シャントを観察する際、どんな点に注意すると異常が見抜けますか?

『エキスパートナース』2013年10月号<看護ケアのQ&A>より抜粋。
シャントの観察について解説します。

 

 

坊坂桂子
元 湘南鎌倉総合病院血液浄化センター

 

シャントを観察する際、どんな点に注意すると異常が見抜けますか?

 

シャントの役割を理解し、「狭窄」「閉塞」「感染」に注意して見る・触れる・聴くことで、異常を見抜きましょう。

 

〈目次〉

 

シャントとは

シャントは、腎不全の患者が血液透析を行うためになくてはならないものです。バスキュラーアクセス(VA)ともいい、動脈と静脈を、手術で直接つないで作製します。

 

シャントには、以下の3種類があります。

 

  1. 自己血管によるシャント(arteriovenous fistula、AVF)
  2. 人工血管によるシャント(arteriovenous graft、AVG)
  3. 動脈表在化*1

日本では自己血管によるシャントが最も多く、作成部位は、主に橈骨動脈と橈側皮静脈を用いた前腕末梢が選択されます1

 

このシャント血管に毎回針を刺して人工腎臓へ血液を送り出し、体外循環することで透析療法が行われます。安定した透析療法を行うには、シャントの状態が重要です。

 

メモ*1動脈表在化

正式にはシャントではなく、皮膚の上から触れやすいように動脈血管を周辺組織から剥離し、筋膜上に移動し固定したもの。シャントをつくると心拍出量が増えるため、心機能が低下している場合や血管の荒廃が著しい場合に選択される。動脈血管でであるためシャント音は聴こえないが、拍動を触知して確認する。

 

「見る」「触れる」「聴く」が観察の基本

シャントでは動脈と静脈のつなぎ目を吻合部といいます。シャント血流の大半はそこから身体の中枢へと向かうため、この点を念頭に置いて観察を行いましょう。

シャントの観察

 

シャントの観察のポイントは、目で見て、手で触って、聴診器で音を聴くことです。見抜きたいのは以下の3点です。

 

1狭窄

血管の一部が細くなっている状態で、シャントから必要な血液量が得られなくなります。

狭窄

 

原因

血管内膜の肥厚、硬化、瘢痕や血栓形成、血管周囲の血腫形成による圧迫など

 

見る

  • くびれ、分岐はないか
  • 血管の張りは強いか、弱いか
  • 瘤の急激な成長で、皮膚がテカテカしていないか
  • 腫脹・硬結ができ、シャント血管を圧迫していないか
  • シャント側肢の腫脹や、周囲静脈の怒張がないか
  • エコー血流測定でAVF500mL/分以下は機能不良(通常は500mL~1000mL。多すぎても心不全のリスクが増加)2
  • 透析療法中の異常
    ▽脱血不良
    ▽静脈圧上昇
    止血困難
    ▽再循環*2

 

メモ*2再循環

浄化された血液が再び体内に戻される際に、何らかの原因により再び脱血され、透析効率が悪くなる。返血側の中枢側の狭窄、脱血側と返血側の距離が近すぎる、シャント血流量が少ないなどが原因。

 

触れる

  • くびれ、分岐はないか
  • 血管の張りは強いか、弱いか
  • 同一部位の頻回穿刺による血管の消耗はないか
  • スリル(振動)が弱くないか

 

聴く

  • ヒューヒューという高音がないか
  • ザッザッという短音・拍動音がないか
  • 音が弱い、小さい

 

2閉塞

シャント血管の血流が途絶している状態です。そのままでは透析療法を行うことができないため、早急な外科的処置が必要となります。

 

原因

血流低下、急激な血圧低下や脱水、凝固能亢進、血管周囲の血腫形成による圧迫など

 

見る

  • 血管のボリュームが減っていないか

 

触れる

  • スリル・拍動がまったくない
  • 拍動はあるがかなり弱い
  • 血管が硬くなっている
  • 圧痛がある

 

聴く

  • 音がない

 

3感染

シャント血管およびその周囲、全身に感染症症状が現れることです。

感染

 

自己血管によるシャントに比べ、人工血管によるシャントのほうが感染率は高く難治性で、処置が遅れると敗血症となり、生命の危機に至る非常に重篤な合併症です。

 

排膿がある場合は培養を行います。吻合部に近い感染では1日で波及し破裂する危険性があるため、すみやかに外科的処置を行う必要があります1

 

原因

穿刺・抜針時の不潔操作、皮膚かぶれや不潔、免疫低下などの全身状態の悪化

 

見る

  • 局所の熱感、圧痛はないか
  • 皮膚の脆弱さがないか

 

触れる

  • スリル・拍動がまったくない
  • 拍動はあるがかなり弱い
  • 血管が硬くなっている
  • 圧痛がある
  • 排膿がある

 

聴く

  • 音は聴こえるか

 

トラブル予防のポイント

狭窄、閉塞、感染の予防には、以下が重要です。

 

1狭窄・閉塞

  • シャント血管を圧迫しない(血圧測定を行う位置、手枕、腕時計、かばんを掛ける位置などに注意)
  • 血圧の急激な低下を避ける
  • 体液量の極端な増減を避ける
  • 患者がシャントの管理をできるよう指導する

 

2感染

  • シャント肢での採血、点滴など透析以外の穿刺を避ける
  • 透析穿刺時の確実な清潔操作
  • 皮膚を清潔にする
  • かぶれ、乾燥など皮膚の異常をケアする
  • 栄養状態を改善する

 

シャント異常時には、患者の不安への配慮も必要

シャントの状態を毎日観察し、記録することで、透析室だけでなく他部署のスタッフとも情報共有ができます。

 

また、患者教育も重要です。狭窄・閉塞時はインターベンション治療や外科的治療が必要ですが、患者の訴えで早期に異常を発見・対応できれば大事に至らず、同じシャント血管を長く使用することもできます。

 

シャントの異常はスタッフにとって重大なできごとですが、患者には身体状態のつらさに加えて、不安や恐怖感など精神的負担が生じます。シャントばかりに注目するのではなく、患者の身体面・精神面・社会面にも目を向けましょう。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)日本透析医学会:2011年版慢性血液透析用バスキュラーアクセスの作製および修復に関するガイドライン.透析会誌2011;44(9):921.
  • (2)赤松眞編:バスキュラーアクセス完全マスターガイド.透析ケア2010;208:18-19,133.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2013照林社

 

P.20~「シャントを観察する際、どんな点に注意すると異常が見抜けますか?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2013年10月号/ 照林社

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