば、積極的に消化管を用いた経腸栄養を行うことが勧められている。

 

消化管が使えなければ静脈栄養

消化管出血や腸閉塞、激しい嘔吐下痢などにより、消化管が使用できない場合もある。

 

7日以内と短期間であれば、末梢静脈栄養をゆっくりと開始し、7日以上と長期間の静脈栄養管理が行われる場合は中心静脈栄養の適応となる。

 

静脈栄養は、血管内カテーテル由来感染や静脈炎、高血糖など、経腸栄養に比較すると合併症が多いため、慎重に投与計画を検討しなければならない。

 

略語

 

  • GALT(gut-associated lymphoid tissue):腸管関連リンパ組織

[文献]

  • (1)飯干泰彦,岡田正:腸粘膜萎縮の病態とその対策静脈栄養時にみられる腸粘膜の形態学的変化.JJPN1995;17:459-462.
  • (2)氏家良人,海塚安郎,佐藤格夫,他:急性呼吸不全による人工呼吸患者の栄養管理ガイドライン2011年版.人工呼吸 2012;29:75-120.
  • (3)McClave SA, Martindale RG, Vanek VW, et al. Guidelines for the Provision and Assessment of Nutrition Support Therapy in the Adult Critically Ill Patient: Society of Critical Care Medicine (SCCM)and AmericanSociety for Parenteral and Enteral Nutrition(ASPEN). JPEN 2009; 33: 277- 316.
  • (4)Clinical Evaluation Research Unit:Practice Guideline 2013, http://www.criticalcarenutrition.com(2014年11月18日閲覧).
  • (5)Singer P, Berger MM, van den Berghe G, et al. ESPEN Guidelines on Parenteral Nutrition: intensive care. Clin Nutr 2009:28:387-400.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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